「おかえりモネ」ってどんなドラマ?
BUMP OF CHICKENの『なないろ』が主題歌として抜擢されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」は、主人公が気象予報士を目指して成長する過程を描く物語です。
主人公は海と生活が密接した島で育ち、山で森林組合の職員として働くなかで、気象予報士という仕事に出会います。
やりたいことを見つけた日に虹がかかったり、豪雨で怖い思いをしたりするなど、天気の描写が特徴的です。
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闇雲にでも信じたよ きちんと前に進んでいるって
よく晴れた朝には時々 一人ぼっちにされちゃうから
≪なないろ 歌詞より抜粋≫
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『なないろ』の冒頭の歌詞ですが、いきなり「闇雲」という天気を含む言葉を使っています。
また、「よく晴れた朝」という言葉は朝ドラの主題歌にぴったりですが、「一人ぼっちにされちゃうから」と続くのが印象的ですね。
藤原基央が作詞・作曲を手がける曲では、対照的な言葉を繋ぐことで、メッセージ性を増すような表現が多くみられます。
歌詞の2行目で、晴れのイメージとは対称的な「一人ぼっち」という言葉を持ってくるあたりに、彼のセンスを感じます。
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ヤジロベエみたいな正しさだ
今この景色の全てが 笑ってくれるわけじゃないけど
それでもいい これは僕の旅
≪なないろ 歌詞より抜粋≫
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続く歌詞で注目したいのは、「今この景色の全てが 笑ってくれるわけじゃないけど」という表現。
「景色」という言葉を使うことで、聴き手の想像力を掻き立ててくれます。
例えば、虹のかかっている景色だと「これから良い事があるよ!」と笑ってくれている感じがしますが、土砂降りの雨の景色だとそうは思えません。
この歌詞は‟天気”を含む言葉こそありませんが、天気によって左右される景色から遠回しに表現しているのではないでしょうか。
他にも、天気を思わせる表現が歌詞にたくさん出てきます。
そもそも、BUMP OF CHICKENは他の楽曲も含めて、天気を使った描写が多いアーティストです。
天気による心理描写を得意とする彼らが、気象予報士や自然をテーマにした朝ドラの主題歌に起用されることは、これ以上ないほどぴったりの抜擢だと言えるでしょう。
ドラマと主題歌の裏テーマは東日本大震災
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思い出すと寂しいけど 思い出せないと寂しい事
忘れない事しか出来ない 夜を越えて 続く僕の旅
≪なないろ 歌詞より抜粋≫
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「思い出すと寂しいけど 思い出せないと寂しい事」とは、何を指すのでしょうか。
「思い出すと寂しい」というのは、過去のつらい出来事を指しています。
しかし、「思い出せないと寂しい」という歌詞もあるので、忘れた方がいい訳ではなさそうです。
BUMP OF CHICKENは他の曲も含めて、過去の苦しい出来事を受け止めてくれるような歌詞がとても多く、彼らの音楽の根幹となっています。
過去の傷を肯定したうえで、「じゃあそろそろ行こうか」と優しく背中を押してくれるような音楽ですね。
『なないろ』もそんなBUMP OF CHICKENの曲の1つだと考えれば、特定の過去を指すのではなく、聴き手それぞれが持つトラウマや苦しい記憶に当てはめて聴ける歌詞だと言えるでしょう。
ただ、『なないろ』が『おかえりモネ』の主題歌であることを踏まえて考察するのであれば、この曲で歌われる過去のつらい出来事は、東日本大震災を指すのかもしれません。
『おかえりモネ』には、東日本大震災が裏テーマになっています。
主人公は宮城県気仙沼市の出身ですが、震災当時はその場から離れていたため、家族と苦しみを共有できなかったという過去の傷を抱えています。
‟自分に何ができるか”と悩むうちに、気象予報士という仕事に出会うというストーリーです。
「忘れない事しか出来ない 夜を越えて 続く 僕の旅」という歌詞は、大震災を忘れずに夢へ向かって進む主人公モネに当てはめて聴くこともできそうですね。
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失くせない記憶は傘のように 鞄の中で出番を待つ
