「うっせぇわ」で話題のsyudouが浮気?
2020年、歌い手のAdoのデビュー曲として楽曲提供した『うっせぇわ』が大きな話題を呼び、オリジナル曲の人気も好調のボカロP・syudou(シュドウ)。2021年2月20日にはバーチャルYouTuber「花譜」をモデルにした音楽的同位体・可不を用いた新曲『キュートなカノジョ』をリリースし、さらなる注目を集めています。
その『キュートなカノジョ』で、これまでの楽曲で初音ミクしか使ってこなかったsyudouが、可不を初めて使ったため「浮気」だと話題に。
また、それに伴ってこの楽曲の主人公が、ある男性の浮気相手であることも意味しているようです。
さらにMVのイラストや可不の歌声に注目すると、より歌詞の意味を深く考察できるはずです。
さっそく歌詞の内容を見ていきましょう。
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ねぇアナタには見えない事ばかり
アタシは見えている事を知らないの?
背中につけられた誰かのキスの跡
一人じゃ買う訳の無いそれも
見て見ぬフリなだけ
≪キュートなカノジョ 歌詞より抜粋≫
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主人公「アタシ」が「アナタ」と呼びかけるのは愛する男性。
「アナタには見えていない事ばかりアタシには見えている」という言葉から、彼が気づいていない何かに主人公は気づいているようです。
それは、彼の背中にあるキスマークや「一人じゃ買う訳の無いそれ」。
後者については様々な憶測ができますが、ペアリングや避妊具など、恋人がいるからこそ買うものが彼の家にはあるのではないでしょうか。
そのような自分以外の女性の影を見つけた主人公は、「見て見ぬフリ」をしているだけで彼が浮気をしていることに気づいているのです。
しかも見知らぬ女性ではなく、自分が浮気相手であることも分かっているのでしょう。
息継ぎの多い歌い方から、主人公の苦しさが表現されているように感じます。
歌詞に描かれる主人公は男の娘?
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笑っちまう程にキュートなカノジョ
常時奔放 狂気 短気
怒鳴ってたって目が合って一撃
洗脳完了 女上手
愛していんのさ 強く愛していんのさ
≪キュートなカノジョ 歌詞より抜粋≫
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「笑っちまう程にキュートなカノジョ」とは、主人公自身のことを指しているのでしょう。
MVで描かれる主人公は一見女性に見えますが、首元が隠れていることや細くても骨張った指などから、女装をしている男性、いわゆる「男の娘」であると考えられます。
さらに漢字ではなくカタカナで「カノジョ」と記されていることも、女性でないことを示しているのかもしれません。
異性が本命である彼に好きでいてもらうために、主人公は努力してかわいくいるよう努めているのではないでしょうか。
続く部分は、相手の男性のことを表現していると考察してみましょう。
「常時奔放狂気短気」は、そのまま浮気性で短気な性格を言い表しているようです。
「女上手」という言葉はありませんが、彼を表現するフレーズと「洗脳完了」というワードから「女にするのが上手」という意味で解釈してみます。
つまり、男性である主人公が大好きな彼と目が合えば、自身が彼に本気で愛してもらえる女性であるかのように錯覚してしまうということ。
だから彼には本命彼女がいると分かっていても、強く愛してしまうのではないでしょうか。
彼のことなら何でも知りたい
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ねぇ精神から全身まで
表面から内面まで
脳天から先端まで
知りたいの それから
最近聞いた音楽から
散財した総額まで
完全把握しないと気が済まないの
≪キュートなカノジョ 歌詞より抜粋≫
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主人公は彼を愛するあまり、外見も内面も隅々まで知っていたいと歌います。
「最近聞いた音楽」のようにちょっとした好みから、「散財した総額」のように人には言いにくいことまで、彼のことなら「完全把握しないと気が済まない」のです。
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とやかく言ったって実際の問題は
