BUMP OF CHICKEN「クロノスタシス」が名探偵コナン主題歌に抜擢
『クロノスタシス』は2021年4月11日に配信リリースされた、4人組ロックバンド・BUMP OF CHICKEN(通称バンプ)の新曲です。
劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の主題歌ということもあり、アニメファンにとっても注目の楽曲でしょう。
映画作品の『名探偵コナン』は、内容的にもテレビアニメよりも格段にスケールアップしています。
派手な演出に見所満載のストーリーで、過去の作品も注目度の高いものばかりでした。
今作では安室透や警察学校時代の仲間、殉職した松田刑事など、人気のあるエピソードやキャラクターが集結。
特に安室透は主人公であるコナンに引けをとらない存在感と人気を誇るキャラクターで、公開前から注目作となっていました。
松田刑事は花嫁役を務める佐藤刑事にとって、決して忘れることのできない特別な存在。
一方で警察学校時代の仲間である安室透にとっても、松田刑事の死は忘れがたい出来事です。
東京を舞台に繰り広げられる爆弾魔との戦いや因縁。
スリリングな展開を繰り広げる劇場版の世界を、BUMP OF CHICKENの音楽がどのように彩るのか。
彼らが作り出す音にも注目したい作品です。
“クロノスタシス”とは時計の秒針が止まっているように見える現象などを指す、眼球運動の1つです。
楽曲の歌詞の中にもまさに、秒針の話が出てきますね。
かけがえのない存在を失った時や、忘れがたい思い出を抱えている人にとって、時計の針は何年経っても進んでいないように思えるかもしれません。
止まったままの時間は、劇中に登場する松田刑事とも重なりますね。
それでは『クロノスタシス』で描かれるものの意味を、歌詞と共に解釈していきましょう。
ノルマのように「生きる」意味
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もう一度ドアを開けるまで
ノルマで生き延びただけのような今日を
読まない手紙みたいに重ねて
また部屋を出る
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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今日まで生きてきたことをただのノルマだと思ってしまうほど、生きることに後ろ向きな人生。
日々を生きるという作業に意味はなく、淡々とノルマをこなすような日々に愛着はないのでしょう。
「読まない手紙」は目を通されることもなく、ただ無尽蔵に積み重ねられていくだけの存在です。
無機質に繰り返される日々の虚しさが、冒頭の歌詞だけで伝わってきます。
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明け方 多分夢を見ていた
思い出そうとはしなかった
懐かしさが足跡みたいに
証拠として残っていたから
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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色褪せた現実と対照的に、夢の中はきっと幸せだったのでしょう。
思い出さなくても、それが懐かしい過去だと分かってしまうところに、愛しさと切なさを感じます。
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大通り
誰かの落とした約束が
跨がれていく
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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人が行き交う場所には、誰かの思いがたくさん落ちているのでしょう。
とりとめもなくアルバムをめくるように、懐かしい写真から過去を拾い上げる作業。
他人から見れば興味のない、どうでもいい約束も、どこかの誰かにとってはかけがえのない、忘れがたいものです。
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この街は居場所を隠している
仲間外れ達の行列
並んだままで待つ答えで
僕は僕を どう救える
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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人でごった返す街なのに、誰もが居場所を求めている。
溢れているのは人ばかりで、その心は空っぽ。
虚しさを抱えてさまよう姿は、毎日をただ生きているだけの「僕」にとって、他人事とは思えません。
やりがいを持ち、確固たる居場所を持つ人々から外れてしまった人たちは、まさに仲間はずれです。
それが行列になっているところに、賑やかな街と相反する虚しさが表現されています。
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飾られた古い絵画のように
秒針の止まった記憶の中
何回も聞いた 君の声が
しまっていた言葉を まだ 探している
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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「僕」が置いてきた過去には「君」がいて、今もずっと呼びかけているのでしょう。
過去に未練を残しているからこそ「僕」は前に進めず、毎日をノルマのように淡々と生きることしかできないのです。
遠い過去に囚われた人間の生き苦しさが、緩やかなメロディーと共に流れ込んできます。
過去という呪いに縛られた「僕」の不自由さ
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ビルボードの上 雲の隙間に
小さな点滅を見送った
ここにいると教えるみたいに
遠くなって消えていった
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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雲間を照らす光が、まるで居場所を示すかのように見えた。
遠い記憶の中にしかいない人が「僕」を掴んで離さないような、ちくりとした痛みを感じさせるフレーズです。
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不意を突かれて思い出す
