アンパンマンの原作と戦争体験
アニメで放送されているアンパンマンは、顔があんぱんでできている正義のヒーローですよね。悪さをするばいきんまんとたたかう子供向けのアニメというイメージが強いでしょう。
さて、アンパンマンの原作をご存じでしょうか?
もともとは、おなかをすかせた子どもにアンパンを配る男性を描いた大人向けの作品だったようです。
アンパンマンの原作者であるやなせたかしは、日中戦争に出征した経験があり、特攻隊員となった弟を戦争で亡くしています。
飢えの苦しみを知っているからこそ、アンパンを配る男性を描いたのでしょう。
これを踏まえると『アンパンマンのマーチ』にも、戦争体験が影響していると考えられます。
作詞したやなせたかしの戦争体験を踏まえて『アンパンマンのマーチ』の歌詞について考察していきます。
特攻隊員として戦死した弟への想い
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ああ アンパンマン
やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため
≪アンパンマンのマーチ 歌詞より抜粋≫
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歌詞には、「アンパンマン」と「君」が登場します。「ああ アンパンマン」と呼びかけた後、「やさしい 君は」と続くため、アンパンマン=君だと解釈できますね。
やさしいアンパンマンがみんなの夢を守るというストーリーは、アニメの内容とも合致しますので、主題歌としてふさわしい歌詞だと言えるでしょう。
しかし、この歌詞にやなせたかしの戦争体験が影響していると考えると、「君」には戦死した弟も重ねられているのかもしれません。
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今を生きる ことで
熱い こころ 燃える
だから 君は いくんだ
ほほえんで
≪アンパンマンのマーチ 歌詞より抜粋≫
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「君」に弟を重ねると、「熱いこころ」という歌詞は、特攻隊員として、自分は死んでも国のために戦うのだという力強い正義感を表現していると捉えられそうです。
「君はいくんだ」という歌詞が弟を見送るやなせたかしの視点だとすれば、「ほほえんで」という歌詞は、死ぬことを分かっていながら正義感をもって出撃していった弟の姿を表現しているのだと解釈できます。
戦争の悲しい体験を踏まえ、弟への愛といのちの尊さを表現した歌詞だと言えるでしょう。
やなせたかしが歌詞に込めた深い意味
戦時中は「国のために命をかけて戦う」のが正義だとされていました。やなせたかしの弟も、その正義を信じたからこそ、ほほえんで出撃したのだと想像できます。
しかし、戦争が終わると、正義の価値観はひっくり返りました。このとき、やなせたかしは「正義とは何か」を問い直したのかもしれません。
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愛と 勇気だけが ともだちさ
≪アンパンマンのマーチ 歌詞より抜粋≫
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『アンパンマンのマーチ』のなかで特に有名なフレーズですね。
やなせたかしは「愛と勇気」だけが、どんな時代であっても変わらない正義なのだという結論に至ったのではないでしょうか。
漫画家人生において、アンパンマンというキャラクターで「正義とは何か」を表現しつづけたのかもしれませんね。