「この世界で考えつづける人へ」ぜひ聴いて欲しい曲
RADWIMPSの『鋼の羽根』が、カロリーメイトのCMソングに起用されています。『鋼の羽根』は2021年4月4日にデジタルリリースされた新曲で、4月5日にはMVも公開されました。
どこか詩的で独特の世界観を持った野田洋次郎の歌詞。
CMのテーマは「この世界で、考えつづける人へ。」まさに野田洋次郎の紡ぎ出す、詩的で深みのある世界観にマッチしています。
まるで一篇の物語を見ているような、映画的な世界観にRADWIMPSの曲が見事に溶け込んでいますね。
何かと迷いがちな今の時代を生きる人に向けたメッセージが、歌詞のあちらこちらに散りばめられているようで、聴く人の心にささります。
では、CMの世界観に寄り添った『鋼の羽根』の歌詞の内容と、そこに込められた意味を考察していきましょう。
RADWIMPSらしさ溢れる「僕」の弱さ
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一人だけで生きていける強さを早く 手に入れる訓練の最中にあなたは
物音ひとつなく現れて 今までの成果台無しにした
≪鋼の羽根 歌詞より抜粋≫
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生きていくことは困難の連続です。
その上、一人で生きることは孤独との闘いですから、生半可なことではありません。
それでもどうにか前を向き、強くなろうともがく最中、何の前触れもなく、積み上げてきた努力が台無しにされてしまったら?
これはまさに、生きづらさや漠然とした不安と戦いながら生きる、現代社会そのものではないでしょうか。
コツコツ積み上げてきた日常や努力が一瞬で崩れ去り、困難が立ちはだかる。
無力感に苛まれそうな中、わずかな希望を胸に前に進むのは、非常に苦しいことです。
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「可」も「不可」もなく 「◯」でも「×」でもない日々が
得体の知れない誰かの思うツボみたいで
どうせなら頭にデカイ「大」の つく「革命」か「惨敗」をしよう
≪鋼の羽根 歌詞より抜粋≫
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「可も不可もなく」という世界は、非常に現代的です。
個性が取りざたされる一方で、勝ち負けを決めることを避け、気持ちは高揚するような勝利の味も、苦い敗北感も知らない世界は、どこかぬるま湯のよう。
どうせなら大革命か大惨敗をしたいと願う気持ちに、共感する人も多いのではないでしょうか。
今を生きる「僕」がどこまでも弱く、迷う姿は、まさにRADWIMPSらしさといえるでしょう。
RADWIMPSというバンド名とも重なる、弱いけれど弱いなりにもがき続ける強さを感じる歌詞です。
揺らぎ続ける人間の弱さに寄り添う歌詞
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怖くないとでも思ったかよバカ そんなわけ
でも怖さでは止められないこの胸の 高鳴りは
≪鋼の羽根 歌詞より抜粋≫
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何かを始める時、胸を突き動かす衝動は、理性では抑えられません。
怖さを上回るほどの高揚感は、人が生きていく原動力にもなります。
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揺るぎないものがほしかった 壊れない意志がほしかった
容易い言葉はいつだって 賞味期限は持って3日
枯れない夢がほしかった 「僕」という意味がほしかった
宇宙にぽつんと咲いている 静かな理由がほしかった
それを君と探せるなら 遠回りでもいいと思えた
≪鋼の羽根 歌詞より抜粋≫
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人間の気持ちは、常に揺らいでいるもの。
強い意志を持ち、迷わず突き進もうと心に決めていても、ふとした瞬間、些細な出来事がきっかけで気持ちが揺れてしまうことはよくあります。
「容易い言葉」の「賞味期限」は長続きしません。
簡単に口に出せるからこそ、言葉の効力も弱いのでしょう。
だからこそ、自分を奮い立たせ、迷わず、臆さずに突き進んでいける、揺るぎないものを探し求めるのでしょう。
「「僕」という意味がほしかった」「宇宙にぽつんと咲いている 静かな理由がほしかった」というのは、人間が未来永劫向き合うことになるテーマではないでしょうか。
自分が自分である意味、存在している意味はどこにあるのか?
