その故郷を出て、また帰りたいと思う人は半々と言われている。記憶に残る思い出が、良いものか悪いものかで随分変わってくるようだ。しかし、何かをきっかけに故郷へ帰ろうと思い立つことがある。例えば、親からの電話、友人の結婚式、故郷を紹介したテレビCMを見てというのもあるかもしれない。
アンジェラ・アキ5枚目のシングル『サクラ色』を聴くというのもその1つだ。武道館で初披露となったこの楽曲は、アンジェラ・アキが何もかもが上手くいかなかった時代を回顧して制作されている。タイトルにある桜がサクラとカタカナ表記になっているのも、ワシントンD.Cにいた当時に見た、ポトマック河岬にあるアメリカの桜がモデルとなっているためである。
しかし、日本が舞台ではないながら、この楽曲を聴いていると自分の故郷を思い出す。
桜色に染まった、自分の故郷を。
アンジェラ・アキ「サクラ色」
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川沿いに咲いてた サクラ並木を
共に生きていくと 二人で歩いた
世界に飲み込まれ 吐き出されても
ただそばにいたくて もっともっともっと
時間の流れと愛の狭間に落ちて
あなたを失った
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ある実験では、「桜色は幸せを感じさせてくれる色」という結果も出たことがあるという。それを考えると、この楽曲はアンジェラ・アキにとって幸せだった時代を歌ったものだというのがより明らかになる。
そして、ワシントンD.Cは彼女にとって第2の故郷。気持ちがタイムスリップしてしまうのは、彼女の故郷への想いに聴いている側も引き込まれてしまうからなのだ。
“恋しくて目を閉じれば”
“あの頃の二人がいる”
“サクラ色のあなたを忘れない ずっとずっとずっと”
たとえ嫌な思いでが詰まった場所だったとしても、人は故郷を忘れられない。それは、故郷が自分の生まれ育った場所であると同時に、いつでも帰れる場所であり続けるからだ。鳥がどれだけ遠く離れても、羽を休めるときには止まり木に必ず戻ってくるように、心から安心できる場所なのである。。
今年もまた、すべてがサクラ色に染まる季節がやって来る。咲きほこる桜に故郷を重ね、恋しく想う春が。その時は、この楽曲を聴いて花見でもしに行こう。
故郷を想う心に、きっと優しく響いてくれるから。
TEXT:空屋まひろ