新世代ボカロP「獅子志司」
獅子志司は「しししし」と読みます。
実は一度改名しており、以前は「チョイソース」という名前で活動していました。
獅子は、Twitterで「チョイソースの活動は選ぶ時間でした」と呟いており、どんな音楽を作っていくか、どのような方向性で活動していくかを試行錯誤していた時期であることが分かります。
獅子は、2018年1月に『風花のバス停』でボカロPチョイソースとしてデビューを果たします。
転機が訪れたのは2019年6月、獅子志司に改名して初めて投稿した『絶え間なく藍色』が大ヒットを飛ばしたことです。
ニコニコ動画では、再生回数が10万回以上を突破したボーカロイド曲に対し、「VOCALOID殿堂入り」というタグを付けられることが許されます。
このタグはボカロ曲の人気度を示す指標となり、視聴回数をさらに伸ばす事にも繋がります。
獅子は『絶え間なく藍色』で初めて殿堂入りを果たし、人気ボカロPの仲間入りを果たしました。
ボカロP兼シンガーソングライターでもある獅子。
Youtubeでは、初音ミクver.とセルフカバーver.のMVがそれぞれ公開されており、合計再生回数は480万回を超えています。
獅子志司の独創的な言葉選びと中毒性のある音楽にピッタリなこのMV。
映像を制作したのは、シマグチとユキハルノです。
不規則に揺れる主人公の背中、その周りにはネオンのような色取りで歌詞が映し出されます。
大きな動きがある映像ではないのですが、忙しなく揺れ動く心情の変化を表現していることが伝わってきます。
現実と向き合う主人公
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エゴの満場 理性の冷凍
あてのない最前線にどうして
僕らは希望持って 恐れては叫んだ
無知の彼は僕の頭上
≪絶え間なく藍色 歌詞より抜粋≫
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エゴで満たされた場所では、もはや理性は言うことを聞きません。
現状に満足できない主人公は、特に頼れる先もないのに最前線に強い憧れを持っています。
一流の現場ならば、自分も何か変われるかもしれないという根拠のない希望を持って、恐がりながらも心情を吐露します。
そんな主人公の頭上を悠々と超えていく彼。
無知な人とは一見、恥ずかしく愚かな存在に思われますが、無知ほど強いものもありません。
例えば習い事。
始めは楽しいという気持ちしか湧かなかった習い事が、続ける内に次第に知識が付いていき、段々同じことをしていても不自由に感じたり、本番や大会が怖いと思うようになったりすることがありますよね。
しかし、無知な人は無知がゆえに怖いという感覚に辿り着かないことの方が多いのです。
だからこそ、自分のやりたいようにのびのびとパフォーマンスが出来たり、根拠のない自信をもって様々な事に取り組むことが出来たりします。
自身の中で葛藤する主人公からすれば、彼はある意味羨ましい存在に映っているのではないでしょうか。
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如何せんアイロニー告げてタイトに
栄誉なんて案外ノリ
変わってくランデブー日々睨んでく
不甲斐ない夢はもう十分です
≪絶え間なく藍色 歌詞より抜粋≫
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この部分は、歌詞の韻の掛かり方が非常に気持ちよいパートです。
「アイロニー」とは「皮肉」を意味します。
周りを見てみると、自分が追い求めていた栄誉が、意外とノリで手に入れられることが分かった主人公。
真面目に考えていた自分が少しバカバカしくなっているようにも見えます。
「ランデブー」は「(男女の)待ち合わせ」を意味します。
このランデブーとは、理想と現実の待ち合わせを意味するのではないでしょうか。
それが変化していくということは、理想と現実をなかなか上手くすり合わせることが出来ず、日常に嫌気がさしているのかもしれません。
そして、努力してもなかなか結果が出ないことに不甲斐なさを覚え、夢を手放そうとしているのではないでしょうか。
「少年A」自由への脱却
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大乱戦のオーダーメイド
やった者勝ちに躊躇
捨てされ左脳も意地も
類のない有頂天へと
突いて上がれ少年Aよ
稀代の未来を掲げるくらいの
≪絶え間なく藍色 歌詞より抜粋≫
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「オーダーメイド」は、アパレル業界でよく耳にする言葉で「受注生産品」を意味します。
サビは「大乱戦のオーダーメイド」という印象的なワードで始まります。
つまり、この世は個性や独自の世界観を持った人達で溢れかえっている厳しい世界ということが表現されています。
主人公は、これまでの歌詞を見る限り、どこか慎重な面も持っているようなので、この「やった者勝ち」な世界にやや躊躇しているようです。
しかし、つづく「捨て去れ左脳も意地も」というフレーズには、論理的な思考は捨てて、なりふり構わずやりたいことをやれというメッセージが込められています。
有頂天になるほど自分に自信を持てれば、きっと一世一代の大偉業を成し遂げられるはずだという強い信念も感じられます。
この楽曲を聴いている1人1人が「少年A」になれるのではないでしょうか。
現実を受け入れた先の成長
『絶え間なく藍色』では、現実を受け止めながら自分自身の弱さと向き合う主人公が、見栄やプライドといった自分を縛り付けるものから解放されようともがく姿が描かれていました。
短所や弱点に飲み込まれていくのではなく、悩み葛藤しながらも自分を鼓舞して前進しようとする強い姿勢がとても印象的な楽曲です。
今回、ご紹介したパート以外の歌詞もとても素敵なので、是非フルで楽しんでみてください。