King Gnu『逆夢』が劇場版呪術廻戦エンディングに
King Gnuの新曲『一途/逆夢』が2021年12月29日にリリースされました。
『一途』は現在公開中のアニメ『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌『逆夢』は、エンディングテーマに起用されています。
作詞作曲はボーカルの常田大希。
独特の高音ボイスで紡がれる歌の世界が、作品の世界観に見事にハマり、抜群の存在を放つKing Gnu。
どちらの楽曲もインパクト大ですが、主題歌が『一途』というタイトルで、純愛をイメージさせます。
実は『劇場版 呪術廻戦 0』において「純愛」という言葉は、非常に大きな意味を持ちます。
ポスターにもこのセリフが登場しますが、主人公である乙骨憂太が口にするこの言葉は、まさに『呪術廻戦』という作品のテーマにぴったり。
一方の『逆夢』は、夢と真逆のことが起こることを指し『一途』と比べると、含みのあるタイトルです。
本編の一年前を描いた映画版のストーリーは、祈本里香という少女と乙骨憂太を中心に描かれます。
二人を象徴するものは愛と呪い。
『逆夢』の歌詞にも登場する「呪い」は一体何を示しているのか、「逆夢」という言葉が意味するものは何か。
King Gnuが歌う「愛」と「呪い」について、歌詞を徹底考察していきます。
「何者か」になれることを夢見る乙骨憂太
『劇場版 呪術廻戦 0』はアニメ本編と異なり、呪われた青年・乙骨憂太を主人公として描かれます。
憂太が呪術高専に入学し、呪術師としての成長や仲間との交流、宿敵ともいえる夏油傑とのバトル。
孤独に絶望していた憂太が同級生たちの絆を深めていく様は、胸がじんわりと温かくなりますし、夏油とのバトルシーンはその迫力に圧倒されます。
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あなたが望むなら
この胸を射通して
頼りの無い僕もいつか
何者かに成れたなら
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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大切な人のために、頼りない自分の殻を脱ぎ捨て、違う誰かになりたい。
誰もが自信に満ちあふれ、今の自分に満足している訳ではありません。
まして、自分に自信を持てず、人の役に立てるのか、誰かにとって必要な存在なのかどうか不明瞭であればあるほど、このような気持ちを抱いてしまうかもしれません。
この歌詞は、物語の主人公である乙骨憂太の心情とリンクしています。
乙骨憂太は幼い頃に死別した祈本里香に取り憑かれた青年です。
里香は憂太と結婚を誓った少女。
その愛の強さ故に、呪いとなって憂太に取り憑きました。
呪いとなった里香によって自分に危害を加える人間を、望まないままに苦しめてきた彼は、自分の存在意義を見失い、生きる気力すらなくしかけていたのです。
自分の力で里香を制御できず、大好きだった女の子に苦しめられる憂太にとって、自分はいるだけで世の中に迷惑をかける存在なのでしょう。
「頼りの無い僕」は現在の自分で、いつか誰かにとって意味のある「何者」かになりたいと切望する様は、痛々しさすらあります。
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訳もなく
涙が溢れそうな
夜を埋め尽くす
輝く夢と成る
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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憂太は里香の呪いによって自暴自棄になり、塞ぎ込んでいるような青年でした。
涙に暮れ、絶望する彼にとって「何者」かになれることは、生きる希望なのかもしれません。
乙骨憂太が抱える闇
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白い息は頼りなく
冬の寒さに溶けて消えた
あの日の重ねた手と手の
余熱じゃあまりに頼りないの
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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乙骨憂太は里香という呪いによって、他者との関わりを避けるようになります。
彼はいじめられっ子でしたが、本来の性格は無邪気で優しい、どこにでもいそうな普通の男の子。
若くして殻に閉じこもり、孤独を抱えて生きることの辛さは、想像に難くありません。
今目の前にある孤独は凍えるように冷たく、無邪気だった頃の温かな記憶をもってしても温めきれないのでしょう。
死を覚悟した訳でもなく、生きることに前向きにもなれない憂太の葛藤と重なる歌詞です。
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春はいつだって
当たり前の様に
迎えに来ると
そう思っていたあの頃
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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何も知らない頃は、季節が巡って春が来るように、当たり前に幸せな日々が続いていくと信じていたはずです。
しかし、里香の死によって憂太の時間は止まり、季節は冬のまま。
