YOASOBI(ヨアソビ)の新曲は小説「めぐる。」の世界がテーマ
2020年の大ヒット曲『夜に駆ける』を皮切りに、小説の世界を音楽で表現する人気ユニット・YOASOBI(ヨアソビ)。
2021年5月10日に配信リリースされた『もう少しだけ』は、めざましテレビの2021年テーマソングとして制作された楽曲です。
楽曲制作にあたり、小説投稿サイト「monogatary.com」にて原作小説を募集する「夜遊びコンテストvol.3 withめざましテレビ」を開催。
「おはよう」をお題に集まった5605作品の中から、満場一致で大賞に選ばれたのが千春の『めぐる。』でした。
年齢も境遇も異なる3人の主人公の共通点は、同じ朝の情報番組を見ていること。
番組内の占いコーナーで見た「いつもはしないことに挑戦」というワンポイントアドバイスに従った3人を中心に、幸せがめぐっていく様子を描いたハートフルな作品です。
コンポーザーのAyaseは『もう少しだけ』で原作小説の世界を忠実に再現していて、この楽曲を聴いて「“もう少しだけ頑張ってみようかな”という気持ちになってもらえたらうれしい」とコメントしています。
ボーカルのikuraは「そっと包み込んでくれるそよ風のように歌うことを意識」したそう。
爽やかなピアノポップのメロディに、日常を切り取った穏やかな歌詞と寄り添うような優しい歌声が朝にぴったりな楽曲に仕上がっています。
原作小説の内容に少し触れながら、歌詞の意味を徹底解釈していきましょう。
⚠ここから先は、小説「めぐる。」のネタバレが含まれます。
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もう少しだけ もう少しだけ
踏み出せたのなら
そう小さな優しさを
分け合えたのなら
ありふれた一日が
素敵な日になっていくほら
そうやって何度でも
喜びはめぐる
≪もう少しだけ 歌詞より抜粋≫
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頭サビからタイトルの「もう少しだけ」というフレーズが出てきます。
この言葉は一歩踏み出すこと、とりわけ「小さな幸せを分け合」うことに対して使われています。
原作小説の舞台はコロナ禍にある現代の日常。
初めての経験や恐怖に面して、人との距離を気にしたり小さなことで苛立ってしまったりと誰もが心に余裕をなくしています。
これまでの楽しみからも遠ざかる羽目になり、退屈で「ありふれた一日」を送っていることでしょう。
しかし、平凡な毎日の中でも、いつもより少しだけ踏み出すことができれば「素敵な日になっていく」、「何度でも喜びはめぐる」と歌われています。
この言葉が真実であることが、この先の歌詞を見ていくと納得できるはずです。
今日は占いのアドバイスに従ってみる
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慌ただしく過ぎる朝に
いつも通り過ぎる朝に
頼まれたお使いと予定を照らす
君が教えてくれた
あてにしてない占いの言葉
「いつもしないことを」だって
そんなことを頭の隅に置いたまま
いつもの今日へ
≪もう少しだけ 歌詞より抜粋≫
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1番でスポットが当てられるのは、あるサラリーマンでしょう。
休日出勤に出かけるところで、「慌ただしく」それでいて「いつも通り過ぎる朝」を迎えています。
すると、娘から今日行なわれるスイミングクラブの進級試験の合格祝いにケーキの「お使い」を頼まれ、瞬時にその日の「予定」と照らし合わせました。
そんな彼に娘は占いコーナーの「いつもはしないことに挑戦」というアドバイスを伝え、送り出します。
彼はその言葉を何となく「頭の隅に置いて」出かけて行きました。
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もう少しだけ もう少しだけ
踏み出せたのなら
もう少しだけ あと少しだけ
優しくなれたのなら
ありふれた一日も
素敵な日になっていくような
そんな気がしたんだ
今喜びはめぐる
≪もう少しだけ 歌詞より抜粋≫
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普段は気にしない占いの言葉が記憶に残るのはどんな時でしょうか?
それは「本当はこうしたい」、「こんなことをやってみたい」と思っていたことに背中を押された時かもしれません。
思うように行動できない毎日を退屈に感じている中で、いつもと違うことに挑戦してみたい。
誰もが不安や苦しみに心の余裕を奪われている中で、優しい気持ちで人に思いやりを示したい。
そんな気持ちの通りに行動できたら、「いつもの今日」としか思えなかったかわり映えしない日をきっと「素敵な日」に変えることができるでしょう。
「もう少しだけ あと少しだけ」足りないのは、一歩踏み出す勇気だけです。
何気ない優しさが生む喜びの連鎖
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暗いニュースが流れる朝に
気持ちが沈んでいく朝に
自分は「いらない」存在?
