主人公は白い羊ではなく、黒い羊
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真っ白な群れに悪目立ちしてる
自分だけが真っ黒な羊
と言ったって同じ色に染まりたくないんだ
≪黒い羊 歌詞より抜粋≫
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羊と言われてイメージするのは、白いもこもことした姿ですよね。
ところが、この曲の主人公は「真っ黒な羊」。
その歌詞からは「周囲に溶け込めないという孤独感」と「それでも自分でありたい」という強い気持ちが感じられます。
イギリスには、「There is a black sheep in every flock.(直訳:どんな群れの中にも、一頭は黒い羊がいるものだ。)」ということわざがあるそうです。
このことわざは「どんな社会にも、歓迎されない困り者が1人はいる」という意味で使われます。
つまり、真っ黒な羊「a black sheep」は、厄介者ということですね。
また、心理学の世界では「黒い羊効果」という言葉が有名です。
これは、集団の中で馴染めずにいる人を排除しようとする心の動きのことを指します。
黒い羊を曲名にもち、黒い羊の視点で歌詞が紡がれたこの曲は、一体誰にあてられた曲なのでしょうか。
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人生の大半は思う様にはいかない
納得できないことばかりだし諦めろと諭されてたけど
それならやっぱ納得なんかしないまま
その度に何度も唾を吐いて
噛みついちゃいけませんか?
≪黒い羊 歌詞より抜粋≫
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周りに納得できない黒い羊に対して、白い羊になろうとするのではなく、黒い羊として噛みついていたいという嘆きにも似たメッセージが読みとれます。
納得できないならいっそ、そのままの自分でいればいいじゃないかというこの問いかけは、もしかすると、同じように苦しむ黒い羊にあてられた応援歌なのかもしれません。
MVに出てくる彼岸花の意味とは?
MVには、いじめられている学生や、非行少女、リストカットをする女性など、苦しい状況にある人々が登場します。
まさに、集団に馴染めない、黒い羊たちだと解釈できるでしょう。
センターを務める平手友梨奈は、そんな一人ひとりに近づき、突き飛ばされながらもしっかりと抱きしめていきます。
そんな彼女の手に握られているのは、なんとも目を惹く真っ赤な彼岸花です。
この彼岸花は、何を意味するのでしょうか。
まずは、彼岸花を持っているシーンと持っていないシーンが、フロアごとに別れていることに注目してみましょう。
1階では、ずっと彼岸花を持っていました。
しかし、2階に上がって「全部が僕のせいなんだ」とつぶやいた後、平手は彼岸花を捨ててしまいます。
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黒い羊 そうだ 僕だけがいなくなればいいんだ
そうすれば 止まってた針はまた動き出すんだろう?
≪黒い羊 歌詞より抜粋≫
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彼岸花を捨てて仲間の所に走り込んだとき、曲の歌詞では「自分らしさを捨ててやるんだ」と訴えています。
彼女が持つ彼岸花は、自分らしさや自分の芯のようなものの象徴なのかもしれません。
屋上にあがるまでの階段で、再び子どもから彼岸花を受け取ります。
この子どもは、平手と同じ服装・髪型をしているので、おそらく子ども時代の平手を表現しているのでしょう。
もしかしたら、2階で写っていた妙に幸せそうな誕生日シーンや大人たちから叱咤される姿は、黒い羊の過去なのかも知れませんね。
彼岸花を取り戻して屋上に辿り着いたとき、歌われるのは以下の部分です。
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白い羊なんて僕は絶対なりたくないんだ
そうなった瞬間に僕は僕じゃなくなってしまうよ
まわりと違うそのことで誰かに迷惑かけたか?
≪黒い羊 歌詞より抜粋≫
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これは、自分は黒い羊として生きてやるという力強い宣言だと捉えられませんか?
黒い羊だと指をさされたとしても、「自分らしさを大切にしたい、自分の感情や思いを大切にしてほしい」という強いメッセージなのでしょう。
屋上では、彼岸花を持ったまま、メンバー一人ひとりを抱きしめていきます。
自分らしさを取り戻したからこそ人を救えるんだ、誰かに寄り添うことができるのかも知れませんね。
歌詞に託した黒い羊へのメッセージ
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自らの真実を捨て白い羊のふりをする者よ
黒い羊を見つけ 指を差して笑うのか?
それなら僕はいつだって
それでも僕はいつだって
ここで悪目立ちしてよう
≪黒い羊 歌詞より抜粋≫
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曲の最後は、この歌詞で締めくくられます。
歌詞とMVを通して、絶望的な世界でもがく黒い羊の苦しみが表現されてきましたが、最後に伝えられるのは、「悪目立ちしてよう」というポジティブな言葉です。
特に、MVは暗いイメージが先行しますが、しっかりと歌詞を読み込めばとても前向きな曲であることが分かります。
闇を真正面から描いたからこそ、前向きなメッセージがより輝きを増して伝わってくる、苦しむ心にダイレクトに響く曲と言えるでしょう。
欅坂46メンバーの真実が詰まった1曲
欅坂46は、アイドルグループとしては、異彩を放ってきた存在です。
メンバーが何を信じて歌い、踊ってきたのか。
『黒い羊』の歌詞には、その真実が詰め込まれているのかもしれません。
欅坂46は、黒い羊として異彩を放ち、人に勇気を与え救っていくグループなのだという叫びが込められているような気がします。
秋元康と、彼女たちだからこそ表現することができる曲だと言えるでしょう。
また、意味深なMVに対する様々な考察記事がありますが、この世界観を表現した監督は、ミスリードをさせるためのシーンも用意しているはず。
聴き手をいつの間にか、どれが正しいのか?どれが正解の解釈なのか?と右往左往する白い羊にさせてしまう。
そんな皮肉な仕掛けだったらおもしろいですよね。
秋元康やメンバーが込めた真実を追うのでなく、自分の真実を見つけてほしいというメッセージとも読み取れそうです。
黒い羊を肯定するこの曲の解釈は、十人十色みんなバラバラでいいのかもしれません。