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ずっと真夜中でいいのに。「胸の煙」苦しみと解放を表現する歌詞とMVの意味を考察

人気音楽ユニット・ずっと真夜中でいいのに。の『胸の煙』で注目されるのは、苦い恋愛模様を描いた歌詞と相容れない存在の共存を表現したMV。独特な世界観に込められた意味を考察していきます。

「胸の煙」の意味

印象的なフレーズを用いた歌詞と緻密に作りこまれたMVで、聴く人を自身の世界観に引き込むパワーを持つ「ずとまよ」こと『ずっと真夜中でいいのに。』。

フルアルバム『ぐされ』に収録されている『胸の煙』も作詞作曲を手がけるACAねワールド全開で、どんなメッセージが込められているのか気になる楽曲です。

タイトルの「胸の煙」という言葉は「胸の火が消える時に出る煙」を意味していて、胸の中にある激しい思いやそれが叶えられない苦しみを例える表現として用いられます。

ちなみに英語版のタイトルは「One’s Mind」で、こちらも不安定な心理状態を指すフレーズ。

つまりこの楽曲には、そんな内に秘められた狂おしい感情が描かれているということです。

▲ずっと真夜中でいいのに。『胸の煙』MV(ZUTOMAYO - One's Mind)

2021年2月10日に公開されたMVは個人制作アニメーターの『しの』が手がけており、2つのキャラクターの対立と共存を描いています。

歌詞とMVの内容を解説しながら、隠された意味を読み解いていきましょう。

2人の関係は「ありのまま 惨めな解放だ」

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もう若干ジェラ付き
指の中 生乾きsmoky cloudy
縺れていって 大好き
口の中 仲直りpinkie promise
≪胸の煙 歌詞より抜粋≫
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歌詞冒頭の「もう若干ジェラ付き」というフレーズは、主人公がジェラシー(嫉妬)を感じていることを意味しています。

「smoky cloudy」は「煙のような曇り」のこと。

彼女の恋人が吐き出すタバコの煙と灰色の雲が空を覆っている情景を想像できるでしょう。

続く「pinkie promise」は日本語で「指切り」のことで、一悶着あった二人が指切りをして仲直りした様子が歌われています。

好きだから嫉妬してしまうけれど、嫉妬させる彼に嫌な気持ちもある。それでもやっぱり「大好き」。

そんな複雑に「縺れて」いく感情を、「口の中」で漂う「生乾きsmoky cloudy」と「指の中」で交わす「仲直りpinkie promise」の位置をあえて入れ替えることで歌詞でも表現しているところが秀逸ですね。

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どうして 予定調和に過ぎない無意味たち
君は知ってる。
こうして 指に触れては よじれてく熱も
≪胸の煙 歌詞より抜粋≫
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歌詞には「予定調和に過ぎない無意味たち」とあります。

彼と触れ合って感じる熱も誰かが定めた予定の一部であり、特別な意味や感情が生まれることなく機械的に行われていると感じているようです。

「君は知ってる。」と歌うように二人の関係で優位にいるのは彼で、彼女は予定通りに動かされるだけの存在だと分かっているのでしょう。

MVでも何も気にせず眠る犬とは対照的に、少女は固い表情でその場を立ち去ります。

その瞬間、少女の手は鳥の足のように変化してしまいました。


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確かに きっと不確かに
すぐ乱れていった
報われた 大袈裟なくらいじゃ
ありのまま 惨めな解放だ
辛いより もっと辛いより
すぐ堕ちていった
抱きしめて 喚いて
鳴いたりはしなくなっても
静かな波だわ waaaaa
≪胸の煙 歌詞より抜粋≫
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サビで描かれる通り、主人公たちの関係はあっという間に乱れていきます。

「確かに きっと不確かに」という表現は矛盾しているようですが、もともと不安定だった関係が明らかに崩れた様子をむしろはっきり伝えているように感じられるでしょう。

彼を「大好き」だと言っていた彼女は、この変化を「報われた」「ありのまま 惨めな解放だ」と続けます。

彼との関係が変わることは惨めだけれど、一緒にいて苦しみ続けるよりはもう解放されたい。

彼女が彼が原因でどれほど苦しんできたかが窺えますね。

しかし、「辛い」と分かっていながら彼を求め、彼女は「堕ちて」いきます。

「静かな波だわ」のフレーズは「静かな涙は」と歌っているようにも聴こえるでしょう。

彼を想い、自分の中の苦しみを思って、彼女が独り静かに泣いている悲しい雰囲気が伝わってきますね。

このサビで少女は完全に鳥に変わってしまいます。

すると、一緒に過ごした犬が後を追ってきて鳥になった少女を殺そうとしました。

人間の姿だった時は優しくしてくれたのに、鳥になった途端に態度を変えたのです。

少女は犬が鳥を追っていることを知り、自身がその鳥に変化することが分かっていたから犬の元を離れたということなのでしょう。

こうしてこの関係も「乱れて」、狩る者と狩られる者の関係になってしまいました。

変わるためには行動するしかない


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もう辛さに集中 入り込める
気持ちよく 中止準備
もし振られてた想定 入り込める
出会った瞬間に している
≪胸の煙 歌詞より抜粋≫
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いよいよ彼女は「辛さに集中」し、彼との関係をきっぱり断ち切るために行動を始めます。

