「うっせぇわ」で話題沸騰中のAdoが歌唱
ボカロPであるくじらの6作目『金木犀』。2019年に『金木犀/flower』と『金木犀 feat Ado』の2曲が同時公開されました。
また、2020年10月にリリースしたくじらのファーストフルアルバム『眠れない夜にカーテンをあけて』にも、ボカロバージョンとAdo歌唱バージョンの2曲が収録されています。
『うっせぇわ』で人気急上昇中のAdoが歌っていたことからも、現在再び注目を浴びている楽曲です。
モード感漂うシティポップ調と意味深なエモい歌詞には、一体どんな物語が隠されているのか考察していきましょう!
最初の英語はスティーブジョブズの名言だった
まず最初に、MV動画冒頭の一瞬だけ表示される英語について触れていきます。「If today wer the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?」
直訳すると「もし今日が人生最後の日だとしたら、今日これからやろうとしていることをやりたいだろうか?」という意味になります。
これはアップル社の共同設立者として有名な実業家スティーブ・ジョブズの名言です。
また、一瞬だけ映される文章はもう1つ存在します。
それは最初のサビ後の間奏中、1分26秒あたり。
MV動画に描かれた金木犀柄の洋服を着た女性の背景に、一瞬だけ現れる日本語で書かれた長文。
女性の姿に隠れている部分もあり全てを読み取ることはできませんが、これは恐らく主人公の心情や曲中の物語に関することが綴られていると思われます。
今回はこの最初の英語と一瞬だけ映る長文も交えて歌詞の意味を考察していきます。
それでは、歌詞をみていきましょう。
主人公の何気ない日常
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今になって答え合わせ
そんなのどうでも良くて
憂いの波は寄せては返す
落ちてた吸殻はいて
地面に這った記憶を拾い集めてる
≪金木犀 歌詞より抜粋≫
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「今考えればあれは間違いだった」と過去の言動に思考を巡らせるも無気力な様子の主人公。
「憂いの波は寄せては返す」という歌詞からも、主人公の気持ちには波があり不安定な様子が想像できます。
たばこの吸殻のようにただ消化されていく毎日。
吸殻に埋もれてしまった過去の記憶を主人公は一つ一つ丁寧に拾い集め、思い出しているようです。
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味のないクッキーコインランドリー
バカみたいなハンバーガー
落書きだらけの排気管
胸が苦しい さよなら
つり革を握ってるあなたの手は
温もりを忘れた
≪金木犀 歌詞より抜粋≫
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味のないクッキーやコインランドリーなど、歌詞から垣間見える主人公の日常。
こうした何気ない日々に胸を痛めながらも別れを告げています。
そして主人公は目的地に向かうため、電車に乗り込んだようです。
電車に揺られている中で、ふと目に入ったつり革を握ってる手。
力なく電車に揺られるその手は、まるで人の温もりを忘れてしまったかのよう。
そう見えたのは、主人公が期待をすることを諦めてしまい、人の温もりを忘れてしまったからなのかもしれません。
恋人に別れを切り出す主人公
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夕暮れに置いてかないでレコードが回るあの日を
空は揺らいだ幸せな生活も
金木犀の匂いも私もこのままもう一回
さよなら
≪金木犀 歌詞より抜粋≫
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MV動画の1秒26分に出てくる長文の中に「別れよう?」という一文があります。
その一文から推測するに、どうやら主人公は恋人に別れを切り出しているようです。
サビの「夕暮れに置いてかないで」という歌詞は、恋人に見限られてしまうかもしれないという恐怖心から出た言葉なのかもしれません。
また恋人のみならず、主人公はこの世界から取り残されてしまったような感覚に陥っているのではしょうか。
この途方もない寂しさを「夕暮れ」で表現しているこの歌詞は、かなりエモいですね。
「金木犀の香りも私もこのまま」という歌詞から、金木犀の甘い香りが毎年変わらず漂うように、恋人の心も自分も変えることはできないのだと悟ります。
置いていかれるくらいなら、全てを壊してしまおう。
そうして、主人公は恋人にもさよならを告げます。
金木犀の香りに誘われて
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窮屈な窓辺の端に空いた半透明
遠い誰かが私を照らしてる
埋まんない穴どうしよう
なんて踏切は今日も泣いてた
そんな気がした
≪金木犀 歌詞より抜粋≫
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2番の歌詞からは、主人公の深い孤独感が切ないほどに胸に迫ってきます。
「埋まんない穴どうしよう」という歌詞から、主人公が孤独を埋めようと葛藤している様子。
恋人と幸せな生活をしていても埋まらないその穴は、きっと自分で埋めなくてはならない部分なのかもしれません。
しかし、自己愛の低さから、自分で穴を埋めるのは困難なようです。
また「踏切は今日も泣いていた」という歌詞から、何度も踏切に訪れていたのでしょうか。
主人公が覚悟を決めて踏切に近づいていることに、気が付いた周囲の人がいるようです。
遠くから誰かが照らしていると主人公も気配を感じているようですが、その光は深い孤独の中にいる彼女まで届くことはありませんでした。
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金木犀の匂いも私もこのまま
もういっか、さよなら
≪金木犀 歌詞より抜粋≫
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MV動画の1秒26分に出てくる文章の最後に「心を抱きしめて線路へ」と書いてあることから、ラストのサビでは主人公が線路に踏み出した場面だと解釈できます。
なぜ主人公は線路に踏み入ってしまったのか。
そのヒントは金木犀の花言葉にあるのではないでしょうか。
金木犀の花言葉には「誘惑」や「隠世(かくりよ)」という、少し怖い意味を持つ言葉が存在します。
「隠世(かくりよ)」とは永久に変わらない神域のこと。また、死後の世界もそこにあると言われています。
金木犀の強い香りを魔除けとしても使っていたことから、こういった少し怖い花言葉がつけられたようです。
「もういっか。さよなら」と言葉を残したのは置いていかれることを恐れた主人公が恋人の気を引きたいがために起こした行動なのか、それとも何一つ変えられない自分や世界に絶望したからなのか。
はたまた、金木犀の甘い香りに誘われてしまった、ということなのでしょうか。
生きづらさを抱えた女性の物語
「もしも今日が人生最後の日だとしたら、今日やろうとしていることをやりたいと思うだろうか?」
冒頭に出てきたスティーブ・ジョブズの名言。実はこの言葉にはまだ続きがあります。
「NOと答える日が何日も続くのであれば、何かを変えなければならないということだ」
癌を宣告され死を身近に感じていた彼は、毎日この言葉を鏡に映る自分に言い聞かせていたと言います。
『金木犀』の歌詞に綴られている物語は、ひょっとすると主人公の最期の日を描いているのかもしれません。
生きづらさを抱え生きてきた主人公。
そんな今を変えたいと、全てを捨てて行動を起こします。
そして一歩踏み出した線路の上で未来が変わるその時を、ただじっと待っているのはないでしょうか。
『金木犀』の歌詞の意味を深く読み解いていくと、生きづらさを抱えた女性の人生の物語が見えてきました。
冒頭の英文や間奏時の長文などをさらに読み解いていけば、もっと深い考察ができるかと思います。
そこからまた別の側面が見えてきて、物語もガラッと変わるかもしれませんね。
気になった方はぜひ『金木犀』の歌詞をチェックしてみてください。