1stアルバム「狂言」からKanariaとのコラボ曲を紹介
歌い手として注目され、今や日本を代表する令和の歌姫といえるAdo。
そんな彼女の記念すべき1stアルバム『狂言』の収録曲から、今回は『ドメスティックでバイオレンス』をご紹介します。
インパクトのあるタイトルがつけられたこの楽曲は、人気ボカロPのKanariaが作詞作曲を手がけています。
高い表現力を持ち、いま勢いに乗る若きアーティストがタッグを組んで贈る歌詞の意味をさっそく考察していきましょう。
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ドメスティックでバイオレンス
ラルラリラ 甘くてってとろける
不思議なメロディ
試された 別にだっだ誰でも
構わないのに
愉快なほどにダレて
あなた私は馬鹿らしい
≪ドメスティックでバイオレンス 歌詞より抜粋≫
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「ドメスティックでバイオレンス」はいわゆるDV(家庭内暴力)のことを指した言葉です。
出会った頃は甘くとろけるように幸せだった日々。
誰でも良かったはずなのによりによって「あなた」を選んでしまった「私は馬鹿らしい」と、恋人の男性からのDVに悩む女性の姿が描かれています。
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冷めたナイフでざくざくと 刻む手先は愉快で
甘めの蜜だけを奪い去っていくわ
甘いケーキとポップソングで
刻むリズムでダッダラッダ
いつだって私の特権よ
≪ドメスティックでバイオレンス 歌詞より抜粋≫
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「冷めたナイフでざくざくと」何かを刻む主人公は、その時だけは少しだけ「愉快」な気持ちになれるようです。
刻まれる小気味いい音に彼の言動を一つ一つ思い返し、受けた傷への恨みを込めているような気がします。
この場面では、ポップソングのリズムに乗って甘いケーキを作っている風景が見えてくるでしょう。
手作りケーキを作る「私の特権」として「甘めの蜜だけを奪い去っていくわ」と、良い部分だけを食べようとしている様子が想像できます。
ありのままでいたい!
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ドメスティックでバイオレンス
きっかけとかあれとかふんぞり返って
ドラマチックなバイオレンス
いつだって頭ごなし許さないって
諸行無常 自業自得 からの
愛されたいとかないって
だからさ 崩れて弾けろ
≪ドメスティックでバイオレンス 歌詞より抜粋≫
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彼女の前で我が物顔をして「ふんぞり返って」、「いつだって頭ごなし」に話す彼。
人生は「諸行無常」だから色々あって当然だとか、傷つけられるのは主人公の「自業自得」だとかいうだけでなく、「愛されたいとかない」とさえ言ってくるようです。
彼は主人公のことを自身の愛を受けるに値しない存在と見下しているのかもしれません。
そんな風に恋人を邪険に扱う彼に、主人公は心の中で「崩れて弾けろ」と思っています。
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争いとか語ったって
冷めたキスはからっぽで
枯れた花飾ったって
これ以上必死でどうかどうか
生きている生きていく
手を取ってありのままでいたい!
≪ドメスティックでバイオレンス 歌詞より抜粋≫
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喧嘩の後に仲直りをしても交わすのは「冷めたキス」で、そこにはもはや何の感情もないことが分かります。
美しい時を過ぎた「枯れた花」を飾っても意味はなく、切なさばかりが募るでしょう。
同じように、この恋愛の幸せだった日々を思い返していても現状が変わるわけではありません。
そのことに気づいた主人公は、愛を感じない恋人に抑圧されてろくな目に遭わない人生を生き続けるのではなく「ありのままでいたい!」と叫びます。
本当に手玉に取っているのはどっち?
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出されたケーキはそんな甘くはなかった
優れた蜜だけを奪い去ってくわ
ひとつ残らずかっさらっていた
既に手玉でダッダラッダ
いつだって私の特権よ
≪ドメスティックでバイオレンス 歌詞より抜粋≫
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出来上がったケーキを彼に出しますが「優れた蜜だけ」が奪われたケーキは大して甘くはないでしょう。
見た目は甘そうなのに味は甘くないケーキという表現は、カップルであることを続けながらも愛のない主人公と彼の恋愛関係のようです。
しかし、ここまでの暗いイメージが後半の歌詞から変わっていきます。
彼は彼女を手中に置いていると思っていたはずですが、実は彼女が「既に手玉に」取っていました。
弱く見えていた主人公が、それが彼を選んだ「私の特権よ」とほくそ笑んでいる姿が見えてきます。
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ドメスティックでバイオレンス
きっかけとかあれとかふんぞり返って
くだらねーことばっかで
いつだって繰り返しの許さないって
諸行無常 右脳左脳 君が
愛されたいとかないって
だからさ 崩れて弾けろ
辞め時を過ぎた後悔も
遅すぎた響く焦燥も
欲しいの
≪ドメスティックでバイオレンス 歌詞より抜粋≫
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彼女は「許さない」という気持ちを「いつだって繰り返し」ています。
人生は「諸行無常」で、男女も使う脳の差で全く違う生き物のように様々です。
とはいえ、自分のことを理解しようとせず散々傷つけてきた「君が愛されたいとかない」と、彼の言葉を借りて挑発的に訴えます。
その心にはいつでも関係を解消できたはずなのに「辞め時を過ぎた後悔」や、今更別れるには「遅すぎた響く焦燥」も渦巻いています。
本来あまり持ちたくない感情のように思えますが、彼女はそれすら「欲しいの」と受け入れる強烈にも思える気持ちを明らかにしました。
この先二人の関係がどうなっていくのかは分かりませんが「ドメスティックでバイオレンス」なのは、本当は主人公の方なのかもしれませんね。
AdoとKanariaのコラボ曲を楽しんで
『ドメスティックでバイオレンス』は、Adoの代名詞とも言えるパワフルで心に訴える歌声がぴったりの力強い楽曲です。実際の暴力はないとしても、家族や恋人を言葉で傷つけているならそれはDVと同じでしょう。
曲の最後に立場が逆転してイメージが変わるところもKanariaらしい感性を感じますね。
このような豪華タッグが存分に楽しめるアルバム『狂言』から目が離せません!