人気女性ボカロP・香椎モイミ初の可不使用曲がTikTokで大注目
『ブーゲンビリア feat. 初音ミク』や『偏食 feat. 初音ミク』などのボカロ曲で人気の女性ボカロP・香椎モイミ。
そんな香椎モイミのオリジナル曲『キャットラビング』は、音楽合成ソフトウェアの可不を使用して制作された楽曲です。
香椎モイミが可不を使用するのはこれが初めてですが、中毒性のある音楽と歌声がTikTokで大きな注目を集めました。
動画公開日の7月17日から2ヶ月足らずで10万回再生を超え、可不を開発したCeVIOの殿堂入りを果たしています。
一方で、歌詞を知ってその内容に驚いたというリスナーも少なくないようです。
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痛いことは嫌いですが
君の手の平は嫌いじゃない
言葉は飴玉みたいに
甘く広がってココロ満たす
≪キャットラビング 歌詞より抜粋≫
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冒頭の「痛いことは嫌いですが君の手の平は嫌いじゃない」というフレーズは、「君の手の平」が主人公に痛みを与えているということを意味します。
つまりこの楽曲は、DV彼氏から逃れられない女性の気持ちを歌っているのでしょう。
彼は彼女の体を痛めつけながらも言葉は優しいようで、典型的なDV男性であることが分かります。
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嗚呼全然分かってない
永遠に言う通り
完全にフェアじゃない
(どこにいても)
嗚呼「何で?」は効いてない
もっともっとあの子みたいに
可愛くならなくちゃ
≪キャットラビング 歌詞より抜粋≫
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彼女は彼の言いなりになっている二人の関係が「完全にフェアじゃない」ことも理解しています。
「何で?」はおそらく彼女のセリフで、彼の発言を受けて理由を聞いても届いていない様子を表しているのでしょう。
そんな彼の反応に彼女は「もっともっとあの子みたいに可愛くならなくちゃ」と歌っていて、彼好みの女性になろうと頑張る健気な姿が見えてきます。
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愛情は聡明に
傷痕はHow many?
もう体 堕 痛いのだって
分かんなくなる
延命マタタビ
週二ご褒美
「もう嫌んなった」って
離されないように
今日だってちゃんと
内緒の毛づくろい
にゃんって良い子にするから
愛して
≪キャットラビング 歌詞より抜粋≫
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愛情表現と称して増やされる傷跡は、MVの女の子のイラストにもはっきりと描かれています。
そうして何度も傷つけられたカラダは、痛みですら感じにくくなっているようです。
続く「延命マタタビ 週二ご褒美」のフレーズも、二人の歪な恋人関係を表していると言えます。
マタタビと言えば猫の好物で、与えると夢心地にうっとりとするものです。
彼は普段派手に彼女を傷つけながらも、週に二日程度「ご褒美」として彼女を喜ばせてくれるのでしょう。
普通であればその状況がおかしいことに気づくはずですが、彼女は本当にご褒美だと思っていて、むしろ彼に嫌われないように尽くし続けています。
傷つけられてでも彼に愛されることを願う様子が切ないですね。
誰に否定されてもこれは愛
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Everybody
Today is rubbing day
Get it Get it
This is my courtship
Any Any
Any time is fine with me
Gimme Gimme
Love me, my darling
≪キャットラビング 歌詞より抜粋≫
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ここでタイトルに使われている「ラビング」と同じ音の「rudding」という単語が登場します。
これは「摩擦」を意味する言葉で、「cat rubbing」として考えると猫が顔や体を擦りつけて甘える仕草を連想できそうです。
また「This is my courtship(これが私の求愛)」や「Love me,my dirling(愛して、私の最愛の人)」とあるように、彼女が彼を本気で愛していることが表現されています。
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会いたいを間違いなんて皆は言う
取り憑かれているって
ならこの胸で疼く
締め付けるような切なさは何なの?
