「Henceforth」で繰り返される歌詞
音楽プロデューサーであるOrengester、またの名を蜜柑星P。音楽をメインにした楽曲が特徴の独特な世界観を持つOrengesarは、過去にリリースしたアルバムにも多くのインスト曲が収録されています。
2017年に突然の活動休止を発表。約2年間の休止期間を終え、2020年に音楽活動を再開しました。
そんな彼が活動再開後、初のボカロ曲として投稿したのが『Henceforth』という楽曲。
2020年5月に投稿後、ニコニコ動画では約3日で殿堂入りを達成し、マイリスト登録は2020年12月現在で1万を超えています。YouTubeでは約4日で100万回再生を突破しました。
動画サイトでの驚異の再生スピードから、多くの人々がOrengestarの復活を待ち望んでいたことがわかりますね。
夏をテーマに疾走感あるさわやかなメロディーと、聴き手に語りかけているような歌詞に新たにハマる人も続出中。
またサビ部分ではかなり高いキーであるにもかかわらずカラオケ配信後、男女共に人気の高い楽曲にもなっています。
そんな人気絶頂のボカロ曲『Henceforth』。
活動休止と共に発表された「快晴」の投稿から約2年が経ち、現在のOrangestarの心境と彼の思い描く「これから」とは。
今回は待望のボカロ最新曲『Henceforth』の歌詞に込められた意味を探っていきましょう。
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あぁ 君はもういないから
私は一人歩いている
あぁ 腐るよりいいから
行くあてもなく歩いている
≪Henceforth 歌詞より抜粋≫
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『Henceforth』では、フレーズやメロディーの繰り返しが特徴的です。
特に歌詞の中で何度も繰り返される「あぁ」というフレーズ。
一つ一つ音程が異なりその都度「あぁ」から伝わってくる感情が変化していきます。
冒頭ではピアノが印象的なインスト部分から「あぁ」というIAの低い呟く声で始まります。
そして「君はもういないから 私は1人歩いている」と続くことから、主人公である「私」は独りでいる様子。
ここで出てくる「君」は、かつての友人、同じ夢を見ていた仲間なのでしょうか。
またはOrengestar自身のことを綴っているのであれば、活動休止前に彼の曲を聴いていたファンにも解釈できます。
昔のようにまた曲を聴いてくれるだろうかという彼の不安な気持ちを表しているのでしょうか。
主人公が独り歩く姿が、一度離脱した場所から再度歩き始めた彼の姿に重なります。
「腐るよりいいから 行く当てもなく歩いていく」という歌詞は、昔のように自分の楽曲を聴いてくれる人がいなくても、腐らずにとにかく前に進もうという彼なりの決意の表れなのではないでしょうか。
不安の中、ただひたすら前に足を運ぶ主人公。
この後どうなっていくのでしょうか。続く歌詞を見ていきましょう。
「Henceforth」の中で語られるこれから
楽曲名である英語の『Henceforth』とは和訳すると「今後、これから」という意味。
それを表すかのようにOrangesar自身が考えるこれからやその中で不安を抱える心境も赤裸々に綴られています。
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あぁ これからはそうだな
何も求めずに生きていく
あぁ お金よりいいでしょ
これで何も失わないね
あぁ! 泣くな空、心配ない!
