まだ実力を出していないだけの男性の不満
高い音楽性と野田洋次郎が綴る美しい歌詞で多くのファンを魅了してきた日本を代表するロックバンド・RADWIMPS。
今回は2011年3月9日発売の通算6枚目のアルバム『絶体絶命』の収録曲『G行為』に注目したいと思います。
タイトルの「G行為」はその音の通り、自慰行為のことです。
言葉選びが特徴的なRADWIMPSの楽曲の中でもかなりインパクトの強いクセのあるタイトルですよね。
とはいえ歌詞を見ていくと、性的な意味合い以上に深い意味が込められたラップ曲であることに気づかされます。
さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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まだ まだ できるんだ 俺にゃまだまだ力あるんだ
こんなもんじゃないんだ 元来の俺の力を発揮したならば
その気になったらばドカンと デカイことすぐさまでもできんの
ただ 今じゃない「いつ?」まだ「すぐ?」いつかのため蓄えんの
どこのどいつも なぜ見くびんの? 勝手に低く俺を見積もんの
何も 分かっちゃいない 成っちゃいない もうやってらんないっちゃありゃしないっちゃ
もう ねっちゃ くっちゃ 口ん中 なんだか 粘着質になってきちゃっちゃ
そんなこんなで 改めて 慰めて 好きなだけ 俺褒めて
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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1番で主張するのは男性で、自分には秘めた力があるとアピールしています。
「こんなもんじゃないんだ」とあるように、今はその実力が発揮されていないことが分かりますね。
彼の言い分によると、いつかもっと必要になる時のために実力をあえて出し切っていないだけ。
「その気になったならばドカンとデカイことすぐさまできんの」と言っていますが、今思うように物事を成し遂げられない自分に言い訳をしているだけのようです。
何がしたいのか、何ができるかを具体的に言い表せず可能性のことばかり言い募るところにプライドの高さが垣間見えます。
しかし、現実には何もしていないため、周囲は彼のことをあまりよく見ておらず、実力よりも低く見積もられていると感じて苛立ちを覚えています。
自分の承認欲求を満たしてくれない「何も分かっちゃいない」人たちに声を荒らげる様子は、まるで子どものようです。
承認欲求を満たすための自慰行為はくだらない
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G行為 G行為 G行為 G
G行為 G行為 G行為 G
ちっこい↑ちっこい ちっこい 自慰
G行為 G行為 G行為 G
分かってる 俺は 分かってるよ やればできる子なの 知ってるよ
本気を出した君には恐るべき力が隠されているよ
まだ本気を出していないだけ みんなは本気出しても あんだけ
あぁ 楽しみだ 楽しみだな とんだ大物に化けるかなぁ あぁ
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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サビでは「G行為 G行為 G行為 G」と繰り返されていて、この楽曲での「G行為」の意味が見えてきます。
ほかの誰も褒めてくれないから自分で自分を褒めて慰めるという意味で、彼のこれまでの行為はある意味自慰行為だったのでしょう。
そこに「俺は分かってるよ やればできる子なの知ってるよ」と優しく声かけする第三者が登場します。
「みんなは本気出してもあんだけ」で、君が本気を出せばあっという間に「とんだ大物に化ける」はずだという誰も言ってくれなかった言葉に彼は浮かれているはずです。
そのため「ちっこい」と繰り返されているのが、自分で自分を満足させている状態がくだらないという意味であることに気づいていません。
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成功者がよく語るじゃない 下積み 自慢げに 話すじゃない
君にとって 今がその時なんじゃない? そうじゃない? きっと
そうなんじゃない? パナイじゃない?そうだったらヤバイじゃない
今が美談になんじゃない 今が辛いほどいいんじゃない?
おいしいんじゃない?「じゃない」が多くない?
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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今の君は「成功者」が自身の下積みを「自慢げに話す」かのようだという言い方は、どこか皮肉げです。
そして「パナイ」「ヤバイ」という表現を使い、語尾は「じゃない」ばかりで言葉がどんどん薄っぺらくなっていますね。
結局彼は口だけの人間で、本気を出して失敗した時の予防線を張っているだけであることを見破られています。
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i understand that your complainant and understood with
your clean opinion all you need is a satisfaction
so please feel free let's masturbation
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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この英語詞は簡単に「満足したいなら遠慮なくマスターベーションしなよ」と意訳できます。
本気を出してみることもせずに甘い言葉で自分を慰める彼への厳しい一言です。
直接的な表現が使われているからこそ余計に周囲が抱いている呆れや投げやりな雰囲気を感じさせます。
男性に求められたい女性の言い分
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何よ ほんと近頃の男 ちゃんと一物がついてんの
飾りでついてるだけじゃないの 中身すっからかんなんだわきっと
見るからに自らに明らかに 自信満々な あんな女に
入れあげるなんて気が知れない あーヤダヤダもう殺してやりたい
今日のあいつもそうよ 何よ せっかくの下着台無しよ
ホントの私を知らないからよ ホントの私を知っちゃったらもう
食いついてくるわ 抱きついてくるわ イヤと言ったとこで泣きついてくるわ
泣きついてきたら許したげるわ 私はいい女だから ドカン
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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今度は女性目線で男性への不満が綴られていますね。
「自信満々なあんな女に入れてあげるなんて気が知れない」という言葉には、ある男性が自分ではない別の女性と体の関係を持ったことへの苛立ちが記されています。
これは恋人に浮気をされたというよりは、その女性よりもっと魅力的なはずの自分が選ばれなかったことに傷ついた状態を示しているのでしょう。
1番の男性のように高いプライドを持っていて、自分に欠点はなく悪いのは全て選ばない周囲の人間だと思っています。
また、やっと選ばれたと思っても相手の男性は自分自身を見てくれていたわけではなかったようです。
それも「ホントの私を知らないからよ」と相手のせいにします。
隠された魅力を知ったら男性たちは夢中になって自分を求めてくるはずで、そうしたら仕方ないから許して受け入れてあげると高飛車に考えています。
「私はいい女」と語り、彼女も自分の孤独感を自身で慰めていることが分かります。
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全く以て同感です あなたのおっしゃる通りでげす
test test test test マイクのtestです
俺はゲスです クズです イエスレッツ!
