「進撃の巨人」最終章のOP曲が怖い?
『僕の戦争』は2020年12月6日から放送されているテレビアニメ『進撃の巨人 The Final Season』のオープニングテーマです。
神聖かまってちゃんが『進撃の巨人』のテーマソングに起用されるのは、シーズン2のエンディングテーマ『夕暮れの鳥』に続いて2曲目。
今回は制作サイドから「映画音楽みたいな壮大な曲」で「神聖かまってちゃんといえばコレ、みたいな曲をください」と依頼されたそうです。
その要望通り、ボーカルの子こだわりの聖歌隊を用いた壮大かつ不気味さと怖さが漂う楽曲となっていて、世界中のファンを虜にしています。
教室で機関銃を手にした女子生徒が描かれたモノクロのジャケットイラストは、原作者の諫山創が手がけたもので、一見アニメとは繋がりのないデザインに思えるでしょう。
しかし歌詞を読み解いていくと、その内容を忠実に再現しているとともに、アニメのストーリーとも重なるメッセージが込められていることが伝わってくるはず。
英語詞と日本語詞が混じっている難しい歌詞なので、和訳と合わせて意味を徹底解釈していきます。
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Let’s start a new life from the darkness
Until the light reveals the end
Fear, hatred, sorrow, desperation
Even you look miserable
Look down from above
I feel awful
The time has come
Let’s all go home
Sinister faces, growing curses
This is my last war
≪僕の戦争 歌詞より抜粋≫
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「Let's start a new life from the darkness Until the light reveals the end(闇の中から新しい人生を始めよう 光が終焉を照らすまで)」という風に、冒頭から重苦しい雰囲気が漂う歌詞です。
主人公のエレンが、巨人として世界を滅ぼそうとする様子と重なりますね。
続く歌詞で挙げられるのは「Fear, hatred, sorrow, desperation(恐怖、憎悪、悲壮、絶望)」といった負のワード。
耳を塞ぎたくなるようなこれらの言葉も、「闇の中」と表される混沌とした世界をまさしく言い表しています。
では次の「Even you look miserable Look down from above I feel awful(あなたも惨めに見える 見下ろす 最悪な気分)」とは、誰のことを指しているのでしょうか?
「あなたも惨めに見える」とあることから、普段は惨めに見えない、つまり自身より力も立場も強いと思っている相手だと推察できます。
そしてそんな相手を見下ろすと、ちっぽけな相手に怯えていたことに気づいて「最悪な気分」になるという意味ではないでしょうか。
次に出てくる「The time has come Let's all go home(時は来た みんな家に帰ろう)」という呼びかけは、戦争とは不釣り合いのように感じます。
しかし「家」を「心身を休める場所」と捉えると、闇の世界を滅ぼして安らげる地にしようという思いが見えてきます。
次には「Sinister faces, growing curses(邪悪な顔 育っていく呪い)」とあり、敵の見せる邪悪な顔に憎しみの気持ちが増幅しているようです。
「This is my last war(これは僕の最後の戦争)」という言葉から、この戦いに対する主人公の強い執念が伝わってきます。
歌詞から考察する“本当の敵”とは
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The only memory left is trauma
Imaginary friend’s kind words
The evening train was shaking
I purified the imperfect flowers
The pain in my heart getting higher
My comedy show at its peak
The frogs were crying on our way home
This is my last war
≪僕の戦争 歌詞より抜粋≫
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2番の初めでは「The only memory left is trauma(唯一の記憶はトラウマ)」と歌っていて、厳しい境遇にいることを感じさせます。
「Imaginary friend's kind words(空想の友人の優しい言葉)」という表現から、孤独を抱えて育った幼少期が想像できるでしょう。
何気ない「The evening train was shaking(夕方の電車が揺れていた)」というフレーズでさえ、物悲しい印象を与えますね。
「I purified the imperfect flowers(不完全な花を浄化した)」と言いながら「The pain in my heart getting higher(心の痛みが増してゆく)」と歌っている点では、咲きかけの花を故意に手折ったことに対して罪の意識を感じているように思えます。
幼少期にありがちな衝動的に行動してしまう幼さと、純粋な優しさが滲み出るフレーズですね。
続く部分は「My comedy show at its peak The frogs were crying on our way home(僕のコメディショーは山場を迎え カエルは家路で鳴いていた)」と訳せます。
「This is my last war(これは僕の最後の戦争)」でありながらそれをコメディと表現しているのは、当事者にとっては必死の戦いでも周囲から見れば滑稽に見えてしまうことを表しているのかもしれません。
