Kanaria最新曲は初音ミク・GUMIを封印し小春六花に挑戦
Synthesizer Vの小春六花(こはるりっか)を使用した『MIRA』は、リリースするシングルやアルバムが軒並み大ヒットする天才ボカロP『Kanaria』の5作目のオリジナル楽曲です。これまで初音ミクやGUMIを使用してきたKanariaが、2020年に新しく登場したより人間らしいリアルな歌声が特徴の小春六花のデモ楽曲として制作。
イントロから独特な世界観に引き込むギターアレンジを効かせたスローナンバーで、わずか2分17秒で魅せるクオリティの高さにファンから絶賛を受けています。
Kanariaが作詞作曲を手がける楽曲は、カトリック教で人を罪に導くとされる「七つの大罪」と関係があると考察されてきました。
『MIRA』でも曲調やMVの雰囲気が似ているため、今回も七つの大罪のひとつを表しているのかもしれませんね。
また、LAMが描いたイラストの服装や祈るように組まれた手から主人公がシスター(修道女)であると解釈すると、ますます関連しているように感じられます。
タイトルに使われている「MIRA」には外国語で様々な意味がありますが、ここではカトリック教のシスターの歌であることから、ラテン語の「驚異・不思議なもの」という意味と仮定しましょう。
超自然的な存在の神を崇拝する“シスターの心情”を表した歌詞の意味を読み解いていきます。
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廃退して捨てれない 夢妬み愁い 嫌い返して
徘徊して捨てれない 君私誰 誰か愛して
ビビデビビデバッド
≪MIRA 歌詞より抜粋≫
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Aメロでは、シスターの悩みが描かれています。
「夢妬み愁い」といった、シスターとしては無用な感情を捨てきれないでいるようです。
そんな自分が何者か分からなくなり「誰か愛して」と愛を渇望している様子も見てとれます。
神を愛し、神からの愛を信じているはずのシスターが、無差別な愛を求めるのは似つかわしくないものの、とても人間らしくも感じられますね。
続く「ビビデビビデバッド」は、多くの人たちが聞きなじみのある魔法の呪文「ビビデバビデブー」をもじったものでしょう。
最後に「バッド」とあることから、悪いことが起きたり、物事が悪い方向へ進んだりすることを祈っているのかもしれません。
これもシスターのイメージとは違いますが、むしろシスターとして求められるものから自ら離れようとしていると考えると納得できるのではないでしょうか。
シスターの愛は見せかけ?
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抱きしめて ラブ
見せかけた ラブ
憧れはない 慰めもない 血塗られてない
≪MIRA 歌詞より抜粋≫
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サビでは「ラブ」というフレーズが多く登場します。
特に「見せかけた ラブ」の表現は、彼女の神への愛が見せかけであることを表しているのではないでしょうか。
彼女は「憧れ」の気持ちも「慰め」を得たこともなく、ただ成り行きでシスターの道に進んだのかもしれませんね。
本来シスターは頭にベールを着用しています。
シスターがベールを着用する理由は諸説あるようですが、神への尊敬や謙遜を表しているとも言われています。
しかし、MVで描かれているシスターはベールをつけていません。
最初の切実な表情から一転してニヒルな笑顔を見せる様子からも、彼女が神を愛していないことが窺えますね。
また、黒いマニキュアは自己主張したい気持ちを反映すると言われています。
彼女はシスターとしての閉塞的な生き方よりも、もっと自分らしい生き方へ変わりたいと思っているのかもしれません。
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でてこないで ラブ
怪しげな ラブ
憧れてない 慰めもない 消えかけたラブ
あなたのそばで
≪MIRA 歌詞より抜粋≫
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続く部分で「出てこないで ラブ」と歌います。
つまり、神とは違う何者かから愛情を向けられているのでしょう。
「怪しげ」と表現するように、それはシスターの彼女にとって疑わしいもののようです。
元々見せかけだった神への愛も消えそうなほど、印象的な出会いがあったと想像できます。
彼女が本当に求める愛とは?
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赤い糸 絡まり 縺れて
浅い心も だまくらかして
泣き面 隠していくんだ
ぞんざい 私は下らぬ馬鹿商売
≪MIRA 歌詞より抜粋≫
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せっかく結ばれた「赤い糸」も、貞潔を守るために生涯独身を貫くシスターには扱いにくいもの。
自分の心も相手の心も騙しながら、本音を隠しているのでしょう。
そうして利益を得てきた自身の生き方に、投げやりな気持ちを持っている様子が感じられますね。
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鮮やかな ラブ
目障りな ラブ
無慈悲でもない 痛みなどない 血塗られてない
≪MIRA 歌詞より抜粋≫
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しかし、相手から向けられる愛は彼女の目には「鮮やか」すぎて「目障り」なほどになっています。
「無慈悲」でもなく、愛することに「痛み」も感じないその人との時間は、少しずつ彼女の意識を変え始めているようです。
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でてこないで ラブ
偽善者の ラブ
情けはない 情などない 血塗られたラブ
あなたのそばで
≪MIRA 歌詞より抜粋≫
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だからこそ、彼女ははっきりと「出てこないで」と歌います。
彼女にとって築いてきた思考が覆されるのは恐ろしいこと。
彼は「偽善者」で、向けられている愛情は本物ではないのだと、信じようとしているようにも思えます。
そうして「情け」も「情」もなく、彼を殺めたことで「血塗られたラブ」となったのです。
結局、彼女は神のそばから自身を切り離すことができないのでしょう。
七つの大罪で表すとすれば、彼女にあるのは強欲と言えそうです。
神を愛していると偽って恩恵を受けようとしていることや、誰かに愛してほしいと願いながら実際に愛が向けられると認められずに罪を犯してしまうこと。
そして、見せかけと言いながら神からの愛情にすがってしまうことなど、シスターとは無縁そうな欲深さを感じさせます。
赤い目が彼女の狂気性を表しているとすれば、二面性を持ち罪に進んでしまう彼女こそ『MIRA』なのかもしれません。
美しくも闇を感じる世界観に引き込まれる
Kanariaの『MIRA』はシスターを主人公に、愛にまつわる複雑な感情を表現した楽曲でした。愛を求めるあまりに罪を犯した彼女は、神に近しい立場でありながら人間らしい弱さや闇を見せています。
その歌詞にマッチした宗教的な荘厳さと仄暗さを感じさせる音楽で、Kanariaのアーティストとしての魅力がさらに深まりますね。
次はどんな新しい世界観を見せてくれるのか注目です!