TikTokで人気を得た4na（しな）のボカロカバー曲
人気ボカロ曲からヒップホップまで幅広くカバーする歌ってみた動画での長年の活動が評価され、令和の注目アーティストの一人として名乗りを上げた4na（しな）。2021年3月14日に配信リリースされた3rdシングル『hazama』は、2017年にボカロPの上野シュンが初音ミクを使用して作詞作曲した同名楽曲のカバーバージョンです。
イントロからやや不安感のあるジャズサウンドをベースにした原曲はそのままに、4naの柔らかくどこか気だるげな歌声が心地良く響くリピーター続出の楽曲となっています。
公式リリースが発表されたきっかけはTikTok。
印象的な世界観の歌詞とサビに入る前の一瞬の空白がユーザーを惹きつけ、人気クリエイターの口パク動画やスライドショーのBGMなどに用いられ、瞬く間に広く知られるようになりました。
そこから11月に4naの公式YouTubeチャンネルで投稿されたMVにも注目が集まり、楽曲全編の魅力が広まることに。
上野シュンは原曲について「迷いの曲」と記しています。
その歌詞の内容から込められた意味を徹底考察していきましょう。
----------------
喧騒になった声も
遮った ray of ligft
絶えない秘密と 数えきれぬ恋さえ
耳が、目が、挙りあって
髪が、背が、伸びきる前に
消えてしまいたい
≪hazama 歌詞より抜粋≫
----------------
冒頭で出てくる「ray of ligft」という英文は、「光線」や「一筋の光」を意味する言葉です。
それが「喧騒になった声も遮った」とあるので、この主人公は人が雑多にひしめく夜の街の中にいて、車のヘッドライトが辺りを光線のように鋭く照らしている様子が思い浮かぶでしょう。
「挙（こぞ）りあって」という言葉は実際にはありませんが、「挙る」は「残らずすべて」という意味で使われる日本語です。
「髪が、背が伸びきる」ことが成長と捉えると「耳が、目が、挙りあって」も耳や目からの知識が増えていく様子を表しているのかもしれません。
夜の街に行き交う多くの大人たちのように「絶えない秘密と 数えきれぬ恋」を抱える前に「消えてしまいたい」と考えているようです。
秘密や終わった恋が増えれば増えるほど抱えるものが多くなるため、そう考えてしまうのも無理はないですね。
好きなあの人に会えるのは夢の中
----------------
混ざり合うほど近い距離も
飾り合うためのファッション
貞操乱して 汚れているだけなのに
アーティストのような酔も
くだらないよな
でも、そんなもんだって
≪hazama 歌詞より抜粋≫
----------------
「混ざり合うほど近い距離」とあるように、主人公は誰かと密着しているようです。
しかしそれは「飾り合うためのファッション」であり、その相手とは恋人同士でも想い合っているわけでもなく、ただ互いにステータスや経験を求めてそうしているだけと思われます。
その行為が「貞操乱して汚れているだけ」だと分かっているのに「アーティストのような酔」に浮かされてきっと様々な人とそうして触れ合っているのでしょう。
「くだらない」ことだけど人生なんて「そんなもん」だろうと、諦めのような感情が読み取れますね。
----------------
愛されたいんだ
このまま夜に
枯れる陽の中、眠り、逢えたら
触れた指が朝になって解ける
私だけを置いて
≪hazama 歌詞より抜粋≫
----------------
ところが、主人公の本音は「愛されたいんだ」。
日が暮れて眠りに落ちた時、夢の中で逢いたい特定の人がいるようです。
しかし、夢の中で逢えても触れるとその人は消えてしまい、目覚めるとそこには自分だけいて余計に寂しさが募ります。
主人公はその人に愛されたいとは言わず「愛されたいんだ このまま夜に」と歌っています。
夢の中でしか逢えない好きな人と少しでも長く一緒に過ごせるように、目覚めずにずっと夜であってほしいと願っているのかもしれません。
心の寂しさを埋めるために他の人に身を委ねてしまうこともありますが、本当はそんな健気な想いを抱えているのです。
愛のない現実は「終わりにしようぜ」
----------------
閑散と暮れるだけ
きっと、誰も見ない エンドロール
期待しないくらい
叶いそうないなぁ
夢は夢でしかない
≪hazama 歌詞より抜粋≫
----------------
主人公の願いも虚しく、現実はいつものようにひっそりと日が暮れて寂しい夜がまた幕を開けます。
映画のエンドロールを見ない人がいますが、それはそこに特別な何かがあると「期待しない」からかもしれません。
同じように、主人公は自分の願いが「叶いそうない」と理解しているので初めから期待もしていないようです。
たとえ期待しても所詮「夢は夢でしかない」ので、そこで好きな人と逢えたからといって現実でその人に愛してもらえるわけではない。
主人公にとってその相手は、決して手の届かない人だということが伝わってきます。
----------------
言い訳のできない elapsed time
死へ向かうだけの 日々なんて
もういい
終わりにしようぜ
≪hazama 歌詞より抜粋≫
----------------
「elapsed time」は日本語では「経過時間」という意味があります。
過ぎてしまった時間は、どれほど後悔しても言い訳できません。
「死へ向かうだけの日々」という強い表現が出てきますが、確かに愛してほしい人に愛されない人生ほどつらいものはないでしょう。
そんな現実を「終わりにしようぜ」と歌っています。
達観した冷めた考え方のようで、本当は大人になって自身がもっと傷つくことを怖がっているようにも聞こえます。
愛されないでいることも、愛されることを知ってから愛されなくなることも心を深く傷つけるので、そんな不安から自分を守ろうとしているのであれば、とても人間味のある考え方と言えそうです。
----------------
愛されたいんだ
一度だっていいから
愛したいんだ
いつかは忘れてしまう 明日を
笑えるように
≪hazama 歌詞より抜粋≫
----------------
最後のサビで、主人公は素直に「愛されたいんだ 一度だっていいから」と歌います。
そして同時に、自分自身も誰かを「愛したいんだ」とも歌っていますね。
愛されるだけでなく人を本気で愛することも人間の純粋な本能であり、そこから生まれる幸せもたくさんあるでしょう。
人生の中のたった一日のことは、ほとんどの場合忘れてしまうものです。
しかしそんな些細な「明日」が、人を愛することでふと思い出して笑えるような幸せな一日に変わる。
主人公にとって愛はそれほど大切なものであり、きっとすべての人にとっても同じです。
失恋した時や寂しさを感じる時、この主人公の気持ちが痛いほどよく分かるでしょう。
ただ愛されたいだけなのに思うようにならず、愛したいだけなのに自分の想いさえよく分からないという迷いの気持ちがよく表現された楽曲です。
「hazama」の歌詞は愛の重要さを感じさせる
『hazama』は誰の心にもある愛を求める純粋な気持ちを歌っています。人に愛され人を愛することは日常のスパイスのように見えて、実際は人生において何よりも重要なものだという事実に気づかされるはずです。
原曲バージョンでは初音ミクの無機質な歌声が取り残された物悲しさを強調しますが、4naのカバーバージョンでは温かみのある歌声が「愛されたい」という願いの方を強く感じさせ、それぞれ違った魅力があります。
失恋した人もそうでない人も、静かな夜のひとときにこの楽曲を聞きながら愛について考えてみませんか？
