すりぃの代表曲「エゴロック」がロングバージョンになって登場
ボカロP・すりぃが鏡音レンを使用して初めて投稿し、人気を集めたボカロ曲『エゴロック』。公開からちょうど3年経った2021年9月7日、新たにロングバージョンが配信されました。
この楽曲は、子供の頃にはなかった多くの悩みやしがらみによって眉間にしわが寄ってしまうような生きづらい世界に、ポジティブな空気を送り込んでくれるロックナンバーです。
すりぃは「この楽曲を爆音で聴いてその眉間のしわが一つでも取れれば幸いです」とコメントしています。
どんな内容なのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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腑抜けた心にI need you
噂のアルカロイド
あだ名はネットの髑髏
かき鳴らせディストーション
付け焼き刃の侍が
乱れ打つ散弾銃
悲劇の歴史で踊ろうか
ほらテンテコへンテコ舞舞
≪エゴロック(long ver.) 歌詞より抜粋≫
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世間の波にもまれて「腑抜けた心」が求めるのは「噂のアルカロイド」。
「アルカロイド」とは簡単に言えば人体に中毒性のある成分のことですが、一方で鎮痛・麻酔効果によって医療用の薬としても用いられるものです。
鈍ってしまった心には毒も薬も必要であることを示しているのかもしれません。
「髑髏」は白骨化した頭蓋骨のことを表すため、「あだ名はネットの髑髏」という言葉は主人公がネット廃人になっていることを意味していると考えられます。
次の「ディストーション」とは音響機器の歪んだ音色のことです。
歪んでいると聞くと悪い状態に思えますが、ロックではわざと歪ませた独特な音色が作品をより魅力的にします。
同じように他人からすれば綺麗とは言えない考えも、それが自分の思いだと確信して発信していれば人を魅了することさえあるのではないでしょうか。
続く部分にある通り、侍にとって必須の武器であるはずの刀が付け焼き刃なら使える散弾銃を撃てばいいのです。
その人にとって得意なものは周囲が決めるものではなく、自分自身が自由に決めていいんだという考え方が伝わってきます。
エゴロックが示す解釈とは
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僕の心はエゴロック
斜め45度ナンセンス
ノウハウ砕いてマンネリを
明日にバイバイバイ
媚びへつらうその姿
吐き気の空模様
シニカルな視線の雨
今日も両目を塞ぐふり
≪エゴロック(long ver.) 歌詞より抜粋≫
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サビで登場するタイトルの「エゴロック」のフレーズは、「エゴ(自我)」をロックに乗せて声高らかに歌うというイメージと思われます。
「斜め45度」が斜め上のことを指していると考えると、主人公が発信するエゴは世間の常識の斜め上をいくものであると解釈できますね。
しかし、自分の意思をしっかり持っている主人公にとって常識なんて「ナンセンス(意味のないもの)」です。
「ノウハウを砕いて」いるということは、似たような生活で「マンネリ」になっている日常を変えようともしているのでしょう。
人々が権力のある人に「媚びへつらうその姿」は、主人公にとって嫌悪してしまうようなもののようです。
周囲から「シニカル(冷ややか)」な視線を向けられようと「今日も両目を塞ぐふり」でかわします。
あくまで「塞ぐふり」であって、本当はその視線を受け止めていることにも主人公の人としての強さを感じます。
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おちゃらけ頭にI need you
巷のアルカロイド
あの子も流行のインスタントショー
撒き散らせDID
うだつが上がらぬ侍が
未来断つ哀悼歌
無残な歴史で歌おうよ
ほらチャンチャラナンチャラ舞舞
≪エゴロック(long ver.) 歌詞より抜粋≫
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ふざけてばかりの「おちゃらけ頭」にも、きっと刺激や薬が必要です。
「あの子も流行のインスタントショー」のフレーズは、気軽に自身を演出できるTikTokのようなツールに多くの人がハマっている様子を表しているのでしょう。
続く「DID」の意味は様々考えられますが、全体の歌詞で自分を自由に表現することを取り上げているのであれば「Dissociative Identity Disorde(解離性同一性障害)」の略ではないかと思われます。
