インディーアニメの祭典のテーマソングをEveが書き下ろし
2021年8月21日より開催されている、日本史上初にして国内最大級のインディーアニメの祭典「Project Young.」。「好きなことを諦めない」をテーマに掲げ、26名のインディーアニメーターによる自主制作アニメの公開などの企画を通して、まだ埋もれているインディーアニメーターたちに世に出るきっかけと勇気を与える目的で開催されました。
そんな記念すべき祭典の主題歌が、自身も自主制作のルーツを持つ大人気シンガーソングライター・Eveが書き下ろした『遊生夢死(読み方:ゆうせいぼうし)』です。
Eveはこの楽曲について、祭典のテーマを考慮し好きを追求していくことは「楽しいことだけではない、苦難や辛さ、その結果がどうであれ行き着く先には美しい未来が待っていると信じてこの曲を書きました」とコメントしています。
どんな内容なのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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漂う思いのせいで 満たされない雨で
立ち込める 爛れてく 鈍色の月
揺蕩うような声で あなたを知って
夢のようでいて
夜を壊せと 手放せと 揺らう心音を
≪遊生夢死 歌詞より抜粋≫
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「満たされない雨」や「爛れてく 鈍色の月」のフレーズから、冷たく薄暗い夜の景色がイメージできます。
そこに「漂う思いのせいで」という消極的な表現が並んでいることを考えると、主人公ははっきりしない思いを抱えていて、風景もその胸の内を反映するようにどんよりしている様子が垣間見えます。
しかしその中で「あなた」と出会い、それをきっかけに「夜を壊せと 手放せと」心の声が言い始めたようです。
これは「あなた」の存在が主人公の希望になり、今の生活から抜け出したいという気持ちが芽生えたということを表しているように思えます。
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ほっとした 感傷的になれば
繰り返しようのない相槌を
白昼夢の底に浸かったまんまの
くたばりぞこないへ
≪遊生夢死 歌詞より抜粋≫
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「白昼夢の底に浸かったまんまのくたばりぞこない」とは、夜のように暗い人生を送っていた主人公自身のことでしょう。
そんなかつての自分に向けた「相槌」は、おそらくこれからの人生を変える決意表明。
今までの苦しい感情を思って「感傷的になれば」気軽に何度も頷くことができないほどの重大な決意であることが、この歌詞に表現されているのではないでしょうか。
「あなた」、つまり追求したい好きなものを見つけたことにより、主人公の人生が良い方向へ動き始めたことが伝わってきます。
「遊生夢死」に込められた意味とは
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遊生夢死
才能ない脳内 唱えよシスターズ
首を垂れることしかないの
愛など満たない 性根はどうしようもないなら
再会を誓う 嫌だ
未だ僕だけをみてと
≪遊生夢死 歌詞より抜粋≫
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タイトルにもなっている「遊生夢死」は実際にある四字熟語で、本来は「ゆうせいむし」と読みます。
「何かを成し遂げることもなく、ぼんやりと一生を過ごすこと」という意味があり、「ぼんやりと生きて夢を見ているかのように死んでいく」ことを表す言葉です。
この夢は眠っている時に見る夢ですが、曲の中では叶えたい目標である夢のことを歌っています。
ではあえて読み方を「ゆうせいぼうし」としているのはどうしてなのでしょうか?
