猫フィーバーが起きている。テレビで猫を見ない日はなく、駅長猫にモデル猫とその数は増えている。最近では、犬より猫を飼う人が多いほどだ。
そんな猫フィーバーにあやかって紹介したい楽曲が、つじあやの6枚目のシングル「風になる」。2002年、猫よりも犬派が多かった時に上映されたスタジオジブリ作品「猫の恩返し」の主題歌である。同じ系列の作品である「耳をすませば」、その主人公の月島雫が書いた物語という位置付けのスピンオフ作品だ。共通点として猫男爵:バロンが登場し、ごく普通の女子高生:吉岡ハルがトラックに轢かれそうになっていた猫を助けたことから、猫の恩返しが始まる。
この作品では猫を助けたことがきっかけだが、日常というのは何をきっかけに変わるかはわからない。猫の恩返しはなくても、早起きをしてみたりとか、いつもと違う道を歩いてみたりとか、ちょっとしたことで一変するのだ。
例えば春風を感じた、この瞬間にも。その一変のきっかけを歌詞では、次のように語っている。
つじあやの「風になる」
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忘れていた目を閉じて
取り戻せ恋のうた
青空に隠れている
手を伸ばして もう一度
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猫の国、それは自分の時間が過ごせない奴が行く場所と言われている。生活スピードが早い日本人にとって、時間に追われることのない素晴らしい国なのだ。そんな国へ、高校生活を何となく過ごす主人公:ハルは自分の軽はずみな発言により行くことになってしまう。
変わらない日常をつまらない、と感じる人は多いはず。ハルもその中の1人。「猫になってもいいかもー」という彼女の言葉は、朝に弱くて学校には遅刻ばかり、好きな人には恋人がいて自分を見てくれることはない、変わり映えのない毎日に鬱々としていたから。人はどこかで、普段とは違う日常を求め、自分とは違う自分になれることを願っているのだ。
しかし、変化がない日はない。毎日、どこかで少しずつ何かが変わっていっている。それは、目に見えるものかもしれないし、見えないものかもしれない。あるいは、自分で行動を起こすというのも日常を変化させる1つの方法だ。猫の国に行った春は日常に戻った後、早起きをするようになり、長かった髪をバッサリ切って、何となく過ごしていた時間を大切にするようになった。人生の一変はちょっとしたきっかけに自分で気付くか気付かないかなのだ。
“たった一つの心”
“悲しみに暮れないで”
“君のためいきなんて”
“春風に変えてやる”
そう考えるとこの楽曲は、ハルの一変した気持ちを表した楽曲とも言える。ため息も春風に、という辺りにはそんな考え方もあったのかとハっとさせられる楽曲となっている。“つまらない人生”と日々、過ごしている人が聴けば、日常の変化を予感させてくれるはずだ。
この楽曲があれば、猫の恩返しもいらない。
TEXT:空屋まひろ