なんて考える朝に
あなたのことを思い出したんだ
あなたに会いたくなったんだ
久しぶりに会いに行くよ
今すぐに
≪もう少しだけ 歌詞より抜粋≫
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2番で最初に出てくるのは、一人暮らしのおばあさんでしょう。
朝からコロナ関連の「暗いニュース」で「気持ちが沈んでいく」のを感じています。
繰り返される不要不急という言葉と、高齢の自分を気遣ってしばらく会いに来ていない子どもや孫たち。
仕方ないことだとは理解しつつも「自分は「いらない」存在?」とふと考えてしまいます。
どんな理由なら外に出て良いのか、どうすれば不要不急と言われないで済むのか。
頭を悩ませ、自分の人生がいらないもののように思えていた中、占いの「いつもはしないことに挑戦」というアドバイスに背中を押されて、夫の墓参りに出かけることにします。
「あなたに会いたくなったんだ」というフレーズに、彼女の温かい気持ちがよく表れていますね。
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待ちに待ったそんな朝に
想いを馳せる日の朝に
いつもよりも早く家を出る
不意に触れた誰かの優しさが
私の優しさに変わったんだ
ほら喜びはめぐる
≪もう少しだけ 歌詞より抜粋≫
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続いて登場するのは女子高生でしょう。
コロナによってスポーツ大会の中止が相次いでいた時期が過ぎ、「待ちに待った」大会の日がやってきました。
彼女が、大会に出られないまま引退した先輩たちや、大会を開くために尽力してくれた関係者たちに「想いを馳せる」のは当然のことでしょう。
チェックした占いでは「いつもはしないことに挑戦」とあったものの、いつも通りを心がける彼女。
いつもと違うのは「早く家を出る」ことくらいでしたが、思わぬハプニングに巻き込まれてしまいます。
大会に間に合うかと不安になる彼女を助けたのは、墓参りに行く予定だったおばあさんでした。
「不意に触れた誰かの優しさ」を経験して「喜び」を感じた彼女は、大会からの帰りに自分も優しさを人に分けます。
その相手は娘にケーキを頼まれたサラリーマン。
彼もまた、墓参りを断念して帰ろうしていたおばあさんに優しさを分けていました。
3人はそれぞれ小さな優しさを示したことで、名前も知らない誰かから受け取った喜びを他の人にも届けることができました。
確かに「喜びはめぐる」のです。
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もう少しだけ もう少しだけ
踏み出せたことが
もう少しだけ ほんの少しだけ
優しくなれたことが
ありふれた一日を
特別な一日にほら
変えてくれたんだきっと
今日も
≪もう少しだけ 歌詞より抜粋≫
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いつもならしないことや、いつもは気にも留めないようなことが、日常ではたくさんあります。
しかし、意識を変えて「もう少しだけ 踏み出せた」なら、「ほんの少しだけ 優しくなれた」なら、その日は「特別な一日に」なるはずです。
それは自分の優しさが誰かから帰って来るからではありません。
自分が人のために行動できたから、そしてその何気ない小さな思いやりの気持ちが誰かの喜びや幸せを作ったからです。
小さな幸せが「もう少しだけ」毎日を明るくする
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あなたから私へと
想いが伝わる
そう僕から君にほら
喜びが広がる
ありふれた毎日から
踏み出した優しさが今
誰かに届いてきっと
めぐり続けるんだずっと
どこまでも
≪もう少しだけ 歌詞より抜粋≫
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思いやりを示されるとその優しい「想いが伝わり」、今度は自分から別の誰かへと「喜びが広がり」ます。
そのことが「あなたから私へ」「僕から君に」という表現から分かりますね。
いつもと同じはずの今日が変わったのは、「いつも」から「踏み出した優しさ」があったからです。
終わりの見えないコロナ禍で、以前は当たり前に示せていた親切が示せなくなったり、思わず周囲にきつく当たったりしてしまうこともあるでしょう。
この3人の主人公も少なからず不安や不満を抱いていて、いつも心穏やかだったわけではないはず。
しかし、そんな状況でも優しさを示せたからこそ、深い喜びを抱き明るい気持ちになれたのです。
昔も今も変わらず優しさはめぐっていて、どんなに小さな行動でも必ず誰かの喜びになって多くの人を幸せにします。
だから「もう少しだけ」頑張って行動してみようと語りかけてくれているんですね。
「もう少しだけ」歌詞の意味から読み解くメッセージ
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今日もどこかであなたが
今を生きるあなたがただ
小さな幸せを
見つけられますように
≪もう少しだけ 歌詞より抜粋≫
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最後の部分は、小説『めぐる。』と楽曲『もう少しだけ』で伝えたいメッセージが要約されています。
目の前にいる大切な人はもちろん、名前も姿も知らない世界中の「今を生きるあなた」が「小さな幸せを見つけられますように」という純粋な願いを持つこと。
そして、その温かな願いを行動に移すことが大切だというメッセージだと考察できます。
大それたことをする必要はありません。
これまで受けてきた優しさをほんの少し分けるだけでいいのです。
苦しさばかり感じるコロナ禍を明るく生きていくための大切な考え方に、心が温かくなりますね。
「もう少しだけ」は日々の幸せを作る合言葉
YOASOBI『もう少しだけ』は、原作小説に込められたメッセージを音楽の魅力と共に表現した楽曲です。
いつもよりもう少しだけ思いやりを持って行動するだけで、分け合った喜びはめぐりめぐって多くの人を幸せにしていく。
原作小説を読んでからこの楽曲を聴くと、さらに歌詞の意味が深く心に残るでしょう。
『もう少しだけ』を朝の合言葉にして、今日という日を幸せの詰まった一日にしていきましょう!