映画「君の名は。」の世界観を感じる劇中歌
RADWIMPSの『スパークル』は、新海誠監督の人気長編アニメーション映画『君の名は。』の劇中歌として書き下ろされました。
『君の名は。』では、主題歌を含め全編通して野田洋次郎作曲・作詞の楽曲が起用されており、特に『スパークル』は、映画のクライマックスで流れる重要な楽曲です。
疾走感あるメロディラインをベースに、ピアノやバイオリンの繊細な音色やオーケストラの壮大さを効果的に組み合わせ、8分にもわたる楽曲ながら飽きさせない曲に仕上がっています。
新海誠監督による書き下ろしのMV予告編も魅力で、映画の世界観が見事に表現されていると注目を集めました。
タイトルの「スパークル」の元は、英語の「sparkle」という単語で、きらめきや活気を意味する名詞です。
映画を観た人はもちろん、観ていない人も日常のきらめきを感じられるでしょう。
オリジナルと映画用に編集されたムービーバージョンの2種類があります。
今回は2016年11月23日にリリースされたメジャー6枚目のスタジオ・アルバム『人間開花』に収録されている、オリジナルバージョンの歌詞の意味を解説していきます。
「「さよなら」から一番遠い場所で待ち合わせよう」の意味は?
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まだこの世界は 僕を飼いならしてたいみたいだ
望み通りいいだろう 美しくもがくよ
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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主人公の「僕」は、世界への不満を抱えています。
「僕を飼いならしてたいみたい」とあるように、自分の人生を生きているようでありながら、実際はこの世界の思い通りに生かされていると感じているようです。
しかし、その中でもがいて自分らしく生きてやろうという強い意思が伝わってきます。
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互いの砂時計 眺めながらキスをしようよ
「さよなら」から一番 遠い 場所で待ち合わせよう
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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砂時計は限りある時間を表現するものなので、一生の時間を示しているのでしょう。
互いに残された時間を意識しながらも、今好きな人と触れ合える喜びを刻みたいという思いが表れていますね。
印象的なのは「「さよなら」から一番遠い場所で待ち合わせよう」という歌詞。
別れから一番遠いのは、出会いです。
つまりは、出会った場所で会おうという意味に解釈できますよね。
いつか終わりが来ることが分かっているからこそ、この出会いを大切にしたいのです。
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ついに時はきた 昨日までは序章の序章で
飛ばし読みでいいから ここからが僕だよ
経験と知識と
カビの生えかかった勇気を持って
いまだかつてないスピードで 君のもとへダイブを
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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「君」と出会う前の「昨日までは序章の序章」で、ここから本当に自分の人生が始まる。
これまで培ってきた「経験と知識」、そしてまだ使ったことのない「勇気」を手に、世界に抗ってでも「君のもとへ」行こうとします。
それがどんな場所でも、彼の決意は揺らがないでしょう。
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まどろみの中で 生温いコーラに
ここでないどこかを 夢見たよ
教室の窓の外に
電車に揺られ 運ばれる朝に
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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「まどろみ」という言葉で表されるように、彼は夢と現実が曖昧な様子です。
爽やかさを与えるはずのコーラが生温くなっている状態は、退屈な現実を比喩しているのでしょう。
「教室の窓の外」や「電車」も同じく日常の一コマです。
毎日同じ景色の中で同じ行動を繰り返していることに、誰もが退屈さを感じているのではないでしょうか。
彼もまた「ここではないどこか」に行きたいという思いを募らせていきます。
平凡な日常の中で君と出会えた喜び
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「はじめまして」なんてさ 遥か彼方へと追いやって
1000年周期を 一日で息しよう
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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出会った日が遠く感じるほど、「君」と長く一緒にいたいと願う彼。
1000年もの時間を一日で過ごすかのように、永遠に二人でいたいと思っています。
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辞書にある言葉で
出来上がった世界を憎んだ
万華鏡の中で 八月のある朝
君は僕の前で
ハニかんでは澄ましてみせた
この世界の教科書のような笑顔で
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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「辞書にある言葉で出来上がった世界」とは、何でもありきたりな言葉で表現しようとするこの世界のことかもしれません。
人生や人の気持ちは簡単に言葉にできないものであふれています。
それは万華鏡のように美しくて繊細です。
しかし、世界は勝手に言葉でカテゴライズして、何でもひとくくりにしようとします。
「君」が見せた、正しさの象徴のような笑顔の奥にどんな想いがあるのかを、主人公は知りません。
その想いはきっと言葉で表せるものではないから、万華鏡を覗くようにただ眺めていたいと主人公は思ったのではないでしょうか。
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嘘みたいな日々を 規格外の意味を
悲劇だっていいから望んだよ
そしたらドアの外に
君が全部抱えて立っていたよ
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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彼は退屈な日常から逃れられるなら「悲劇だっていい」と思っていました。
すると「君」と出会ったことで、「嘘みたいな日々」や「規格外」の出来事が彼の身に降りかかります。
それは二人にとって悲劇でもありましたが、彼女と出会えた喜びに変わりはありません。
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運命だとか未来とかって 言葉がどれだけ手を
伸ばそうと届かない 場所で 僕ら遊ぼうか
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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きっとすべての人が、運命や未来という言葉に縛られて生きています。
それらが届かない場所で「遊ぼう」という表現は、映画で瀧と三葉が現実に逆らって入れ替わったことと重なりますね。
誰かに決められた運命や見えない未来がどうであろうと、何も気にせず彼女と生きることを楽しんでいたいという気持ちが垣間見えます。
愛する君との人生は一生じゃ足りない
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愛し方さえも 君の匂いがした
歩き方さえも その笑い声がした
いつか消えてなくなる 君のすべてを
この眼に焼き付けておくことは
もう権利なんかじゃない 義務だと思うんだ
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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「愛し方」や「歩き方」にも彼女の存在を感じているようです。
何気ない仕草でさえ愛しく思えるほどに、彼は彼女を愛しています。
いつかは死にゆく運命なら、彼女が生きたことや彼女と愛し合った時間を証明できるように「この眼に焼き付けて」おきたい。
それは彼女と出会った「義務」として、やらなければならないことなのです。
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運命だとか未来とかって 言葉がどれだけ手を
伸ばそうと届かない 場所で僕ら恋をする
時計の針も二人を 横目に見ながら進む
そんな世界を二人で 一生 いや、何章でも
生き抜いていこう
≪スパークル [original ver.] 歌詞より抜粋≫
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本当は出会うはずのなかった二人が、運命に逆らって出会い恋をしました。
「時計の針」は無情にも進み、残り時間はどんどん少なくなっていきます。
そんな生きづらい世界さえも、彼女と生きられるなら何度でも過ごしたいと歌っています。
一生を一章に例え、「何章でも生き抜いていこう」と表現しているところが美しいですね。
人の短い一生では愛する人との時間を楽しみ切ることはできないということを、繊細な言葉で代弁してくれています。
あなたには手放したくない大切な人がいますか?
『スパークル』は人を愛する深い想いが感動を誘う楽曲です。
そんなに退屈な毎日を過ごしていても、愛する人がいてくれるだけで人生は美しく光輝きます。
この人に出会えて良かったと思える人がいるなら、運命がどうであれ本当に別れが訪れる瞬間まで決して手放してはいけないというメッセージが伝わるでしょう。
きっとあなたの大切な恋のきらめきを、もっと華やかに輝かせてくれますよ。