100年の時を越える文通を描くロマンス小説が原作
デビュー曲『夜に駆ける』で一世を風靡し、発表曲が必ず注目される“小説を音楽にする”ユニット・YOASOBI。2021年9月15日に配信リリースされた楽曲『大正浪漫』は、原作募集コンテスト「夜遊びコンテストvol.2」で応募された2,086作品の中から大賞に選ばれた『大正ロマンス』を原作としたラブソングです。
『大正ロマンス』は、令和に生きる時翔と大正に生きる千代子との時を越えた不思議な文通をテーマにしたストーリーとなっています。
その壮大なストーリーを踏襲した『大正浪漫』は、懐かしさを感じるメロディと現代的なリズムの融合にAyaseらしいセンスを感じる楽曲で、爽やかなikuraの歌声がピュアな気持ちを見事に表現しています。
リリース日の翌日からYouTubeで公開されているMVはすでに750万回再生を突破していて、カラフルで細やかなアニメーションに惹きつけられるはずです。
そんなMVの解説と歌詞の考察を交えながら、YOASOBIが描く世界を覗いてみましょう。
----------------
ある日突然にそれは
訪れた出来事
始まりは一通の手紙
送り主は遥か昔を生きる君
そんな不可思議な出会い
≪大正浪漫 歌詞より抜粋≫
----------------
歌詞の主人公は原作と同じく時翔です。
大正12年という「遥か昔を生きる」千代子から届いた一通の手紙によって、二人は奇跡的で「不可思議な出会い」を果たします。
回り続ける無数の時計や和風な絵柄と花が交互に描かれた背景は、二人の生きている時代の違いを物語っているようです。
様々なモチーフが描かれているので、何が出てくるのか発見するのも楽しいですよ。
----------------
僕の時代には今
こんなものがあって
こんな暮らしをしているよ
文字に込めて伝え合ううちに
いつしか芽生えたロマンス
≪大正浪漫 歌詞より抜粋≫
----------------
2023年を生きている時翔は、現代にある物や暮らしについて書いた手紙を送ります。
描かれているテレビや冷蔵庫、洗濯機は現代では当たり前のものですが、大正時代にはその片鱗さえなかったものばかりです。
手紙を受け取った千代子にはきっとたくさんの驚きと疑問が生まれ、二人の文通は頻度を増していったことでしょう。
そうして手紙のやり取りを続ける中で、二人の間に恋心が芽生えていきました。
好きになったのは会いたくても会えない人
----------------
決して出会うことの出来ない僕ら
それぞれの世界から
綴る言葉
募る想い
姿さえも
知らないまま
≪大正浪漫 歌詞より抜粋≫
----------------
令和と大正という100年もの時が障害となり、「決して出会うことの出来ない僕ら」。
どんなに手紙を通して知り合って想いを募らせても「姿さえも知らないまま」の関係です。
同じように手紙を読んでいても雨に打たれていても、彼らの服装や周囲の景色は全く違います。
二人の姿が背中合わせで描かれているところも、この関係が決して交わらないことを表現しているようで切ないですね。
----------------
どんな時も君の言葉を
待ち焦がれているんだ
生きる時代は違うけど
何度でも時間を越えて
君と伝え合う想い
願いが叶うなら
一目でいいから
会いたいな
好きだから
≪大正浪漫 歌詞より抜粋≫
----------------
同じ電車に乗っている人でも車両が違えばその存在を知ることはできませんが、時代さえも異なる二人にとってその壁はどうやっても取り除けません。
しかし、生きる時代は違っても、手紙を通じて言葉を送ることで想いを伝え合う関係は美しいものです。
時を隔てて隣同士で相手を想い合う二人の表情にも幸せが滲んでいます。
もちろんこの恋が成就することはないと分かっているので、無謀な願いを持つことはしません。
ただ「一目でいいから会いたいな」という素朴な願いに、時翔の純粋な愛情が伝わってきます。
----------------
不意に思い出したのは
君が生きる時代の明日
起こること
悲しいこと
伝えなくちゃ
どうか奇跡よ起きて
≪大正浪漫 歌詞より抜粋≫
----------------
華やかで幸せにあふれていた映像から一転、暗転から始まるシーンには不穏な雰囲気が漂います。
時翔が思い出した「君が生きる時代の明日」とは、関東大震災が起きた日のことです。
これから起こることとその顛末を千代子に伝えなくてはいけないと考えます。
時翔は千代子が災難から逃れられるよう手紙を送り、「どうか奇跡よ起きて」と祈ることしかできません。
結果はどうなってしまうのでしょうか?
届いた手紙は愛する人が生きた証
----------------
過ぎていく時と
変わる季節
あれから途絶えた手紙
もう届かない言葉だけが胸を締めつける
≪大正浪漫 歌詞より抜粋≫
----------------
千代子からの手紙が届かないまま時間ばかりが過ぎ、季節は変わってしまいました。
白い背景に黒い時翔のシルエットと歌詞の文字が浮かぶ様子は、彼の暗い胸の内を表しているのでしょう。
間に合わなかったことに絶望し、自分を責めてしまうのは仕方のないことかもしれません。
しかし、MVの千代子は手紙を手に走り出していて、そこに深い意味があるように感じられます。
----------------
遥か彼方100年先を
君が見てみたいと願った未来を今
僕はまだ歩いているよ
苦しい想いを胸に抱いたまま
そんな僕に届いた手紙
見覚えのある待ち焦がれていた文字
それは君があの日を越えて
僕に書いた最後の恋文
君が君の時代を生きた証を
八千代越えても握りしめて
僕が僕の時代に見るその全てを
いつか伝えに行くよ
≪大正浪漫 歌詞より抜粋≫
----------------
千代子が「見てみたいと願った未来」を時翔は生きています。
愛する人を救えなかったことに苦しんでいましたが、ある時千代子からの「最後の恋文」を受け取ることになりました。
彼からの手紙は当日には間に合わなかったものの千代子の手に渡り、その返事が時翔の元に確かに届いたのです。
時翔はこれまで彼女から受け取ってきた手紙を「君が君の時代を生きた証」として、大事に守っていくことを決めます。
そしていつか今度こそ会える時が来たら「僕が僕の時代に見るその全てを」伝えるため、この時代を懸命に生きていこうと決意するのでした。
最後の最後で抱き締め合った二人でしたが、千代子の姿は「好き」の文字に変わって消えてしまいます。
切ないラストですが、千代子の存在を以前よりももっと身近に感じられたからこそ、触れ合えたような心持ちになったのだと考えられます。
愛する人と共に生きられることだけが幸せではないのかもしれません。
心の中に大切に想える人がいるというだけで、とても尊いことのように感じられますね。
「大正浪漫」は想いの強さを教えてくれる
YOASOBIの『大正浪漫』からは、強く純粋な愛情は時を隔てても通じ合うものだというメッセージが伝わってきます。
実は歌詞の中に時翔と千代子の名前が隠れていたことに気づきましたか?
生きている間に出会うことは叶わない二人が、この楽曲の中で出会えたと思うとよりロマンチックですよね。
ぜひ歌詞とMVをじっくり楽しんで、美しい世界観に浸ってください。