それが分からないからこそ、小さなことで迷ったり不安に苛まれたりするのだと思います。
そんな不安の中でも、大切な人と一緒にその意味を探せるなら、きっと幸せ。
『鋼の羽根』には、目の前にある小さな幸せを温めていく大切さも歌われているような気がします。
生きていくすべての人へ、野田洋次郎が届けるメッセージ
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一番大事なものは手に入らないよう できてることを知ってしまった僕たちが
それでも夢を見られる場所は この旅の先に待ってるのかな
何回入れたって自販機に跳ね返される 100円玉がまるで自分を見てるようで
弾かれてるの? それとも君は 頑なに入るのを拒んでいるの?
≪鋼の羽根 歌詞より抜粋≫
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生きるということは生半可ではなく、どれほど懸命に、実直に生きても報われないことは多々あります。
自販機に弾かれ続ける100円玉は、世間に見向きもされない惨めな姿なのか、それとも自分の意思で受け入れることを拒絶しているのか。
結果が同じでも、心持ちが違えばその意味合いは大きく異なっています。
自販機に呑み込まれないよう、頑なに拒絶している「君」の姿を想像すると、胸が熱くなりますね。
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揺るぎないものがほしかった 奪えない「今」がほしかった
半端な言葉で埋まんのは 心のコップのせいぜい2%
零れるくらいに満たすため 僕は僕を越えに行くんだ
≪鋼の羽根 歌詞より抜粋≫
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上辺だけの言葉では、心の虚しさを埋めることはできません。
きれいごとだけでは生きていけない世界だからこそ、痛みを伴っても、惨めでも、自分の本当の心と向き合うしかないのでしょう。
「僕は僕を越えに行く」という歌詞にもあるように、過去の自分を越えて行くしかないのです。
『鋼の羽根』に込められた意味
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溢れる人の中で僕とあなただけが 振り返って見たあの景色が何よりの
答えなんだと僕は思うんだ 違うとはもう言わせないから
≪鋼の羽根 歌詞より抜粋≫
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「僕」と「君」が出会ったことでようやく、「僕」は「僕」を越える覚悟ができ、広い宇宙で自分が生きている理由をしることができるのでしょう。
2人は広い世界の中で、溢れる人々の中で奇跡的に、互いを見付けることができた、運命の相手なのです。
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枯れない夢がほしかった 「僕」という意味がほしかった
宇宙にぽつんと咲いている 静かな理由がほしかった
それを君と二人ならば 見つけられる気がしたんだ
僕は君のを 君は僕のを 見つけられる気がしたんだ
≪鋼の羽根 歌詞より抜粋≫
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自分が自分である理由を見つけるために「君」が必要なだけではなく、「君」が「君」でいる理由を見るのにも「僕」が必要だ。
そう確信を持てるほどに、強い絆を感じている。
もう自分に惨めさを感じたり、100円玉に自身を重ねなくてもよいのです。
鋼は、とても丈夫な物質です。
これまで、たよりなく揺れていた自分自身から脱却し、迷いなく生きていく力を身につけた「僕」はきっと、「鋼の羽根」を手に入れたのでしょう。
人生はとても長く、時には孤独なものです。
誰にも頼れなかったり、世の中がひどく冷たく感じたりすることもあるでしょう。
『鋼の羽根』はそんな時「あなたは一人じゃないよ」と、優しく声をかけてくれるような楽曲です。
ただのCMソングではなく、ふと耳にした時に心が満たされるのは、野田洋次郎の想いが、しっかりと歌詞に込められているからでしょう。
人を感動させるものは、作品の中に、作者の想いがしっかりと残されているからこそ。
MVでは美しい桜の下で歌う姿が印象的です。
自然の中で生きていることを実感させるような、それでいて強いメッセージを感じさせる楽曲の世界を、ぜひ堪能してみてください。