≪なないろ 歌詞より抜粋≫
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無くせない記憶を傘に例えるこの歌詞は、つらい記憶も、いつか出番がくれば、傘のように自分を雨から守るだろうというメッセージだと解釈できるのかもしれません。
歌詞に込められたのは前向きなメッセージ
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昨夜の雨の事なんか 覚えていないようなお日様を
昨夜出来た水たまりが 映して キラキラ キラキラ
息をしている
≪なないろ 歌詞より抜粋≫
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「昨夜の雨」を‟過去のつらい出来事”だと捉えると、その雨によってできた水たまりがキラキラ輝いているという描写は、とても前向きな表現だと捉えることができます。
お日様だけだと地面を照りつけるだけですが、水たまりがあることによって、日の光が反射し、キラキラと輝きます。
つらい過去があることによって、より輝くのであれば、過去も前向きに捉えられるのかもしれません。
2021年5月18日に公開されたMVは、黄色のワンピースを着た女性と水色のワンピースを着た女性が空を落ちていく映像となっています。
お互いに手を掴もうとするものの、なかなか掴めずに落ちていき、終盤で手を繋ぐという内容です。
水色を雨やつらい過去、黄色をお日様や自分の未来を照らしてくれるものだと解釈すると、つらい過去が日に照らされて、いつか輝くという歌詞の内容に合いそうですね。
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歯磨きして顔洗って着替えたら いつもと同じ足で出かけようぜ
相変わらずの猫背でもいいよ 僕が僕を笑えるから
≪なないろ 歌詞より抜粋≫
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「歯磨きして顔洗って着替えたら いつもと同じ足で出かけようぜ」という歌詞は、朝起きて誰もが日常的にする動作なので、聴き手にとって親近感がありとても嬉しい気持ちになります。
自分たちと同じ視点で音楽を紡いでくれている安心感があるのかもしれません。
そして、何よりも注目したいのが、「いつもと同じ足で出かけようぜ」という歌詞。
今日からのまっさらな足ではなく、つらい過去も共に歩いてきた自分の足で、今日を歩いていこうというメッセージだと捉えることができます。
一見するとラフな歌詞に見えますが、しっかりと意味を考察すると、過去の傷を抱えたまま、前へ進む覚悟を感じる力強い歌詞に聴こえてきます。
「なないろ」とBUMP OF CHICKEN
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躓いて転んだ時は 教えるよ
起き方を知っている事
≪なないろ 歌詞より抜粋≫
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転んでしまったときに、前向きな言葉をかけたり、起き上がらせたり、いろいろな寄り添い方があると思いますが、『なないろ』では「教えるよ 起き方を知っている事」という言葉が使われています。
これは転んでしまった人が持っている強さを信じる言葉です。
「俺たちは転んできたからこそ、起き方も知ってるよね。」と言われているような気持ちになります。
曲作りにおいて主題歌を担当するとなると、ドラマに合わせるあまりバンドとして表現したいことから離れてしまう場合もあるのかもしれません。
しかし、歌詞を考察すればするほど、どこまでいってもBUMP OF CHICKENだなと安心させてくれます。
BUMP OF CHICKENは結成から25年以上が経ちました。
ドラマとの関係性で考察すれば、ストーリーとリンクする歌詞に驚きますが、やっぱり弱者をそばで支えてくれる彼らの音楽には揺るぎがないと感じます。
『なないろ』の歌詞の意味を読み解くことで、楽曲はもちろん、新しいBUMP OF CHICKENの音楽の楽しみ方が見えてきます。
ぜひ歌詞を考察しながら楽曲を聴いてみてくださいね。
BUMP OF CHICKENは、トイズファクトリーに所属する4人組のロックバンド。独特な世界観とボーカル藤原の圧倒的歌唱力、更にはドラマの他、アニメやゲームとのタイアップ曲も多く、幅広い年齢層から支持を集めている。 幼稚園時代からの幼馴染であり、1994年、当時中学校の同級生であった4人が、文···