その眼中アタシ何割くらい担ってるか
嗚呼隠してないで確信を頂戴
されど黙して語らず
≪キュートなカノジョ 歌詞より抜粋≫
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とはいえ何よりも知りたいのは、彼にとって自分がどのくらい大切な存在であるか。
少しでも想っていていてほしいと感じる一方で、その心に少しでも多く自分がいてほしいとも願っているのでしょう。
主人公は愛されている確信を求めますが、彼は本心をはっきりと口にすることはないようです。
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困っちまう程にキュートなカノジョ
容姿端麗 耽美 甘美
身勝手だって泣くシックな素振り
瞬時酩酊 女冥利
愛しちまうのさ されど愛しちまうのさ
≪キュートなカノジョ 歌詞より抜粋≫
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2番のサビは女性のことを表現する内容なので、彼の本命彼女のことを歌っていると考えられます。
これまでは彼の周囲で存在を感じるだけでしたが、彼のことは何でも知りたい主人公は彼女についても調べ上げたのでしょう。
「容姿端麗耽美甘美」は彼女の女性らしい美しさを言い表しています。浮気性の彼の不貞に「身勝手だって泣く」素振りさえも魅力的です。
「瞬時酩酊女冥利」の歌詞は、意訳すると「女の武器の涙で彼をすぐに酔わせてしまうのだから女冥利に尽きるでしょうね」と言っているように感じられます。
男性である主人公にとって涙で気を引くことは、簡単なようで難しい行為なのかもしれません。
そのため、代わりに気を引くための体の傷ばかり増えていると考えられますね。
魅力的な本命彼女を前に勝ち目がないことを感じながらも、どうしようもなく彼を愛し続けています。
syudouのリスペクトを感じる歌詞を考察
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過去を喰らう程にポップなエレジー
排気口から香るラーメン
騙し奪われる恋でもいいの
だってこの声は
≪キュートなカノジョ 歌詞より抜粋≫
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この部分の歌詞には、可不のモデルである花譜のオリジナル曲へのオマージュが散りばめられています。
最初の「過去を喰らう」は、楽曲のタイトル『過去を喰らう』から取られていて、「過去をリセットする」という意味のフレーズのようです。
「ポップなエレジー」は「弾ける哀歌」と訳せるので、この2つをかけ合わせることで不可能なことや相対するものを強調する表現として用いられているのではないでしょうか。
次の「排気口から香るラーメン」は『そして花になる』の冒頭に登場する歌詞です。
ここではおそらく、彼の部屋の排水溝から漂うラーメンの香りという日常の風景に、自分の前に来ていた本命彼女の存在を感じ取ったという意味で使われているのでしょう。
そして「騙し奪われる恋でもいいの」のフレーズは、『心臓と絡繰』の「騙されたって良いよ 奪われたって良いよ」から取られていると考えられます。
この歌詞を聴くと彼の浮気を容認しているように感じられますが、本音は違うようです。
「だってこの声は」の後、MVでは男性と女性が混ざったような声で「めっちゃくっちゃかわいいでしょ」と続きます。
今は他の女性に取られていても、彼のためにこんなにかわいくなれる自分が必ず奪い取ってみせるという宣戦布告にも聞こえてきますね。
この歌詞を可不が歌っているということを踏まえると、syudouが一番かわいいと使い続けてきた初音ミクではなく自分の声を使ったということへの優越感や自信も見て取れます。
いつかは彼の一番になりたいという強い愛情が伝わる楽曲です。
愛の恐ろしさとキュートさを感じるボカロ曲
多くの歌い手がカバーする注目ボカロ曲『キュートなカノジョ』は、愛に囚われた人の怖い部分が表現された作品です。巧みなワードセンスと高い音楽性により、怖さの中にもひたむきな愛情や必死さが垣間見えて、聴けば聴くほど主人公がかわいく思えてくるでしょう。
また、公開から1ヶ月で動画再生回数が340万回を超えているMVの映像もとても細かく演出されていて、歌詞により深みを持たせています。
ぜひMVをリピートして、syudouが作り出した新たな世界観に浸ってみてくださいね。