次世代ラップユニットが歌う現代にぴったりの楽曲
2019年頃から彗星のごとく現れ、注目を集めている二人組ヒップホップユニット・sloppy dim(スロッピーディム)。
2021年には待望の1stアルバムを発売しました。
2020年9月24日に配信リリースされたデジタルシングル曲『カタコト』は、作詞をメンバーのOve(オベ)とsyun(シュン)が行い、作曲をCOLDE$Tが担当し制作された楽曲です。
日本語でさりげなく韻を踏むラップ調の歌詞を主体に、リズム感の良いサウンドが耳に残る優しい音楽と歌声が心地良いと話題になっています。
YouTubeで公開されているMVの概要欄には、この楽曲は「携帯電話、SNSについての曲」と明言されています。
さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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むかしむかしある所に
それはそれはとても不器用な
魔法使いの少年がいたらしい
魔法の使い方もわからず
呪いの言葉を撒き散らす
僕が良ければこれでいいのって
神様も悩ました
≪カタコト 歌詞より抜粋≫
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主人公は「とても不器用な魔法使いの少年」です。
魔法使いでありながら「魔法の使い方もわからず呪いの言葉をまき散らす」有り様で、「僕が良ければこれでいいの」と自分本位になっています。
この世界を現実に当てはめると、魔法は言葉を表していると解釈できそうです。
そして不器用な魔法使いは、ネット上で人の悪口や批判ばかりを言っている人のことと捉えられますね。
そんな主人公の様子を見ている神様も悩んでいるようです。
タイトル「カタコト」の解釈とは?
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現在ゼンマイ全回転頭の中フル回転
どう考えても絶対ね呪いでは無理だって
やっぱりあなたを笑わせる方法は
妄想さ
抱きしめることだけね
≪カタコト 歌詞より抜粋≫
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後半の歌詞を見ると、主人公には「あなた」という笑わせたい大切な存在がいることが分かります。
しかし彼の自分本位な呪いでは笑わせることはできません。
批判の多い人の言葉を見て笑顔になる人はいないですよね。
笑わせる方法が「抱きしめることだけね」とあるように、相手を大切に思い抱きしめること以上に気持ちを通わせる方法はないでしょう。
それはどんな魔法にも勝る、誰にでも使える強く美しい力です。
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見知らぬ子がひとりまた泣いてる
お天道様も無視マジないね
笑わせてあげるふざけないで
カタコトで唱える呪いで
道に迷う猫が差し出す手
僕のポケットに何もないです
願いをひとつだけ叶えてあげる
カタコトで唱える呪いで
≪カタコト 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞によると、どこかで誰かが笑顔になっている一方で「見知らぬ子がひとりまた泣いてる」状況も見られます。
行き交う人は素通りで「お天道様」さえ無視していることに気づき、主人公は自分がその子を「笑わせてあげる」ために行動することにします。
彼が使えるのは「カタコトで唱える呪い」だけで、「道に迷う猫が差し出す手」のように頼りないものといえるでしょう。
それでも彼が今持っている力でも、泣いている子を笑わせるためにできることがきっとあるはずです。
「僕が良ければこれでいいの」と思っていた以前の彼はもうどこにもいません。
「カタコト」というタイトルには、うまく言葉にできなくても人のために行動したいと思う気持ちが何より重要であることが示されているのではないでしょうか。
失敗してもきっと変われる
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もうこれで何回目
触れた分だけ吸い取られてく
取り消しのない一撃は
隕石に匹敵しちゃう刺激
≪カタコト 歌詞より抜粋≫
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「取り消しのない一撃」とはこのネット社会で飛び交う誹謗中傷のこと。
一度発信してしまえば、後になって削除しても永遠にネット上のどこかに残り続けます。
そして言われた相手の心には「隕石」がぶつかるような激しい衝撃となって深い傷を与えるものです。
主人公は歩み寄りたいと「触れた分だけ」傷つけられ、そして自分もまたそうやって誰かを傷つけてきたことに思い至ります。
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おさがりのローブを身にまとう
きっと誤作動と逃げ惑う
分厚い説明書に記された
"用法用量を守って使いなさい"
噂のマントにくるまる
気づかぬうちに世界を揺るがす
呪いを間違うはずがないよ
きっと握った杖が悪いんだ
≪カタコト 歌詞より抜粋≫
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しかし気づいた時にはすでに遅く、いつか自分が発した「呪い」によって大勢の人を巻き込む事態となってしまったようです。
「おさがりのローブ」で他人のせいにして「きっと誤作動」と誤魔化して逃げる主人公。
説明書にはきちんと「用法容量を守って使いなさい」と書かれてあったのに、説明書の分厚さに圧倒され自分を過信して読まずにいたのでしょう。
そして明らかに失敗した今も、呪いを間違うはずがないから「きっと握った杖が悪いんだ」と責任転嫁しています。
人は何気なく放った言葉で大きな失敗をしてしまうことがあります。
誰かを笑わせてあげたいと願った主人公の想いは本物でしたが、そう願う前の自分が力の使い方を間違ってしまっていました。
人との接し方に明確な説明書はありません。
だからこそ一人一人が自分の言葉の使い方や、人への接し方に注意して行動することが必要なのです。
主人公は確かに過去の振る舞いで失敗をしてしまいました。
しかし最後にもう一度サビの歌詞が繰り返されるように、周囲へ目を向けられるようになった今の主人公なら、きっと変化できるという期待も感じられます。
自分の言葉に責任を持ち、人を傷つけるためではなく笑顔にするための愛のある言葉を発信していきたいですね。
「カタコト」の歌詞が心に刺さる!
sloppy dimの『カタコト』には、世界中の人に気軽に言葉を伝えられるネット社会を生きる現代人が忘れてはいけないメッセージが込められていました。言葉は簡単に使えるからこそ大切に使う必要があります。
そして家族や友達など目の前にいる人には、直接想いを伝えていきたいと思わせてくれるでしょう。
そんな言葉の重みを独自の世界観で伝えるsloppy dimの繊細な歌詞に、今後も注目していきたいですね。