自然の豊かさを感じる手遊び歌の定番曲
子供の頃に友達や両親と、手遊び歌を楽しんだ経験がある人は多いはず。
なかでも『アルプス一万尺』は昔からなじみがある楽曲ですよね。
実はこの曲、アメリカ民謡『Yankee Doodle(ヤンキードゥードゥル)』を原曲にして日本語の歌詞をつけたもの。
『Yankee Doodle』は独立戦争の際の愛国歌として作られましたが、『アルプス一万尺』では山を舞台にした日本オリジナルの歌となっています。
作詞者は不明ですが、当時の登山ブームに乗ってどんどん新たな歌詞が加えられ、今では29番まで増えているのだそうです。
さらには替え歌も多く誕生したため、正しい歌詞を知らないという人も少なくないでしょう。
今回は当初作られた5番までの歌詞を考察し、この曲の意味を読み解いていきたいと思います。
「アルプス一万尺」のこやりって何?
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アルプス一万尺 小槍の上で
アルペン踊りを さあ踊りましょ
≪アルプス一万尺 歌詞より抜粋≫
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そもそも「アルプス一万尺」とは、日本アルプスの槍ヶ岳のこと。
長さの単位である一尺は約30.3cmなので「一万尺」は約3030mとなり、槍ヶ岳の標高3,180mを表していることが分かります。
「小槍(こやり)」は武器の槍のことではありません。
槍ヶ岳の山頂に連なる鋭角な岩山のことで、実はここがちょうど標高3,030mで「一万尺」となっています。
そして続く「アルペン踊り」は公式にはない踊りですが、広大な山の頂で楽しく踊る様子を想像させます。
小槍を「子ヤギ(こやぎ)」と聞き間違えて怖い歌だというイメージを持っている人も少なくありませんが、本当はただ山のことを歌っている歌詞なので、正しく覚えてくださいね。
山から見る自然の美しさ
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お花畑で昼寝をすれば
蝶々が飛んで来てキスをする
≪アルプス一万尺 歌詞より抜粋≫
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岩山のある槍ヶ岳という舞台と「お花畑」は関係がないように思えますが、実は槍ヶ岳は高山植物の宝庫で、夏になるとまさにお花畑になるのだそう。
その点を踏まえると、この歌詞も槍ヶ岳での明るく華やかな風景を描いていることが伝わってきます。
広がるお花畑で心地良い日差しに思わずうとうと昼寝をしていると、そこにやって来た蝶々がまるで歓迎するかのように自分の周りを飛んでいます。
それはきっと登山の疲れも吹き飛ぶような幸せな光景です。
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一万尺にテントを張れば
星のランプに手が届く
≪アルプス一万尺 歌詞より抜粋≫
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楽しい昼のひと時が過ぎ、主人公は槍ヶ岳の小槍にテントを張って夜を過ごします。
周囲に家も明かりもないため、満天の星が天然のランプの役割を果たしてくれているようです。
その強い輝きは手を伸ばせば届きそうにさえ思えます。
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星の欠片を集めてみれば
夢に溢れる天の川
≪アルプス一万尺 歌詞より抜粋≫
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「星の欠片」を集めるという幻想的な表現から、この部分はすでに眠った主人公の夢の中の世界を描いていると思われます。
眠る前に見た美しい星があまりに印象的で、夢の中でまで雄大な天の川が輝く夜空を見上げているのでしょう。
楽しい思い出はいつまでも続く
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アルプス一万尺 いつか来た夢
終わらぬ宴 さあ唄いましょ
≪アルプス一万尺 歌詞より抜粋≫
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「いつか来た夢」というフレーズから、ここまでの歌詞が全て過去に体験したことを回想する夢の映像だったと考察できます。
日常では経験できない自然の美しさや広大さを感じられた槍ヶ岳への登山が、忘れられない思い出になっていることが垣間見えます。
実際に登山に行くことが難しくても、繰り返し思い出すだけでその楽しい気分を味わえるはずです。
「終わらぬ宴」という歌詞には、そうした明るいイメージが込められているように感じます。
29番まである歌詞にはさらに「富士登山」「槍穂高」「穂高岳」など、日本の山が舞台であることを表すフレーズが多く盛り込まれています。
きっと聞きなじみのある歌詞も知らないフレーズもたくさん出てくるはずなので、一度調べてみてはいかがでしょうか?
正しい解釈で歌を楽しもう
聞き間違いや言葉のイメージで怖い歌と思われている『アルプス一万尺』ですが、実際は登山を楽しむ気持ちが詰まった曲でした。「ランラララ ララララ」と明るい音楽のリズムに合わせて歌いながら体を動かせば、男女の垣根なく相手との仲も深まるでしょう。
そして、日本ならではの自然を愛する気持ちを大切にしていきたいですね。