四字熟語の意味からすれば、「ぼう」は「忘」のように夢を抱くことを忘れて死んでいくことを表していると解釈できます。
一方で「好きを諦めない」というポジティブなテーマと合わせて考えると、「望」や「忙」のように夢を叶えることを望み忙しく行動している様子を指しているとも考えられます。
この両方の意味があるとすれば、以前は夢を忘れてあとはただ死んでいくような人生を送っていた主人公が、夢を見つけ希望を持って前向きに生きるようになった様子を表現しているのかもしれません。
とはいえ続く部分で「才能ない脳内」とあるように、夢があるからと言ってそれがうまくいくとは限りません。
夢を追うということは、時に不甲斐ない結果に落ち込むしかないこともあるでしょう。
人は簡単に変わることはできませんが、それでも主人公は諦めず「あなた」との再会を誓います。
「僕だけを見て」という言葉は、おそらく主人公が好きなことを諦めたくないと願っていることの証明です。
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恋をした 軽薄に染まれば
ただ盲目にひたすら歩けと
時折見せる仕草と
その眼差しを注いで
目を合わせてくれないようで冥々
瞬くように 酔った夢に生きたくて
その闇を劈くような轟音に
踊ることを止めないで
≪遊生夢死 歌詞より抜粋≫
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主人公にとって「あなた」との出会いは、恋のように情熱的なものです。
どうにか再会するために「ただ盲目にひたすら歩け」と自分を鼓舞しています。
恋をすると相手の「時折見せる仕草とその眼差し」に魅入られて、気のない素振りをされてもさらに深くのめり込んでいくことがあります。
好きなことをしている時も同じように、結果が思うようについてこないとしても新たな発見がある度にもっと好きになっていくのではないでしょうか。
主人公はそんな気分を高揚させる一瞬の「酔った夢」の中で生きていたいと願っています。
そして「踊ることを止めないで」と歌うことで、いつまでも自分を魅了し続け美しい未来を信じさせてほしいという気持ちが表現されているように感じます。
諦めずに進んだ未来はきっと美しい
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はっとした ただ暴君に染まれば
その笑顔に真価などないと
唾を吐き捨てるように 優しい言葉を解いて
明日には忘れたようにおどけて
刺さったままの心の傷跡
僕らは逃げるように 踏みにじる想い
隠して
≪遊生夢死 歌詞より抜粋≫
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この部分には語気が強いフレーズが多く使われていることから、主人公が夢を諦めた場合の自分を想像しているのではないかと解釈しました。
「暴君」は気ままに振る舞う横暴な人の比喩表現として用いられます。
夢という目標に向かって一生懸命に生きるのとは対照的に、その場しのぎでだらだらと日々を過ごす人を表しているのでしょう。
その生き方は一見気楽で、夢を追う難しさに比べれば魅力的に思えるかもしれません。
とはいえ主人公は夢のある人生を選びたいと思っているので、「あなた」のいない日々に生まれる「笑顔に真価などない」と「あなた」自身に言ってほしいと思っているようです。
主人公が惹かれるその「優しい言葉」を「唾を吐き捨てるように」はっきりと投げかけてほしいという気持ちが窺えます。
それでも「明日には忘れたようにおどけて」決意が揺らいでしまうこともあるはずです。
負った「心の傷跡」は深く痛みは避けがたいものですが、努力を「踏みにじる想い」には蓋をして、それらから逃げるように必死に夢を追う道を走りたいと願っています。
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目も当てられない眩むような銘々
あなたにとってどんな夢を描いて
唇を噛みしめる間もならないまま
ふり落ちる涙は見せないで
弱さは見せないで
≪遊生夢死 歌詞より抜粋≫
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「銘々」は「それぞれの・各自の」という意味があるため、誰もがそれぞれ自分にとっての夢を持っていることを意味しているのでしょう。
それは他の人とは違う自分だけのものだから、涙や「弱さは見せないで」ただ前を向いていようとしているのです。
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本当は言いたかった
綺麗ごとだけでは
蜃気楼に惑うの あなたは眩しいくらい
美しい未来だ
恋をした 誰も知らない世界で
願ったあの日の物語へと
≪遊生夢死 歌詞より抜粋≫
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最後のこの歌詞は、もしかしたら夢を叶え始めた主人公の言葉なのかもしれません。
その場所にたどり着くまでには「綺麗ごとだけでは」なかったと愚痴をこぼしたくもなります。
しかし近づいてきた「あなた」の存在は「眩しいくらい美しい未来」として主人公をさらに惹きつけるでしょう。
「誰も知らない世界」で見つけた唯一無二の夢を諦めなかった結果、かつて「願ったあの日の物語」が今目の前に広がっています。
好きを諦めないでいれば、道のりは困難でもきっと思い描く未来を引き寄せられるという力強いメッセージが込められています。
今や人気アーティストとなったEveが歌うからこそ、より説得力と希望を感じる楽曲です。
「遊生夢死」が夢の素晴らしさを教えてくれる
Eveが「サビの無いような曲を作りたくて作り始めた」と語る通り、全ての歌詞が印象的な『遊生夢死』。
Eveらしい文学的なフレーズは解釈が難しいですが、不思議と夢を持つ人生の魅力が感じられるでしょう。
きっと掴むのが簡単ではないからこそ、夢は追いかけたくなるのだという初心の気持ちを思い出させてくれるはずです。
歌詞のストーリーをアニメ仕立てにした公式MVも、この楽曲を用いて作られた26のアニメーションも見応えのある作品となっているので、合わせてチェックしてみてくださいね。