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瞼閉じれば
夢はいつだって
正夢だと信じてたあの頃
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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夢の続きのような幸せが現実として目の前にあった過去と、悪夢のような現在。
夢が正夢でよかったのは、それが幸せな夢だったからです。
今の憂太にとって、現実はまさに悪夢。
その悪夢が正夢として現実に存在しているのは、なんと皮肉なことでしょうか。
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あなたはいつだって
当たり前の様に隣にいると
そう思っていたあの頃
失くせやしない
記憶の雨が古傷へと
沁み渡ろうとも
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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仲睦まじく、結婚の約束まで交わした里香が、目の前で死んでしまったことは、憂太にとって忘れがたい事実であり、呪いの始まりです。
かけがえのない人を失った時、どれだけ自分を保っていられるかが、その先の人生を生きていくうえで大切なのでしょう。
憂太の人生が暗転したのは、幼い憂太が里香の死を受け止めきれなかったことが原因の一つです。
作中で五条悟の口から語られるように、愛は呪いともいえるのでしょう。
誰かを愛おしく思う気持ちは、相手を縛り付ける呪いにもなり得るのです。
憂太が抱える闇は、里香という呪いであり、忘れがたい最愛の人。
相反する感情がより一層憂太を孤立させ、苦しめる闇となっているのかもしれません。
『逆夢』というタイトル込められた憂太の愛と覚悟
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記憶の海を潜って
愛の欠片を拾って
あなたの中にずっと
眩しい世界をそっと
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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憂太の中には結婚を誓った日の里香の笑顔が焼き付いています。
里香の存在は憂太にとって呪いであると同時に、決して消えることのない記憶の中で生き続ける愛しい人でもあるのでしょう。
劇中で彼が口にした「純愛」という言葉に表れているように、憂太と里香の間には切っても切れない縁があり、それは紛れもなく一つの愛の形なのです。
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この愛が例え呪いのように
じんわりとじんわりと
この身体蝕んだとしても
心の奥底から
あなたが溢れ出して
求め合って重なり合う
その先で僕ら夢と成れ
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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里香に呪われたかと思われていた憂太ですが、二人を繋ぎ止めているものは歪んではいても愛であり、彼も里香に対する愛を自覚していきます。
里香の呪いから開放されたいと願っていたはずなのに、実は憂太自身が里香を求めていた…。
そんな心の動きが見事に表現された歌詞です。
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あなたが望むなら
この胸を射通して
頼りの無い僕もいつか
何者かに成れたなら
訳もなく
涙が溢れそうな
夜を埋め尽くす
輝く夢と成る
正夢でも、逆夢だとしても
≪逆夢 歌詞より抜粋≫
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物語を通して、憂太はずっと受け身でした。
呪われた身の上を恨み、他人との関わりを恐れ、一人の世界にこもっていた憂太が、徐々に周囲に溶け込んでいく。
その過程で憂太は、里香と向き合うようになっていきます。
人と関わることを恐れて泣くばかりだった憂太が、大切な仲間を守るために里香を受け入れ、戦うことを決める様は、まさに彼が求めていた「何者」かへの変貌。
そして憂太は里香を受け入れた先で、彼女への愛に目覚めたのです。
憂太の回想の中で、何度も登場する結婚指輪。
それは幼い里香が、憂太へのプロポーズも込めて、誕生日プレゼントに贈ったもの。
この指輪を通して憂太と里香はつながり、二人で夏油に立ち向かっていくシーンは印象的。
作品全体を通して、憂太と里香の手にはいつも、輝く指輪がありました。
呪いから愛の象徴へと変化していく指輪の存在こそが、憂太の心の有様を象徴しているのです。
憂太の覚醒と里香への愛情は、切っても切り離せないもの。
だからこそ涙に暮れた夜を越えて「輝く夢」となるのです。
ただし、その幸せな夢は「逆夢」かもしれません。
里香への愛を受け入れることは、必ずしもハッピーエンドではないからこそ、「正夢でも、逆夢だとしても」という最後の歌詞が突き刺さります。
「輝く夢」が正夢になるのか、逆夢になるのかは分かりません。
里香を受け入れた先で、憂太がどのような人生を送るのだとしても、すべてを受け入れる覚悟ができている。
『逆夢』というタイトルからは、里香への深い愛情と共に、憂太の強い覚悟が滲み出しているのです。