Adoの5thシングルがドラマ「初情事まであと1時間」の主題歌に
迫力のあるハスキーな歌声と豊かな表現力でリリースする楽曲が軒並みヒットし、今や日本を代表する令和の歌姫となっているAdo(アド)。2021年6月14日に配信リリースされた5枚目のシングルとなる新曲『夜のピエロ』は、『フロイトメタ』以来の再タッグとなるボカロPのbiz(ビズ)が作詞作曲を手がけています。
MBSの深夜ドラマ『初情事まであと1時間』の主題歌に起用されていて、Ado初のドラマタイアップという記念すべき作品でもあります。
ドラマで描かれる恋人たちが初めて結ばれる前のデリケートな心情に寄り添うような、不器用で切ない歌詞と音楽に引き込まれるでしょう。
それではさっそく歌詞の意味を考察していきます。
孤独で暗い毎日から抜け出したい
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街灯は消えてく 孤独な夜が誘う
騒がしい日々の眩しさに 今日を演じてる
憧れと好奇心 眩み 目は霞んでゆく
退屈な自分は 窮屈な日常は 忘れ去って
踊るナイトタウン
≪夜のピエロ 歌詞より抜粋≫
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歌詞で描かれる舞台は夜の街。
ただでさえ暗い夜道の街灯が消えていく様子は、寂しさを抱えて生きる主人公に一層孤独を感じさせています。
日中の街の騒がしさは、多くの人が「憧れと好奇心」を持って集まっていることの証拠であり、おそらく主人公自身もかつてはその一人だったのでしょう。
しかし、次第にその眩しさに「目は霞んでゆく」ばかりで、今では人生を楽しむというよりも「今日を演じて」日々をやり過ごしています。
とはいえ街灯も消えた夜道を歩く時だけは、退屈さも窮屈さも忘れてただ踊りに興じます。
その姿はきっと、何も分からないふりをしておどけるサーカスのピエロのようです。
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もう慢性的な不感症 未体験 街を抜け出そう
鏡とその面影 でも あどけなくて
サヨナラを告げた 自分を嘲笑った
これでいいんだ 止まった終電
いつか忘れてた この夢も
日々の幻想に消えてゆく
≪夜のピエロ 歌詞より抜粋≫
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「不感症」とは性的な快感を得られない状態のことですが、ここでは日常の中での驚きや喜びといった心の動きがない状態を指していると考えられます。
そんな日常を変えようと、心が動くような「未体験」なものに出会うために彼女は街を出る決意をしました。
ふと見た鏡に映るのは、生き生きと夢を抱いていた頃の面影が残る自分の姿。
あどけなさと共に残るいつかの気持ちに「サヨナラを告げた」のは、きっと今のままでは何も変わらないことに気づいているからです。
鏡の中の自分は眩しい場所から逃げようとする自分を嘲笑いますが、彼女は終電の行き着く先に身を任せます。
自分が見ていた夢はただの幻想で、ここから自分の新しい人生が始まることを思えば怖くはありません。
朝が来る不安に逃げ道はない
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夜明けは微かなメランコリー 朝が怖いんだ
蓋をする思考力 酔えず吐いたアルコール
理由もない不安が胸に押し寄せるんだ
溺れそうだ 足掻くだけの日々
≪夜のピエロ 歌詞より抜粋≫
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「メランコリー」は「憂鬱」という意味です。
毎日自分を演じて生きる彼女にとって朝が来ることは怖く、夜明けの時点で気は重くなっていきます。
考えるのをやめてしまおうと、そして自分を変えようとしてアルコールに頼ってはみますが、結局酔えずに吐いて気分が悪くなるだけだったようです。
特別な理由があるわけでもないのに、言いようのない不安に駆られることは誰にでもあるのではないでしょうか。
そんな不安に溺れそうになりながらも解決策はなく、必死で足掻いて耐えることしかできないでいます。
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使い捨てのような毎日に
ただ踊るだけのエキストラ
≪夜のピエロ 歌詞より抜粋≫
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何の意義も感じられない似たような毎日はまるで「使い捨て」のよう。
彼女も自分の人生を歩んでいるはずなのに主人公になることはなく、誰かを引き立てるために踊るという役割を与えられた「エキストラ」のように日々を淡々と過ごしています。
そこにやりがいや生きがいを見出すことは難しいでしょう。しかし、彼女は生きることを諦めてはいません。
光と影の対比を描くサビの解釈とは
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ネオンが夜を飲み干す 苦いだけの空き缶に
掃き溜めた劣等 冷たく胸を焦がす
独り孤独を吐いた
≪夜のピエロ 歌詞より抜粋≫
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街中で光る煌びやかなネオンは「夜を飲み干す」かのように、人々の孤独や暗い気持ちを覆い隠してしまいます。
その中で彼女は苦いばかりで美味しく感じられなかったお酒の缶を手にして、周囲への劣等感に苦しんでいるようです。
アルコールと一緒に自分の孤独の苦しみも吐き出せたらいいのに、と考えているのかもしれません。
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煌めく街の明かりは 色を変えて
蔑んでる 部屋にポツリ
虚ろな光は通り過ぎて 影となった
夜に沈む
≪夜のピエロ 歌詞より抜粋≫
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色彩豊かなネオンの光で煌々と照らされる賑やかな街とは対照的に、彼女は薄暗い家の中に一人でいます。
時おり外からの光が差し込んではその度に影が生まれ、部屋は「夜に沈む」ように一層暗くなってしまいます。
光があるからこそ影が生まれる世界の摂理と不条理さがよく表れた表現です。
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笑い笑われるピエロ
街灯は消えて夜に沈む
≪夜のピエロ 歌詞より抜粋≫
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誰かの人生を楽しませるために笑い、滑稽さを笑われる「ピエロ」のように、彼女は眩しい世界の脇役として生きています。
決して望んだ役ではありませんが、夜の暗闇に溶け込む彼女はそんな自分を受け入れているようでもあります。
世界へ向けるその笑顔には、光の裏に潜む影を知らない人々への冷笑も含まれているのかもしれませんね。
「夜のピエロ」のメッセージが疲れた心に寄り添う
Adoの『夜のピエロ』は、自分の生きる意味を見失い、毎日をただ生きている多くの人の心を代弁した美しい表現の歌詞が印象的です。誰にも分かってもらえないと思えるような寂しさや苦しみを抱えているのは自分だけではないことを、この楽曲を通して感じることができるのではないでしょうか。
孤独や不安に押し潰されそうになっているなら、周囲を嘲笑ってでも強く生きよう。
現代の若者の等身大の気持ちに対する優しいメッセージが伝わるおすすめ曲です。