クリスマスソングの定番『恋人がサンタクロース』
松任谷由実『恋人がサンタクロース』は、1980年12月1日に発売された楽曲です。
クリスマスの人気曲ランキングには必ず入っているほど有名な楽曲ですが、シングル曲ではなく10枚目のアルバム『SURF&SNOW』の収録曲。
シングルとしてのリリースを経ていないにもかかわらず、ここまで世間に認知されているのは、映画『私をスキーに連れてって』の挿入歌に起用された影響も大きいでしょう。
今でもゲレンデのシーンでこの楽曲が流されることは多く、クリスマスソングであると同時にスキーといえば『恋人がサンタクロース』というイメージも強いのではないでしょうか。
数多くのアーティストによってカバーされていることや、彼女のベストアルバム『Neue Musik』にファン投票4位を獲得して収録された経緯からも、その人気の高さがうかがえます。
荒井由実、松任谷由実、ユーミンと、いくつもの名前を持つ彼女が長きにわたり愛される理由の一つに、色褪せない名曲の存在があるといえます。
作詞作曲は松任谷由実が自身で行い、編曲は松任谷正隆が担当。
子供にとって憧れの存在である、サンタクロースとラブソングの掛け合わせが印象的です。
それでは、クリスマスの定番曲『恋人がサンタクロース』の歌詞の意味を、考察していきましょう。
サンタクロースを大人の話に昇華させた歌詞
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昔 となりのおしゃれなおねえさんは
クリスマスの日 私に云った
今夜 8時になれば サンタが家にやって来る
≪恋人がサンタクロース 歌詞より抜粋≫
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夜になるとサンタクロースが家にやって来るというシチュエーションは、子供の頃信じていたサンタの話に似ています。
しかし、サンタクロースは子供たちが寝静まってからやって来るもの。
しかしお姉さんのサンタは、夜8時に訪れるようです。
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ちがうよ それは絵本だけのおはなし
そういう私に ウィンクして
でもね 大人になれば あなたもわかる そのうちに
≪恋人がサンタクロース 歌詞より抜粋≫
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絵本に登場するような子供たちのためのサンタクロースとは違う人。
クリスマスの夜、彼女を迎えに来るサンタクロースとは一体誰なのか。
子供にとっては不思議だったことでしょう。
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恋人がサンタクロース
本当はサンタクロース つむじ風追い越して
恋人がサンタクロース
背の高いサンタクロース 雪の街から来た
≪恋人がサンタクロース 歌詞より抜粋≫
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子供の家には来なかったサンタクロースは、たしかにお姉さんを迎えに来たのでしょう。
「恋人がサンタクロース」というフレーズがとてもオシャレで印象的です。
真夜中ではなく夜の8時に訪れたサンタクロースは、お姉さんにとって最高のプレゼントだったのかもしれません。
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あれから いくつ冬がめぐり来たでしょう
今も彼女を 思い出すけど
ある日 遠い街へと サンタがつれて行ったきり
≪恋人がサンタクロース 歌詞より抜粋≫
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夜8時に現れたサンタクロースと一緒にどこかへ行ってしまったお姉さんは、今も遠い街で幸せに暮らしているのでしょうか。
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そうよ 明日になれば
私も きっとわかるはず
≪恋人がサンタクロース 歌詞より抜粋≫
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子供の頃には分からなかったお姉さんの話が、今になって分かる。
「私」もそんな年齢になり、迎えに来てくれる人ができたのでしょう。
子供の頃とは全く種類の異なる胸の高鳴りを感じながら、クリスマスの夜を心待ちにしている。
隣のお姉さんがそうだったように、「私」のところにもサンタクロースがやってきて、遠い街へ連れ去ってくれるだろうか。
恋人を待つ時間はきっと、幸せでもあり不安でもあることでしょう。
恋人が持ってくる「プレゼント」の正体
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恋人がサンタクロース
本当はサンタクロース プレゼントをかかえて
恋人がサンタクロース
寒そうにサンタクロース 雪の街から来る
≪恋人がサンタクロース 歌詞より抜粋≫
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恋人を待つ「私」は、そわそわしながらサンタを待つ子供のよう。
そこに、プレゼントを持ったサンタクロースが現れます。
彼が持ってきたプレゼントとは、一体何でしょうか。
遠い街からやって来て、自分の住む街にお姉さんを連れて行ったのなら、それは婚約指輪のようなものかもしれません。
ただの恋人から、人生を共にする相手へと変わる夜こそクリスマスであり、サンタクロースのプレゼントはプロポーズなのかもしれません。
そう考えれば、お姉さんがそれきり帰って来ないことも理解できますし、「私」が自分のところへサンタクロースがやって来ることを心待ちにしている理由もうなずけます。
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恋人がサンタクロース
本当はサンタクロース つむじ風追い越して
恋人がサンタクロース
背の高いサンタクロース 私の家に来る
≪恋人がサンタクロース 歌詞より抜粋≫
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愛しい人が「私」を迎えに来て、遠い街へ連れ去ってくれる。
「私」にとって「遠い街」とは、幸せの象徴なのかもしれません。
非常にシンプルな歌詞で「恋人がサンタクロース」「雪の街」という歌詞が、何度も繰り返されるこの楽曲。
サンタクロースは雪の街からやって来て、お姉さんを遠い街へと連れて行きました。
彼女が連れて行かれた遠い街こそ、サンタクロースが住む「雪の街」なのだとしたら、大切な恋人を自分の故郷へと連れて行く、とてもロマンティックな話です。
果たして「私」の元に、サンタクロースは迎えに来てくれたのでしょうか。
聴く人によっていくらでも想像を膨らませることのできる奥行きの深い歌詞に、高いセンスを感じます。
歌というものは好きに解釈ができ、答えがありません。
クリスマスの夜、「私」に何が起こるのか。
最も気になる結末が描かれていないことこそが、『恋人がサンタクロース』という楽曲が長年愛され続ける理由なのかもしれません。
大人にもサンタクロースは存在するというロマン
サンタクロースといえば、クリスマスの定番であり、子供たちの人気者です。
毎年訪れるクリスマスを、子供のためのイベントではなく恋人たちのイベントに置き換えて描いているところに、松任谷由実というアーティストのセンスの高さを感じますね。
恋人がサンタクロースとなって現れ、「私」を素敵な場所へ連れ去ってくれるストーリーは、恋人たちにとって非常にロマンティックで魅力的に映ったことでしょう。
映画の挿入歌としての存在意義を超え、クリスマスに欠かせない名曲となった『恋人がサンタクロース』。
タイトルにもなっているサビのフレーズが有名すぎて、曲自体をじっくり聴いたことがなかった人も、この機会に聴き込んでみてはいかがでしょうか。
一つひとつの歌詞に思いを馳せ、想像力を働かせることで、より深い音楽の世界を味わうことができる。
間違いなく、松任谷由実の代表曲の一つといっていい名盤です。