愛する人との別れは苦しいものですが、彼女は出会った瞬間から振られる想定をしていたようです。

きっと叶わないと思っていた恋が実った過去の喜びと、結局自身で終えるしかない現実の虚しさの両面が感じられるのではないでしょうか。

いつかは振られる予定だったのだからと自分に言い聞かせながら、準備を進めていきます。

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煙撒いてくる 待って
唯一話せる デリバリー
とっくに溶けるように
頭に浮かぶまま
在り来たりなの 待って
言い換えたキスならヘルシー
とっくに溶けるように
胸の奥砕いて
≪胸の煙 歌詞より抜粋≫
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「煙撒いてくる」という歌詞は、彼がタバコをふかしている様子と、はぐらかして煙に巻いている状況をかけているのでしょう。

近づこうとしても離れようとしても、彼は空気に溶ける煙のように捉えどころがなく、ありきたりな言葉とキスで曖昧に彼女を誤魔化そうとします。

そんな彼の様子に彼女がまた苦しんでいることをきっと彼も知っているのに、この関係を続けようとしているのです。

MVの方は1番と同じシーンのように見えますが、少しずつ異なる部分があることから少女が同じ時間をループしていることが分かります。

少女は分け与えられたタバコを持ち去ることで、自分の中に思い出を残そうとしたのではないでしょうか。

自分の手で運命を変えてやる


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どうして 予定調和に過ぎない無意味たち
君は知ってる。
こうして 口に含んでは誰も選べない
≪胸の煙 歌詞より抜粋≫
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MVで螺旋階段のついた塔を上る少女は、徐々に鳥の姿になっていきます。

無数の手や羽の生えた人たちが並ぶ光景は、おそらく少女の記憶の一部でしょう。

少女は生まれながらに鳥になることが定められている存在と考えられます。

つまり、少女はずっと狩られる者として生きてきたのであり、すでに定められたものを選び直すことはできないのです。

しかし、今度は犬に撃たれるよりも前に鳥になった少女自身が爆発を起こし、その命を終わらせました。

「誰にも選べない」生き方も、結末を変えることはできると示しているかもしれませんね。

2番のサビでは、犬がやって来た出会いの場所に少女がいません。

別の場所で鳥の姿でいる少女を見つけ銃を構えますが躊躇し、そのまま少女の隣まで歩いて行きます。

どんな結末を迎えるのでしょうか?

見方を変えれば苦しい現実も楽しめる


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どんな自堕落も 乗りこなせる
しっかり真面目に 苦しんだけど
割り切ったり でも求めたり
続ける範囲内じゃ 壊せない
声を発するまで 精一杯で
始められない
≪胸の煙 歌詞より抜粋≫
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主人公は「割り切ったり でも求めたり」する自分では、この関係を壊せないことを理解します。

新しいスタートを「始められない」なら、「続ける範囲内」で必死にしがみ付いているしかないのです。

少女も自分の運命を受け入れ、撃たなかった犬の銃口をあえて自分で頭に持っていきます。

ところが、犬の方は銃弾を抜いてその場に座り、殺す意思がないことを伝えました。

もしかしたら犬の方もループに気づいているのかもしれません。

少女は大事に持っていたタバコを犬に渡して飛び立ちます。

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透明で冷たくて
見透かされてばかりだけど
暖かい涙は
楽しめてゆくから
≪胸の煙 歌詞より抜粋≫
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主人公にとって彼は実体がないかのように「透明で冷たくて」、自分のことを「見透かされてばかり」の難しい存在です。

それでも彼のために流した涙は暖かかったことに気づくと、今度はこの関係を楽しめそうに思えます。

ずっと遠くまで飛んで行った少女も、犬が呆気に取られてしまうほど晴れやかな表情をしていますね。

歌詞の中の彼でさえ、変化した主人公を見て同じ気持ちになっていることでしょう。

生き方や人は思い通りに変えられるものではありません。

しかしそれ自体が変えられないなら、見方を変えればいいのです。

複雑な人間関係であれ辛い境遇であれ、少し見方を変えれば楽しめるようになるはずです。

主人公も少女もそのように見方を変えることで自分と向き合うことができましたが、それには少なからず一緒にいた相手の影響がありました。

あまりに辛く苦しい時も、自分が置かれている状況や周囲の人をどのように見るかで人生はきっと変えられます。そんな温かいメッセージが伝わってくる楽曲です。

『胸の煙』が伝える希望に心が軽くなる

ずっと真夜中でいいのに。の世界観が味わえる『胸の煙』には、苦しい現実と変化の希望が描かれています。

最後に主人公は彼を愛する気持ちを受け入れ、少女は鳥として生きる運命を受け入れました。

苦しみのループを断ち切るカギは受け入れることです。

きっとそこから先にも苦しむことはあるはずですが、自分自身のあるべき姿を認められる人は、どんなことがあってもまた笑顔を取り戻せるでしょう。

不器用に生きる人の心をふっと軽くしてくれますよ。

ずっと真夜中でいいのに。は作詞・作曲・ボーカルのACAねによる、特定の形をもたない音楽バンド。 YouTubeチャンネル登録数175万人を超え、YouTubeの総再生回数は4.2億回、初投稿楽曲「秒針を噛む」は現在9,500万回再生を突破。 1st mini ALBUM『正しい偽りからの起床』は第11回CDショップ大···

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