架空のアーティストが奏でる歌
2007年に作家デビューするも、2年後に早逝したSF作家:伊藤計劃。
彼はいなくなってしまっても「虐殺器官」「ハーモニー」、円城塔によって書き継がれた「屍の帝國」によって人の心に留まり続けた。そして2015年、これらの作品は連続で劇場アニメ化することになる。
その2作品目となる「ハーモニー」の主題歌となったのが『Ghost of a smile』。テレビアニメ「ギルティクラウン」に登場する架空のアーティストグループ、EGOISTの通算8枚目のシングルである。
アニメ終了後も活動を続ける注目のグループで、その魅力はボーカルを担当するchellyの綺麗な歌声。今作の他、残りの2作品の主題歌も担当しており、物語の世界へ引き込む魅力を持っている。
「私の心が、幸福を拒絶した」
21世紀後半、医療分子の発達で病気がほぼ駆逐され、誰もが健康に天寿を全うできる近未来の世界。
そんな社会を倦んだ3人の少女は餓死することを選択したが――。伊藤計劃の遺作となった今作。最期に彼が計劃した世界に流れる楽曲は悲しくて、とても優しい。
Ghost of a smile
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見てよ空を 今日は
こんなにも晴れているよ だから
散歩でもしにいかない?
仲直りがしたいんだ 僕は
君にそう言ったんだよ なのに
≪Ghost of a smile 歌詞より抜粋≫
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人は死んだら、どこにいくのだろう。死後の世界へ向かうのか、何も感じず無に帰るだけなのか。それとも、この楽曲のように最期まで想っていた人の傍にいるのだろうか。
しかし、それは生きる者が描いた願望である。見てくれない、触れることもできないのにずっと傍にいるなんて、辛いだけだ。
そう考えると、この楽曲は生きる者が幽霊に願望を見出すように自分に言って欲しい言葉たちなのだ。たとえ、死んだ者の本当の想いと違ったとしても、人は1人では生きていけないからだ。
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そして僕がいなくなっても
君はきっと一人で生きてゆけよ
涙拭いて 顔を上げて
いつか幸せになれると願おう
≪Ghost of a smile 歌詞より抜粋≫
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心の支えとも呼べる人を失ったとき、人はいとも簡単に折れる。それでも、生き続けなければいけない現実を前に、だからこそ人は思い込みという方法で新たな心の支えを作るのだ。
死んでしまっても相手はこう思っているはずだ、と。見えない相手が傍にいると感じ、聴こえないはずの声に耳を傾け、1人でも生きていけると心を奮い立たせる。
いつかは今も過去になるから
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僕の分まで笑わなくていい
だから僕の分まで泣かなくていい
時はやがて君を癒し
今を過去のものにしてくれるよ
≪Ghost of a smile 歌詞より抜粋≫
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そうしているうちに、いつかは全てが過去になる。新しい出会いがあって、自分のために泣いて笑っているはずだ。そこまで来れば、もう大丈夫。
また、生きてゆけるよ。
TEXT 空屋まひろ