≪キャットラビング 歌詞より抜粋≫
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とはいえ周囲にとって彼女の想いは受け入れにくく、彼に「会いたい」という気持ちを否定し「間違い」だと言います。
心配するあまり、彼に「取り憑かれている」と強く言う人もいるようです。
それでも彼女は周囲の言葉を聞き入れません。
もし皆の言うとおりこの気持ちが間違いだとしたら「この胸で疼く締め付けるような切なさは何なの?」と尋ねています。
自身の想いが愛でしかありえないと信じていることが伝わってきます。
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選ぶ言葉
戸惑う指先
端正な横顔
(私しか知らない)
嗚呼ランダムご機嫌
もしかして今日は
優しく撫でてくれるのかな?
≪キャットラビング 歌詞より抜粋≫
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彼のために慎重に「選ぶ言葉」、失敗しないように「戸惑う指先」、彼が自分を見ていないからこそ見える「端正な横顔」。
端から見れば切なすぎる関係なのに、そのどれもが自分と彼の間でしか知らないものであることを彼女は喜んでいるようです。
「ランダムご機嫌」とあるように、彼は日やタイミングによって機嫌が変わる気分屋です。
時には猫をかわいがる愛猫家のように「優しく撫でてくれる」日もあります。
傷つけるばかりではなく、たまにでもご褒美をもらえたり愛情を感じられたりするため、彼女は彼への想いをどんどん募らせていきます。
君のソレが耐えられるの 生涯で私だけなんだよね
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君のソレが
耐えられるの
生涯で私だけなんだよね
あからさまに
カラダまさに
「もう嫌だ」って離れられないよね
そうだよね?
≪キャットラビング 歌詞より抜粋≫
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彼のDVに耐えられるのが唯一自分だけであることに優越感さえ感じていることが、この歌詞から垣間見えるでしょう。
本能的には嫌がっていながらも、耐えることが愛情表現だと信じていると言えます。
後半の「「もう嫌だ」って離れられないよね そうだよね?」という言葉は、おそらく彼に対するものだと思われます。
彼がつけた傷が残る自分のカラダを見れば、彼も簡単に手放すことができないはずだと考えているようです。
DVを受け入れられているのも、彼を愛していること以外に彼女自身もそんなメンヘラな一面を持っているからなのかもしれません。
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感情は上々に
訴えは少々に
もうLieも賽のように
転がせば良い
柑橘の匂い
だって凌ぐのだ
もう噛んだって叱られるだけだし
今日だってちゃんとお膝で
大人しく
にゃんってお好きなように
完全淘汰して
≪キャットラビング 歌詞より抜粋≫
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彼と接する時はいつも感情は上向きに、嫌がったり構ってほしいとアピールしたりするのは控えめで。
彼の「LIe(嘘)」もすごろくを進めるサイコロのように転がして、この恋を前進させるために必要なものとして受け入れるというのが彼女の心情なのでしょう。
「柑橘の匂い」は猫が苦手な匂いなので、彼から香る他の女性の香りを表現していると解釈できます。
ちらつく女性の気配に噛みついても「叱られるだけ」と分かっているので、もう大人しくしていると宣言しています。
そして彼の手で、自分こそが愛すべき存在だと認めてほしいという気持ちが、「完全淘汰して」の言葉に詰まっているように感じられます。
これらの歌詞からすれば、タイトルの「キャットラビング」は「cat loving(愛する猫)」という意味も含んでいるのではないかと考えられます。
彼女がDV彼氏の愛猫のような存在であると同時に、彼に暴力を振るわれながらもそれを彼なりの愛だと信じ愛し続けていることが表現されているのではないでしょうか。
狂気的にも思える愛のやり取りを綴った歌詞に、不思議と引き込まれます。
「キャットラビング」の狂った世界観に没入して
香椎モイミ feat. 可不の『キャットラビング』を聴くと、恋人からDVを受けながらも離れられない人の気持ちが少し理解できるはずです。実はこの主人公のように、受けている側も相手の人生を狂わせているのかもしれません。
ヘビーな内容ですが、ポップなメロディと可不のキュートな歌声でかわいらしく聴こえてきます。
リズム感の良いフレーズが満載なので、ぜひ音楽と一緒に何度もリピートしてくださいね。