終わりのない夜はないね
あぁ 闇はただ純粋で
恐れてしまう私が弱いだけ
≪Henceforth 歌詞より抜粋≫
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以前のような生活を求めていては疲弊するばかり。期待していると裏切られた時の衝撃が大きく感じられるように、求めなければ失うものはないと諭しているかのようです。
続く歌詞の「あぁ!泣くな空、心配ない!」という部分はまるで本当に焦っているかのような歌声が印象的ですね。
「お天道様は見ている」という言葉があるように、空は時々神や仏を比喩する言葉として引用されます。
混沌の地で彷徨う「私」の姿を見た空がまるで不安を察知し「私」の代わりに泣いているかのよう。
そんな天からの情けに「心配ない!」と声をかけたのでしょう。
「あぁ 闇はただ純粋で 恐れてしまう私が弱いだけ」という歌詞では、闇を恐れてしまう心理の核心に触れています。
先の見えない暗闇は、恐怖心を増幅させ人々の行く手を阻みます。
しかしその恐怖心は自分自身が作りだしているもの。
闇そのものが作り出しているわけではありません。
闇を怖いと思うかどうかはその人次第。
人間の本質を付いた歌詞に気づかさせる人も多いのではないでしょうか。
力強く叫ぶ主人公の言葉に込められた歌詞の意味
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あぁ! 夏を今もう一回
君がいなくても笑って迎えるから
だから今絶対に君も歩みを止めないで
≪Henceforth 歌詞より抜粋≫
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サビでの「あぁ」には、感嘆符がついています。これまでの中でも一番力強さが感じられますね。
まるで空に向かって叫んでいるかのような力強い歌声がより一層曲を盛り上げます。
続く歌詞では「君」と一緒にいられなくても同じ空の下にいる限り仲間「だから今絶対に君も歩みを止めないで」というOrengestarからの力強いメッセージが伝わってきます。
彼の聴き手を想う優しさが垣間見える歌詞ですね。
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あぁ! それだけの心臓が
絶え間なくアオく光を願うから
仕方なくもう一回
変わらぬ今日を征くんだよ
何度でも
≪Henceforth 歌詞より抜粋≫
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「それだけの心臓が絶え間なくアオく光を願うから」という歌詞から、何よりも主人公自身が続けていきたいと思っていることがわかります。
「変わらぬ今日を征くんだよ」という歌詞の「征く」は、目的に向かって真っすぐ向かう意味。
また旅に出たり、遠くへ行く場面でも使われる漢字であることから、冒頭の「行く当てもなく歩いて」いた「私」が、前向きな気持ちに変化したことを表しているのではないでしょうか。
今すぐに状況は変わらないけれど、いつか訪れる最良の日々に向かって進む前向きな気持ちが伝わります。
歌詞フレーズ「抜ける」の意味とは
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あぁ 夏風邪 悪い夢
見果てた希望 淡い残像
あぁ このままじゃ辛いかな
≪Henceforth 歌詞より抜粋≫
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2番は「あぁ」という気だるそうな声で始まります。
「夏風邪」や「悪い夢」というワードから、主人公に思わぬハプニングが降りかかり、なかなか思うように先に進めないようです。
新しい世界へ踏み込む前に思い描いていた未来とは違い、その頃胸に抱いていた希望が「淡い残像」のようにくすぶっているだけの現状。
もういっそ辞めてしまおうかと考えるも、心の奥でくすぶる希望は完全には消えません。
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って繰り返してもまた願うから
読み返しても嘘はないから
踏み出したら振り返らぬよう
何もないけど旅は順調で
「君はその夢をもう一回」
≪Henceforth 歌詞より抜粋≫
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「読み返しても嘘はないから」という歌詞から、主人公がこれまで辿ってきた過去の様々な場面を思い返し、今一度気持ちを確かめているようです。
またOrebgestar自身を重ねて考えてみれば、過去の楽曲に込めた想いは、嘘偽りなくその時の想いそのものだったと現在のファンに伝えているようにも解釈できます。
順調に歩めているのだから大きな変化や輝かしい功績はなくても、多くを求めずに進んでいこう。
そう決心した主人公は、闇の中に出口の光を見つけだします。
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長い長い闇を抜ける
抜ける
≪Henceforth 歌詞より抜粋≫
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ここの「抜ける」という歌詞は、一言ずつ音程が異なっていますね。
まるで主人公が呟きながら出口まで走っているかのよう。
そして最後の「抜ける」という甲高い突き抜けた声で、主人公がついに闇を突破します。
力強い歌声と疾走感あるメロディーで魅せるこの場面は、まるで映画のワンシーンのよう。
壮大な演出は、聴いていて鳥肌が立ちますね。
Orangestarが「Henceforth」で伝えたかったこと
全体的に主人公の「私」が聴き手である「君」に語りかけるような歌詞でした。
毎回違うニュアンスの「あぁ」というフレーズからわかる主人公の感情の変化から、主人公の成長する姿を見ることができました。
また主人公にOrangestarである自分自身を重ねているかのような表現も多かったように思えます。
『Henceforth』は、心を新たに進んでいこうと決めた彼のこれからを歌った楽曲なのではないでしょうか。
活動を心待ちにしていたファンへのメッセージ、あるいは彼と同じようにこれから新たな夢や仕事を始めようとしている人への応援歌なのかもしれません。
OrangestarのボカロPとしての活動名は蜜柑星Pで、読み方は「みかんせい」。
「未完成」という意味で楽曲のテーマにも使われている言葉です。
次々とヒット曲を生み出すことから時々ボカロ界のスターである存在だと言われるOrangestarですが、この楽曲を通して彼の新たな一面を見れたような気がします。
彼もまた夢に向かって歩き続けるいまだ未完成な旅人なのでしょう。
未完成でいい、新しい世界を独りで歩くのが怖いなら一緒に征こう、そんな彼からの言葉が聞こえてくるようです。
TEXT マチオカ アム
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