「プロセカ」のために書き下ろされたEveのボカロ曲が話題
人気アニメ『呪術廻戦』のオープニングテーマ『廻廻奇譚』が驚異的ヒットを記録し、音楽シーンにその名を知らしめたシンガーソングライター・Eve。
歌手としてメジャーデビューしてからのファンであれば、ボカロPとして活動していたことを知らない方も少なくないのではないでしょうか。
2021年9月30日リリースの配信限定EP「群青讃歌/遊生夢死」の表題曲『群青讃歌』は、“プロセカ”の愛称で親しまれるスマホゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」のリリース1周年を記念したアニバーサリーソングとして書き下ろされました。
ゲーム内では初音ミクが歌うバーチャル・シンガーver.と、初音ミクとゲームキャラクターが歌うセカイver.が収録されていて、早くも音楽ファンを虜にしています。
Eveがボカロ曲を発表するのは2年9ヶ月振りで、青春をテーマにした内容からしてもEveの原点回帰とも言える注目の楽曲。
くっか制作のアニメーション映像が美しく歌詞の世界観を伝えていて、YouTubeで公開されているEve歌唱ver.のMVも魅力的です。
では歌詞とMVの内容から、込められたメッセージを徹底考察していきましょう。
海に沈んだ街で暮らす少年少女
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繋がっていたいって 信じられる言葉
だってもう昨日の僕らにおさらば
青い春を過ごした 遠い稲妻
≪群青讃歌 歌詞より抜粋≫
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舞台は海に沈んだ都市。そこには空飛ぶ少女や猫の耳と尻尾がついた少年など、個性的な若者たちが暮らしているようです。
MVは初音ミクにも似た青髪の少女が主人公のようですが、歌詞ではそこに暮らす全員の共通する思いが綴られているように思えます。
歌詞の「青い春」は文字通り青春のことで、タイトルの「群青」が意味するのも同じでしょう。
「遠い稲妻」が春の訪れを告げる春雷のことだと考えると、青春と呼べる時期が終わり遠ざかっていくようなイメージを受けます。
新しい朝を迎えることに喜びより喪失感を抱いていることも「昨日の僕らにおさらば」というフレーズから感じ取れますね。
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さっと泣いて 前だけを向けたら
きっとどんなに楽になれていたろうな
この心を揺らした 一縷の望みは
ないものねだりは辞めた 未完成人間
素晴らしき世界だけが 答えを握ってる
≪群青讃歌 歌詞より抜粋≫
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毎日繰り返しているはずの空からの帰宅や料理に失敗する様子は、うまくいかない日常を表しているのではないでしょうか。
水没した街での暮らしに無理矢理慣れることはできたとしても、一度思い切り悲しむだけで受け入れられるほど簡単なものではないでしょう。
そんな中で「一縷の望み」と歌われるのが、Eveのオリジナルキャラクター・ひとつめ様が知らせる天気予報。
そこに水没の原因があって、解決の糸口が見えそうな状況なのかもしれません。
「未完成人間」とはおそらくまだ自分たちが子どもであることを意味していると考えられます。
他に大人が登場しないことからすると街には少年少女しか残っておらず、大人に頼りたくても頼れない日々に諦めムードが漂っています。
スイカの髪留めをつけた少女が訪れたことが自ら行動する決意の表れだとしたら、その前向きな行動の先に「素晴らしき世界」が待っていることを意味していると言えそうです。
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諦めてしまうほど この先沢山の
後悔が君を待ってるけど
もうない 迷いはしないよ
この傷も愛しく 思えてしまうほど
重ねてしまうよ 不格好なまんまでいいから
走れ その歩幅で 走れ 声 轟かせてくれ
期待と不安を同じくらい抱きしめて
君と今を紡ぐ未来照らして
≪群青讃歌 歌詞より抜粋≫
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サビでは「諦めてしまうほど この先たくさんの後悔が君を待ってる」と語りかけています。
大人になってから、学生の間にやっておけば良かったと後悔することが多々あるでしょう。
しかし、そうして負った傷も「愛しく思えてしまう」と、完璧でない「不格好」な生き方を肯定しています。
MVの青髪の少女も失敗ばかりでしたが、空から降る水の塊からスイカの髪留めの少女を守ろうとして必死に行動したことで、無事守り切ることができました。
たとえその姿がヒーローのように華麗でないとしても、勇気を持って行動したという事実は誇るべきことです。
大人になるというこれまでとは違う環境に身を置くとき、どうしても不安を抱えてしまいます。
それでも青空を高く飛ぶようにもっと自由な世界へ飛び立つことを想像すると、期待に胸が膨らみますよね。
今までの自分とこれからの自分がどうであるとしても、自身の存在を認めて前進していくならきっと未来は明るく輝くはずです。
青春の記憶は大人になっても覚えていたい
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顔も名前も知らない僕たちが
たった1つの音をかき鳴らす
いたずらみたいな奇跡のような刹那
≪群青讃歌 歌詞より抜粋≫
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「顔も名前も知らない僕たちがたった1つの音をかき鳴らす」という歌詞は、プロセカの世界を表現しているのでしょう。
顔も名前も知らない人たちが1つの楽曲を演奏するゲームの構成をまさしく言い表しています。
そして同時に、世界中の人と繋がれる奇跡のような音楽の魅力も伝わってきて、1番冒頭の「繋がっていたいって信じられる言葉」のフレーズとも関連しているように思えます。
出会った少女たちも一緒に食事や洗濯をして過ごしていて、何かの攻撃を受けていたとは思えない平穏な時間を共有しているようです。