つまり多重人格障害のように、自分の中にある様々な感情や思いをツールを使って発信すればいいと認めているのではないでしょうか。
次の歌詞に出てくる「哀悼歌」は人の死を悼む詩歌のことで、努力が一向に実らない侍が未来を諦めて自分への哀悼歌を歌っている姿を描いていると解釈できそうです。
どうせ「無残な歴史」を変えることはできないのだから、自分のことだけ考えていてもいいはずだという自由な生き方を示しているように感じます。
厳しい世界も笑って生きたい
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ロックな心で生きようか
真夏並みHotなミュージック
ハウツー砕いて丸書いて
明日もワッハッハ
洒落臭さも癖になる
はみ出し者だろ
リリカルな視線の雨
今日も両目を開くふり
≪エゴロック(long ver.) 歌詞より抜粋≫
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ロックはそもそも反抗的なメッセージを歌う音楽のため、「ロックな心で生きようか」という言葉もこの世間に反抗する心に正直に生きたい気持ちを表しているのでしょう。
常識的な「ハウツー」は壊し、ただ「丸書いて」笑うような楽観的な生き方を望んでいるようです。
「リリカル」は自分の心を素直に伝えることなので、「はみ出し者」の自分を見る周囲の視線に様々な感情が見えるのかもしれません。
「今日も両目を開くふり」で批判やからかいをやり過ごし、耐えている様子が垣間見えます。
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透明な感情は染まるだけさ
だったら見て見ぬふりする奴らを
押し出せ
人生かけても負けそうです
勝ち負け取り憑かれナンセンス
1分砕いて常識を
未来にSay goodbye
≪エゴロック(long ver.) 歌詞より抜粋≫
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「透明な感情」は子供の頃の純粋な気持ちを表していると考えられます。
大人になるにつれて周囲の影響を受けて「染まるだけ」で、純粋なままでいられることはないでしょう。
続く「人生かけても負けそうです」のフレーズに思わず涙したファンは多いようです。
何もかも勝ち負けで判断される世の中では「見て見ぬふりする奴ら」と対抗しようにもうまくいかず、自分の一生をかけても負かされてしまいそうなほど生きづらく感じます。
まるで自分の人生が「ナンセンス」なものに思えてしまうこともあるかもしれません。
次に出てくる「1分」とは、すりぃ自身が手がけてきた60秒シリーズのことと解釈できます。
『エゴロック』も元は60秒の作品だったものがロングバージョンになったので、まさに「1分砕いて」の言葉の通りです。
常識なんて未来に託して、今は何も気にせず楽しもうと誘っているような印象を受けます。
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僕の心はエゴロック
斜め45度ナンセンス
ノウハウ砕いてマンネリを
明日にバイバイバイ
媚びへつらうその姿
吐き気の空模様
シニカルな視線の雨
今日も両目をふさぐふり
(1.2.3)ふぁっきゅー
≪エゴロック(long ver.) 歌詞より抜粋≫
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ここで繰り返される1番のサビを改めて見ると、「僕の心はエゴロック」の歌詞は「僕の心はいつだって自分の気持ちを正直に吐き出したいんだ」というメッセージのように感じました。
いつも順風満帆に生きることは簡単ではありませんが、自身の気持ちを大事に日々を楽しんでいくならこの世界も悪くはないでしょう。
最後の「ふぁっきゅー」はもちろん「fuck you(くたばっちまえ)」のことです。
自分に向けたものか世間へのアンチテーゼかは不明ですが、苦しみをバネに跳ね上がろうとするようなパワフルさが表れています。
「エゴロック」ロングバージョンを楽しもう!
『エゴロック』の歌詞の意味を考察してきましたが、すりぃ自身は「難しいことは考えずに気楽に見て聴いて踊って欲しい」とも語っています。今作のMVではショートバージョンで踊ってみた動画を公開していたゆいるが振り付けを担当し、映像クリエイターのOcowaが手がけたレトロなイラストにも引き込まれます。
悩みから抜け出せない時や人生に行き詰まった時、ぜひ『エゴロック』を爆音でかけながら楽しく踊ってリフレッシュしてくださいね。