先日メジャーセカンドアルバム「東京絶景」が発売されたばかりの、吉澤嘉代子。そんな彼女の世界観が濃密に凝縮されているのが、インディーズの頃に発売された「魔女図鑑」というミニアルバムだ。今では中古でも高値がついて手に入りにくいが、このたび「東京絶景」に、「魔女図鑑」にも収録されていた「化粧落とし」という楽曲のリテイクが収録されている。
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電話がとだえたのはきっと 会う前に餃子を食べたせい
それとも恋敵の陰謀かと 悩める私立探偵は自惚れ屋
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吉澤嘉代子は「嘉代子節」とも言えるくらい、歌詞に独特の味があり、ユーモアのなかに少しの毒が混ざっている。この部分を聴いたたけでも、彼女の強烈な個性に思わず、にやりとしてしまうだろう。この直後の歌詞では、ユーミンのルージュの伝言を真似したら警察沙汰になった、と独特の世界が展開されている。ユーミンや井上陽水を聴いて育ったという少女時代が影響しているのか、曲調や歌唱に、一昔前の良さ、レトロっぽさを感じる。歌にはあえてのあざとさがあり、悩ましげな歌声は、発音がしっかりしていて、非常に可愛らしく、聴き取りやすい。
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紅もマスカラも落ちてゆきなさい 涙の痕だって きれいつるりんと
眉も白粉も落ちてゆきなさい いつかのキスだって きれいつるりんと
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「化粧落とし」の主人公は、その言動がすべて裏目にでてしまう。「毎晩夢にでてこないで」と乙女チックに言えばぞっとされるし、気のないふりをしたいときに限って、Tシャツが「I miss you」だし、車にルージュの伝言を残せば、警察沙汰に発展するし。この部分からは、主人公がふてくされながら化粧台に座って、化粧と一緒に、涙の痕なんて全部落ちてしまいなさい、と化粧落としをしている様子が浮かんでくる。
けれど、化粧はクレンジングで落ちるが、なかなか落ちてくれないものもある。
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心に残ったあなたの痕が うすい染みになって落ちてくれないの
ドッキリでしたと障子が倒れて 悲しい夢が覚めてくれたなら
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彼女がなかなか落とせないもの、それは心に残ったあなたの痕。心にこびりついて忘れられない、あなたとの思い出。いっそのこと、全部ドッキリだったらよかったのに。吉澤嘉代子らしい、けれど切ない気持ちがしっかり伝わる表現だ。
彼女の楽曲のリリックビデオがまた個性的で、黒いワンピースを着た彼女が、スケッチブックに書かれた歌詞をペラペラめくりながら街を練り歩くのだが、歌詞の良さが伝わるインパクトのある作品となっているので、気になった方は、ぜひ一度見てみてほしい。きっと、彼女の魅力にはまってしまうはずだ。
TEXT:緑の瞳( http://www.hitomimidori.com/ )