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あっという間に流れる時が
ありのままで在り続ける怖さが
失った時間は取り戻せないけれど
過去を振り返ってばかりじゃ 泣いたっていいんだ
悔しさと痛みだけが 君を肯定するから
≪群青讃歌 歌詞より抜粋≫
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とはいえ、そんな幸せな時間も「刹那」で「あっという間に流れ」ていきます。
今の生活を受け入れるという「ありのままで在り続ける怖さ」に打ち勝つには、行動を起こすしかありません。
彼らが集まって進める会議のタイトルは「猫鯨ゲキタイ大作戦」。
その内容によると彼らを悩ませているのは「猫鯨」という生き物で、猫鯨が降らせた雨によって世界が海に沈んだとのこと。
人々は対抗しようと動いたものの国家間の対立によって人口は減る一方で、反対に猫鯨の数が増えているようです。
そこで残された少年少女が、一縷の望みをかけて人工消雨弾の残骸を大量に打ち込んで雲を晴らそうと計画しています。
歌詞の「過去を振り返ってばかりじゃ」の後には「だめだ」と続くと解釈できるでしょう。
しかしあえて歌詞に含めず、すぐに「泣いたっていいんだ」と続けています。
「悔しさと痛みだけが君を肯定する」とあるように、過去のたくさんの失敗があってこそ成功に繋がる一歩を踏み出せます。
時には過去を振り返って悲しみながらも、思いは未来へ向けているべきだと力強く伝えてくれているように感じますね。
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大人になったら 忘れてしまうの
君との約束をした場所は
もうない 覚えていたいよ
思い出も愛しく 思えてしまうほど
重ねてしまうよ 不格好なまんまでいいから
その声はどこまでも鳴り響いて
≪群青讃歌 歌詞より抜粋≫
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ついに作戦は決行され、荒れる天候の中猫鯨への攻撃が始まります。
こんな衝撃的な出来事でも「大人になったら忘れてしまう」ものかもしれません。
もしそれが自然なことだとしても「覚えていたいよ」というストレートな言葉から、切実な気持ちが伝わってきます。
大切な人の名前、他愛のない会話、かけられた言葉。
不格好でも些細な思い出でも、その中で生まれたたくさんの声が「どこまでも鳴り響いて」心に残り続けてほしいと願う歌詞が心に沁みますね。
一歩踏み出せば世界は変わる
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確かな理由を抱いてここまで来たんだ
まだ終わらない旅路なんだ
いつしか想いは形になる この真っ白に染まる朝
忘れられないまま だから
≪群青讃歌 歌詞より抜粋≫
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スイカの髪留めの少女が海へ落ちて行くと、場面は青髪の少女の過去の記憶へと変わります。
父親と姉妹らしき影が遠ざかり、幼い少女は手渡された猫鯨のぬいぐるみを手に独り取り残されてしまいます。
明るく見える彼女は家族を失った喪失感にずっと傷ついていたのでしょう。
しかし、幼い彼女がいる部屋は窓が壊れているので、何かのきっかけがありさえすれば喪失感から抜け出せる状態にあると解釈できそうです。
歌詞に戻ると「まだ終わらない旅路なんだ」のフレーズから、青春をただ過去のものとして捉えるのではなく、現在進行形で続いているという考え方をしていることが分かります。
確かに限られた青春時代は終わっても、人の人生はその先も長く続いていきます。
つまり、誰もが青春の延長線上を生きていて、今この瞬間も青春のきらめきを秘めているのです。
そして「確かな理由」を持って何かを目指していた時のことを忘れず信じていれば、その夢はいつしか必ず形になるはず。
ここから初音ミクの声が重なる演出は、Eveが今も原点であるボカロを大切に思っていることを示しているのではないでしょうか。
こうしてもう一度ボカロ曲を手がけたことも、かつて夢を持って励んでいた自身のことを忘れないでいる証拠のように感じます。
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諦めてしまうほど この先沢山の
もうない 迷いはしないよ
かけがえのないもの 溢れてしまうよ
答えは君のその手の中に
離さないで 物語は一歩前へ
≪群青讃歌 歌詞より抜粋≫
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青髪の少女は猫鯨に飲み込まれてしまいましたが、地上は元の水のない状態に戻っているようです。
おそらく猫鯨は彼女の悲しみの象徴。
その悲しみが彼女自身を飲み込んでしまったために世界が救われたと思うと、皮肉めいていますよね。
ところが、スイカの髪留めの少女がかつての彼女の姿を見つけ狭い部屋から救い出した瞬間、諦めかけていた彼女は目覚めて自分の意思で猫鯨の体から飛び出します。
空の上で捕まえられなかった手が、今度は自分の手を掴んで助けてくれたのです。
3番のサビの歌詞に出てくる溢れてしまう「かけがえのないもの」とは、もしかしたら仲間への想いや勇気なのかもしれません。
きっとそれぞれの「その手の中に」大切なものの答えはあるはずです。
そうしたものを決して手放さないでいれば、止まっていた「物語は一歩前へ」と進んでいきます。
最後には古びた街並みも美しさを取り戻し、少年少女が新たな生活を送っている様子が描かれて幕を閉じます。
過去と現在と未来は繋がっているから、過去の自分とかけがえのない仲間との思い出を大切にしながら前進していこうと背中を押してくれるメッセージソングです。
「群青讃歌」は前向きな気持ちになれる応援ソング!
Eveの『群青讃歌』はきらめく青春だけでなく、青春時代を経て送られる全ての人の人生を讃える美しい楽曲でした。この曲を聴くと、目指す未来へ向けて一日一日を大切に過ごしていきたいと思えますね。
ぜひ少し憂鬱な通勤通学の時間や気分が落ち込んでしまいそうな時に聴いて、一歩踏み出す力をもらってください。