2015年の暮れに放送されていた各音楽特番で、この人を見ない機会はなかったほど、お茶の間を賑わせるポップスターとなった星野源。私も好きで、昨年暮れから今迄で最も聴いた作品が、星野源の最新作「YELLOW DANCER」だ。
公開日:2016年3月7日
2015年の暮れに放送されていた各音楽特番で、この人を見ない機会はなかったほど、お茶の間を賑わせるポップスターとなった星野源。私も好きで、昨年暮れから今迄で最も聴いた作品が、星野源の最新作「YELLOW DANCER」だ。
紅白でも披露された「SUN」を筆頭に、星野源が「自分のルーツである」と語ったブラックミュージックを日本人として、そして「星野源」という自分自身のカラーと調和させて制作された、色とりどりな楽曲群。Earth, Wind & Fireの往年の名曲「Boogie Wonderland」を彷彿させるファンク色の強い、体を揺らしたくなるような曲もあれば、弾き語りで歌われるしっとりとした曲もあり、聴き応え抜群のアルバムになっている。そのアルバムの中で、最も異彩を放つ楽曲が一曲目となる「時よ」。
サビから始まるこの曲で、このように歌いだします。
“動き出せ 針を回せ 次の君に繋がれ 時よ 僕ら乗せて 続いてく 意味もなく”
この部分、色々な受け取り方ができる。ポイントは"針を回せ"という歌詞。この歌詞から想像されるのは二通りある。一つはレコード。レコードの針を回すことで再生される音楽によって、その音楽を聴くまでの自分にはなかった感覚を覚え、新しい「次の君」に繋がる。往年の音楽を愛聴する星野原らしい一節だ。もう一つが、言葉の通り「時計の針」。針を回すことで動き出す時間は、そのまま人生を指している。そして、そんな時間を彼は”続いてく 意味もなく”と歌う。アルバムの一曲目しかも頭の歌詞で、星野源は人生を「意味もなく流れる時間」と綴っている。
その後の歌詞では、
”結んで開く 朝顔の色 茜の空に帰る鳥の色 月も朝日もこの顔の色”
”初めての春を 夜に鈴虫の歌を 夕立に濡れた君を 白い息に 日々を残して”
一日の時間の流れを想像させるだけでなく、四季の巡りが歌われ、時間軸がスケールアップしていく。景色を変えながらも流れていく時間。色々な出会いや別れを繰り返しながらも無機質に続いていく人生。星野源はそんな時の流れ(=人生)について、最後にはこのように締められている。
”時よ いつか降りるその時には バイバイ”
時から降りるという言葉からは「死別」が想像される。どのように時が流れても、どんな風に生きていても、人は誰しも、いつかは時の流れからは降りなくてはいけない。一見ネガティブに捉えられるが、最後に”バイバイ”と明るく綴られ、歌われる詞からは、帰り道、友達と別れる時に発せられる”バイバイ"のようなポジティブさが伝わってくる。
いつかは終わる人生だけど、終わりがあるからこそ、最後に笑って手を振れるような、笑顔でいれるような日々を過ごしていこう。そんな刹那的な思いが、軽快でキャッチーな曲調の中で歌われるからこそ、より一層重みをもって伝わってくるのだ。
星野源がこのような歌詞、曲を作るようになった背景には、彼が以前「くも膜下出血」を患った事が関わっている。大げさかもしれないが、「死」と向かい合ったからこそ、生きている「今」を一生懸命楽しく生きることの大事さを見つけたのだ。悲しいことも辛いこともひっくるめてプラスの力に変えて楽しもうとする強さを持とうとした。いつか来る時の流れからの下車も、笑って手を振れるように。
星野源がポップスターとなり得たのは、ただただキャッチーな曲を歌っているからだけでも、俳優、執筆業などマルチに活躍しているからでもない、誰もが生きていく中で抱えるネガティブをポジティブに転換し、発散してくれるからなのだ。
TEXT:のすぺん