些細な偶然だけ 鍵にして
どこか似たくしゃみ 聞いただとか
匂いがした その程度で
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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大切な人を思い出すきっかけは、ほんの些細なことです。
誰かのくしゃみが少し似ていたり、懐かしい匂いがしたり。
いるはずもないのに、つい「君」を探してしまう「僕」の姿が目に浮かびます。
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臆病で狡いから
忘れたふりをしなきゃ
逃げ出しそうで
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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過去に大きな未練を残して現実を生きるには、強くなければいけません。
過去を振り切れるほどの強さか、一瞬一瞬を後悔なく生きられる強さか。
「僕」にはそのどちらもないから、辛い過去から目を背け、忘れたふりをするしかないのです。
本当はふとした瞬間に思い出してしまうほど「君」を覚えているのに、必死で「忘れた」と言い聞かせるのは辛いものです。
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例えば未来 変えられるような
大それた力じゃなくていい
君のいない 世界の中で
息をする理由に応えたい
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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人生を前向きに生きていくために必要な力は、何も困難を切り開いていけるような大きな力である必要はありません。
ただ今この瞬間を、生きていていいと思える心を持てればいい。
それができなくて、毎日読まない手紙を積み重ねるような生活をしている「僕」にとって、生きる意味を見出す力は望んで止まないものでしょう。
「クロノスタシス」というタイトルと歌詞に込められた意味
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それっぽい台詞で誤魔化した
必要に応じて笑ったりした
拾わなかった瞬間ばかり どうしてこんなに
今更いちいち眩しい
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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思い出というのは、必ずしも特別なものばかりではありません。
ほんの些細なことでも、ふとした瞬間に輝きを持って甦ることがあります。
何気ない瞬間ほど愛おしく思える不思議な感覚を覚えながら、取りこぼしてきた過去を悔やんでいるのでしょう。
たった一言を口にしなかったこと。
飲み込んだ言葉。
「あの時ああしていれば」という思いは、生きていれば誰もが抱く感情です。
過去は戻らないからこそ残酷。
それでも過去の落とし物を拾いながら、探しながらなら、「僕」もこれから先、少しは前向きに生きていけるかもしれません。
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僕の奥 残ったひと欠片
時計にも消せなかったもの
枯れた喉を 振り絞って
いつか君に伝えたいことが
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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胸の奥に刺さった言葉を抱えて生きてきた時間。
どれほど時を経ても、時間さえも忘れさせることのできなかった思いは「僕」の中に生きています。
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失くしたくないものがあったよ
帰りたい場所だってあったよ
君のいない 世界の中で
君といた昨日に応えたい
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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失いたくないと強く願った大切な存在も、なすすべなく奪われてしまった過去。
過去は変えられないからこそ「君」と過ごした遠い過去に恥じないように生きたい。
それが現実を生きる活力になるのなら、喪失も無駄ではなかったのでしょう。
むしろ無駄にしないために、今を精一杯生きるのです。
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飾られた古い絵画のように
秒針の止まった記憶の中
鮮明に繰り返す 君の声が
運んできた答えを まだ
しまっていた言葉を 今 探している
≪クロノスタシス 歌詞より抜粋≫
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遠い過去から響いてくる「君」の声が、閉ざした心を優しく開き、何度も「あの日」にタイムスリップさせられるのでしょう。
あの日言えなかった言葉を、今、探している。
いつかは答えにたどりつけることを願います。
止まったままの時を動かすのは結局、自分自身しかいないのでしょう。
過去から聞こえる声にどう答えるか。
今をどう生きるのか。
『クロノスタシス』は失われた時間と再生を歌っているような気がします。
答えが見つからないまま何年の時が流れても、生きている限り「僕」はいつか答えを出すことができるでしょう。
その時にはどんな未来が待っているのか、思いを馳せたくなる楽曲です。
『クロノスタシス』はMVもYouTubeで公開中。
劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の予告映像と共に聴くと、より一層作品に寄り添った曲の世界観を楽しむことができます。
フルバージョンは全く異なる、静かで穏やかな雰囲気なので、どちらもチェックしてみると違った魅力を味わえるのではないでしょうか。
BUMP OF CHICKENは、トイズファクトリーに所属する4人組のロックバンド。独特な世界観とボーカル藤原の圧倒的歌唱力、更にはドラマの他、アニメやゲームとのタイアップ曲も多く、幅広い年齢層から支持を集めている。 幼稚園時代からの幼馴染であり、1994年、当時中学校の同級生であった4人が、文···