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Angels playing disguised with devil's faces
Children cling to their coins squeezing out their wisdom
Angels planning disguised with devil's faces
Children cling on to their very last coins
Destruction and regeneration
You are the real enemy
≪僕の戦争 歌詞より抜粋≫
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この歌詞は1番と2番で共通する内容です。
最初は「Angels playing disguised with devil's faces(天使たちが悪魔の顔をして遊んでいる)」と歌い、善の象徴である天使が正反対の存在である悪魔のような顔で遊ぶ恐ろしい光景を想像させます。
そのそばには「Children cling to their coins squeezing out their wisdom(知恵を振り絞り硬貨にしがみつく子どもたち)」がいます。
小さな硬貨も子どもたちにとっては貴重な財産になることを考えると、硬貨は希望を指していて、何とか救いの希望を手に入れようとしていると連想できるでしょう。
次は「Angels planning disguised with devil's faces(天使たちは悪魔の顔をして企んでいる)」とあり、今度は天使が何かの計画を立てているようです。
その一方で「Children cling on to their very last coins(最後の硬貨にしがみつく子どもたち)」は、残されたわずかな希望に必死に縋りつこうとしています。
ここまででは気楽に楽しむ天使と、苦しみながら生きる人間の子どもたちの対比にも感じられるはずです。
しかし、続く歌詞で「Destruction and regeneration You are the real enemy(崩壊と再生 お前が本当の敵だ)」とあります。
これまで崩壊と再生を繰り返してきたのは人間です。
幾度の戦争により街々を壊してきたその手で、壊された自身の街の再生を行ってきました。
戦争によって生きる希望を奪われた人たちのそばで、戦争によって人を傷つけて楽しんだり何かを奪おうとしたりする人たちがいる。
つまり、結局本当の敵は人間だということを伝えたいのではないでしょうか。
学校からの帰り道を描く歌詞の解釈とは
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帰り道を無くした風景
夕焼けこやけ逆さまに
下校時間 鳴きだすチャイムと
だんだんと落っこちてゆく
帰り道を終わらせないって
泣いていいよ今だけは
線路沿いに消えちゃった菜の花
来年また咲いてなんて
≪僕の戦争 歌詞より抜粋≫
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3番では日本語詞に変わり、少女のような声で歌われていて、ジャケットイラストに描かれた少女が主人公だと分かります。
「帰り道を無くした風景」や「鳴きだすチャイム」、「落っこちてゆく」というフレーズは、彼女の帰り道がまったく楽しいものではないことを表現していますね。
「泣いていいよ今だけは」と自分に言い聞かせていることからも、泣きたくなるような出来事があり、下校するまで必死に泣くのを我慢していた様子が思い浮かびます。
彼女はいじめられっ子なのかもしれませんね。
そして、華やかな黄色い花をつける菜の花が見えなくなると、帰り道には一層寂しさが募ります。
2番でも花が出てきたことと関連づけると、もしかしたらいつか彼女が手折った花が元気に花をつけているのかもしれません。
「来年また咲いて」と願うのは、一度折られた花に自分を重ねているからだと思えます。
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下校時間 他人の影踏み
気づいたら夜明け 1人きり
1人きりを終わらせないって
泣いていいよ今だけは
明日の準備がどうせまたあるし
宿題やって寝なくちゃね
≪僕の戦争 歌詞より抜粋≫
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そして別の日も、彼女はつらい気持ちを抱えて下校しています。
「気づいたら夜明け 1人きり」とあるので、きっと家族にも相談できずにいるのでしょう。
それでも、いつもと同じように「明日の準備」と「宿題」をしています。
いじめを受けている現状から逃げ出すのではなく、受け入れて前へ進もうとしているのです。
これが彼女なりのいじめという「戦争」との向き合い方だと分かります。
最後の歌詞まで見ていくと、実は1番から彼女の心情が綴られていたことに気づくのではないでしょうか?
大人には天使に見えても、少女にとっては悪魔の顔をしている幼い敵たち。
そんな邪悪な天使たちに攻撃され「闇の中」にいる少女。
彼女は先生の「みんな帰ろう」の声に促されて、下校時間にやっと一人で泣ける時間を手にするのです。
そんなつらい境遇でも、彼女は小さな希望を手にして学校に行き続けることで戦いを挑もうとしているのかもしれませんね。
『僕の戦争』は頑張る人の心を打つ歌詞
神聖かまってちゃんの『僕の戦争』は『進撃の巨人』のストーリーとリンクさせつつ、いじめられっ子の日々が描かれた歌詞でした。
この歌詞から分かるのは、いじめと戦争は同じく人の悪意から起こるものであるということ。
傷つけられている人にとっては、どちらであっても苦しい現実であることに変わりありません。
それでも絶望しきって諦めるのではなく、今できることを行い続けることに現状を打破する鍵があるのではないでしょうか。
不穏な雰囲気を感じさせながらも、歌詞に注目するとつらい毎日を頑張って生きる人たちの心にきっと勇気を与えてくれますよ。