ポリコレを題材にした現代らしい楽曲が誕生
クリープハイプの約3年3ヶ月ぶりとなるNEWアルバム『夜にしがみついて、 朝で溶かして』に収録されている『ポリコ』。短編アニメーション『ハイパーポジティブよごれモン』の主題歌に起用された楽曲です。
実はアニメ自体が『ポリコ』を題材としていて、“汚れのキャラクター”というイメージから尾崎世界観が楽曲を制作。
そこからネガティブワードをポジティブに捉える、よごれモン・汚太郎のキャラクターが誕生しました。
アニメは様々な汚れ目線の会話が取り上げられていて、その中の錆崎くんというキャラクターの声を尾崎世界観が担当しています。
では『ポリコ』はどんな楽曲なのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
1番の歌詞から考察すると、タイトルにもなっている「ポリコ」がこの楽曲の主人公であることが伝わってきます。
ポリコとは近年日本でもよく耳にするようになった「ポリコレ」のことを指しています。
ポリコレはポリティカル・コレクトネスの略で、民族・宗教・性別・文化の違いなどによる偏見や差別のない中立な表現を用いることを表す言葉です。
日本で「看護師」や「保育士」という呼称が一般化したのも、性別に左右されないポリコレの考え方に基づいています。
主人公の「ポリコ」はそんな社会に多く広まる、差別的な言葉を汚れとして綺麗にする清掃員の役割を担っているようです。
しかし「ポリコはいつもこすってる」のになかなかその汚れは落ち切らず、「でも足りない足りない足りないまだ」と焦っています。
「便所の落書き」で憂さを晴らす「糞ガキ」が示すのは、ネットで好き勝手な言葉を書く人たちのことではないでしょうか。
そのような人たちはポリコレをファッションのように用いて「パリコレ」と表現し、言葉の大切な意味を考えていないとポリコが嘆いている様子と解釈できます。
優しくしたいだけなのに
2番に出てくる「法定速度」はポリコを「ポリ公」と変換して生まれた表現でしょう。
常に正しくあるべきと信じてきたポリコですが、求めている「正しさの先を曲がったら」思いがけない結果にたどり着くことに気づいたようです。
きっと言葉の“汚れ”を全て取り除いた先にあるのは、表現の自由を奪われた世界です。
しかし、結果に気づきながらも真実を明らかにしてしまえば、自分の仕事の意味がなくなってしまうと考えたのか、「言わない」選択をします。
続く「うまく切りとれ」は、言葉を間違って解釈して取り上げるメディアへ向けたフレーズだと考えました。
「クラクションを鳴らす」のもおそらく警告の意味で、ポリコレを誤用する世の中へ警鐘を鳴らしているようです。
サビ冒頭の「最近どう」「まぁ別に普通」のフレーズは、友人との他愛ない会話を表しています。
そうした会話は特に中身がなく「どうでもいいこと」ばかりですが、意外とそんな会話こそが人生には必要であるような気がします。
世の中にポリコレが広まっているのは、偏見も差別もなく人に「優しくしたい」という純粋な気持ちからでしょう。
しかし、どれほど言葉を規制してもまた違う解釈が生まれてしまうものです。
そのせいで人間関係に溝ができてしまう言葉の難しさが歌われています。
これは過剰にポリコレを重視する人たちへの、尾崎世界観からのメッセージのように感じます。
言葉を規制することが最善ではない
人に優しくしたいし「優しくされたいだけなのに」うまくいかないのが現実です。
「馬鹿は一つ覚えてまたすぐに忘れる」とあるように、大切なことを何度覚えようとしてもうっかり忘れることがあります。
それなのに早く忘れたいことに限って「こびりついた汚れ」のようにいつまでも消えてくれません。
それはいくら慎重になって言葉を規制してもあり得ることです。
人の反応を恐れて言葉を規制するよりも、どんな言葉を使うかを個々が注意していくことが大切なのではないでしょうか。
最後の部分でポリコが「ぽり子」と女性を思わせる呼称に変わっているのも、ポリコレが最上ではないことを表していると思われます。
世の中には確かにポリコレの考えによって、生きやすくなった人も多くいるでしょう。
それでも、ポリコレを意識するあまりアイデンティティを見失ってしまう場合もあるはずです。
見境なく全ての言葉に敏感になっていてはきりがありません。
むしろ自分が発信する言葉に責任を持ち、状況や相手に合わせて言葉を選んでいくべきだという考えが伝わってきます。
「ポリコ」のメッセージに注目
クリープハイプの『ポリコ』は、世の中の言葉の規制に対する皮肉をテーマにした楽曲です。音楽に乗せて言葉を伝えるアーティストだからこその目線を感じる歌詞ですよね。
メンバーが清掃員に扮した印象的なMVもぜひ合わせてチェックしてください。