君が生まれた時代が違えば こんなはずじゃなかったんだ
時代が時代だったらまったく真逆の舞台立っていたんだ
間違いない 不甲斐ない男に惑わされるこたない
奈良時代 その界隈じゃ モテて仕方なかったんじゃない?
それ褒めてんの? ねぇナメてんの? バカにしてんの? ナメてほしいの!
だめだめそんなナメナメ言ったら もうオブラートが溶けていっちゃうよー
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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「あなたのおっしゃる通りです」と彼女を全肯定し、「俺はゲスです クズです」と自身を貶めてまで褒めてくれる第三者の男性。
「時代が時代だったらまったく真逆の舞台立っていたんだ」という言葉も、時代がついてきていないだけだと称賛しているように聞こえます。
しかし「奈良時代」を引き合いに出しているところに皮肉が込められています。
奈良時代の美人の定義は今とかなり違う上に、過去にはどうやっても行き着くことはできません。
これには女性も流石に褒められていないことに気づきます。
とはいえ頭の中は性的なことばかりでまともな反論になっていないところに、彼女が本気で愛されない理由が垣間見えます。
第三者の本音が爆発
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んなわけあるかボケ そこドケおののけ人の皮をかぶったこの物の怪
例え何度生まれ変わったとて お主にゃチャンスなんざないんじゃ
その手と手取り合って 手っ取り早くテンポよく諦めんのがええどすえ
エトセトラと性行為とオサラバ こっちこいG行為
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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ここまで味方のように振る舞っていた第三者は「んなわけあるかボケ」と痛烈なツッコミでついに本音を露わにしました。
承認欲求の塊になっている男女を「人の皮をかぶったこの物の怪」とさえ呼んでいます。
そして、何度生まれ変わろうと生きる時代が変わろうと、自分の愚かさに目を伏せて周囲を貶めてばかりいるその性格では認められるチャンスは決して来ないとはっきり伝えています。
自分で自分を慰めて満足したいなら誰かに満たされることは諦めるほかないでしょう。
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G行為 G行為 G行為 G
G行為 G行為 G行為 G
こっちこい こっちこい こっちこい こっち
ちっこい ちっこいちっこい 血
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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ここで「血」が出てくるのは、おそらく自身の承認欲求を満たすための行為によって心が傷ついていることを示していると考えられます。
心のどこかでその行為に虚しさを感じていますが、一瞬得られる満足感のためにやめられなくなっているのです。
独りよがりな生き方がますます自分を寂しくしていることに気づかされます。
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でもね でもね でもでもね でもね でもね でもでもね
でもね でもね でもでもね でもね でもね でもでもね
私かねがね思ってたことが一つあんだが ちょっといいかな
今日もどこかでその手でその身を慰めてらっしゃる 子羊よ
どうせだったら結ばれちゃえばどう?羊同士合体したらばどう?
さすればこう 世界はもうちょっと 優しい色になることでしょう
≪G行為 歌詞より抜粋≫
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とはいえ、第三者は彼らをけなすだけでは終わりません。
彼らは誰かに認められることも叶わず、自分の気持ちを満たすために自慰行為をやめられない迷える哀れな子羊のような存在です。
それで自分を客観視できない仲間同士、二人で結ばれたらどうかとアドバイスを残します。
高望みせずに自身の身の丈に合った相手を受け入れたなら、きっと見方は変わるはずです。
「世界はもうちょっと優しい色になることでしょう」というフレーズが、そっと変化を促してくれています。
野田洋次郎のユニークな歌詞に引き込まれる
RADWIMPSの『G行為』は過激なタイトルと性的な表現が目を引きますが、承認欲求を満たされることに固執しがちな現代人への皮肉が刺さるメッセージ性の強い歌詞が印象的でした。承認欲求自体は誰しも持つ自然な気持ちですが、高すぎるプライドに囚われて正しく自己評価しなければ自分も周囲も傷つけてしまいます。
本当の自分を認めることの大切さについて考えさせられますね。