アニメ「鋼の錬金術師」の初代主題歌はハーブの名前と花言葉に由来
アニメ『鋼の錬金術師』の第1期オープニングテーマのタイアップ曲として、絶大なる人気を誇るポルノグラフィティの『メリッサ』。
作品のストーリーとリンクする歌詞は、切なさと激しさの両面をあわせ持っています。
タイトルの「メリッサ」とは、ミツバチやハチミツを意味するギリシャ語の単語です。
しかし、この楽曲では植物の名前として登場します。
ミツバチを引き付けるシソ科のハーブ、英語圏ではレモンバームと呼ばれる花の別称としても、「メリッサ」という言葉が用いられているのです。
作詞を担当する新藤晴一が辞書を開いて偶然見つけたフレーズで、同じくタイトルの候補に上がっていた「メッセ」と似ていて、なおかつ響きの良い言葉ということで、「メリッサ」という曲名に決まったそうです。
偶然とはいえ、メリッサは古代ギリシャの時代から長寿をもたらすハーブとして知られ、「思いやり」や「同情」という花言葉を持っているので、聴く人の心を労わるようなこの楽曲にぴったりのタイトルでしょう。
MVではボーカルの岡野昭仁がピエロ、ギターの新藤春一が騎士、ベースのTamaが学者を演じており、とてもクールな仕上がりになっています。
アニメのストーリーに合わせて「自己犠牲」をテーマに描いたという歌詞の内容と意味を、詳しく考察していきましょう。
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君の手で切り裂いて 遠い日の記憶を
悲しみの息の根を止めてくれよ
さあ 愛に焦がれた胸を貫け
≪メリッサ 歌詞より抜粋≫
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印象的なサビから、楽曲の主人公は深い悲しみの中にいると解釈できますね。
どうやらその悲しみの原因は「君」であり、「愛に焦がれた胸を貫け」と願っているようです。
家族や恋人のような愛する存在を過去に傷つけたことがあり、その悲しみから抜け出せずにいるのでしょう。
いっそ傷つけてくれた方が楽だと、訴えているのではないでしょうか。
ミツバチを集め人を癒すメリッサの葉になりたい
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明日が来るはずの空を見て 迷うばかりの心持てあましている
傍らの鳥がはばたいた どこか光を見つけられたのかな
なあ お前の背に俺も乗せてくれないか
そして一番高い所で置き去りにして優しさから遠ざけて
≪メリッサ 歌詞より抜粋≫
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彼がぼんやりと空を眺めている様子が描かれています。
何をするにも迷ってばかりで、目的を持って羽ばたいて行く鳥の意思や、自由さを羨んでいる様子。
自分から行動するのが苦手な彼は、鳥の背に乗ってここではないどこかへ飛んで行くことを想像しています。
しかし、自由になることを求めている訳ではなく「優しさから遠ざけて」もらうためのようです。
自身が過去の罪に苦しみ続けている一方で、周囲は彼に優しく接してくれているのでしょう。
犯した過ちを悔いている人は、時に責められるよりも優しくされる方がつらく感じることがあるのかもしれません。
彼も、誰の目にも触れず甘えの許されない場所に置き去りにしてほしいと考えるほど、精神的に追い詰められていると考察できます。
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鳥を夕闇に見送った 地を這うばかりの俺を風がなぜる
羽が欲しいとは言わないさ せめて宙に舞うメリッサの葉になりたい
もう ずいぶんと立ち尽くしてみたけど
たぶん答えはないのだろう この風にも行くあてなどないように
≪メリッサ 歌詞より抜粋≫
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飛んで行った鳥は夕闇に消え、残された彼は変わらず同じ場所で立ち尽くしています。
「羽が欲しい」という大それたことは願わなくとも、「宙を舞うメリッサの葉になりたい」と考えています。
メリッサは爽やかな香りでミツバチを呼び、豊かな効能で人の傷を癒す植物です。
その場にあるだけでも誰かの心を癒すことができるのに、風に吹かれて飛んで行く自由ささえ持っています。
迷うことなくどこへでも自由に行動して、愛する人や優しくしてくれた人たちの癒しになりたいという気持ちには、彼の純粋な愛情や優しさが表れているのでしょう。
そうして、彼はふと自分の迷いが意味のないものだと気づきます。
羽のない人間は風に乗れない代わりに、風が吹かずとも地面を歩いて行きたい場所へ行けます。
行動する意欲さえあれば、思い通りの場所へ行くことも、愛する人を癒やすこともできるのです。
鍵をかけておきたいものの解釈とは
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君の手で鍵をかけて ためらいなどないだろ
間違っても 二度と開くことのないように
さあ 錠の落ちる音で終わらせて
≪メリッサ 歌詞より抜粋≫
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今度は彼は「君」に対して、鍵をかけてほしいと願います。
「間違っても二度と開くことのないように」という表現から、固く閉じ込めておきたいものがあるようです。
冒頭のサビが彼自身への攻撃を求めていたことから、ここでの閉じ込めたいものは自分自身であると解釈できます。
自分一人でどこかに行くことはできない臆病な彼は、愛する人の手で孤独に追いやってほしいのです。
そして、過去にされたことを思い返せば、ためらいなくできるはずだと考えているのでしょう。
どんな結末も受け入れる覚悟があるのは、それほどまでに相手を愛しているから。
しかし、「君」が彼の願いに答えないのもまた、彼を愛しているからではないでしょうか。
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救いのない魂は流されて消えゆく
消えてゆく瞬間にわずか光る
今 月が満ちる夜を生み出すのさ
≪メリッサ 歌詞より抜粋≫
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決断しない「君」を諭すように、彼は自身の過ちを思い出させます。
罪を犯した「救いのない魂は流されて消えゆく」だけなのだから、気に病む必要はないと訴えているようです。
月はその満ち欠けの様子から、死者の魂が向かう場所とされています。
命を終えて月になったなら、一瞬の光としてでも愛する人を照らす存在になれる。
何もできない自分を悔やむよりも、たとえわずかでも人のためになりたいという考え方は、とても美しいものでしょう。
切なさの残る歌詞ですが、強く人を愛する気持ちは現実を受け入れて行動するための原動力になることが伝わってきます。
愛を持って前進する力をもらえる名曲
ポルノグラフィティの『メリッサ』は、アニメの登場人物たちのキャラクター像と重なる歌詞でありつつ、現代を生きる人の心まで奮い立たせてくれるようなパワーのある楽曲です。
誰もが愛する人にまつわるつらい過去や、忘れたい記憶を持っているでしょう。
それらを完全に捨てることは叶いませんが、それでも前を向いて未来に向かって歩き続けられるところに人の強さがあるのではないでしょうか。
生きている限り、どんな困難にも諦めずに立ち向かっていこうとする決意が強まるはずです。