「クレヨンしんちゃん」劇場版30作品目の主題歌
「リョクシャカ」の愛称で知られる4人組バンド「緑黄色社会」。全メンバーが作曲に関わることで生まれるバリエーション豊かな音楽性、透明感と力強さを兼ね備えたボーカルの歌声。
これらを武器に若い世代の絶大な支持を集めている今注目の大人気バンドです。
そんな緑黄色社会が、2022年4月20日にシングル曲『陽はまた昇るから』をリリースしました。作詞はギターの小林壱誓(いっせい)が手がけています。
この楽曲は同年4月22日に公開された『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』の主題歌として書き下ろされたものです。
言わずと知れた国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』ですが、劇場版は今回で30作品目になります。
家族愛や友情などがユーモラスな世界観で描かれる『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ。
とりわけ今作では「家族愛」が物語のメインテーマとなっており、野原一家の未来、引いては地球全体の未来が懸かったアクション超大作となっています。
その主題歌『陽はまた昇るから』の制作にあたり、緑黄色社会は「普段はユーモラスで勇敢なしんちゃんが悲しくなったり寂しくなったりしたときに寄り添える曲」になるよう意識したそうです。
以下では、そんな「しんちゃんに寄り添う」楽曲『陽はまた昇るから』の歌詞の意味を考察していきます。
辛い経験さえ、いつかは思い出に
最初の歌詞は曲名と同じ「陽はまた昇るから」。
歌い出しから明るい未来を感じさせる優しい歌詞です。
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陽はまた昇るから
悲しくなれる
それはイイことなんだよ
悲しむ人の気持ちを
守れる人になるから
寂しくなれる
それもイイことなんだよ
誰かが居た温もりに
生きられるから
≪陽はまた昇るから 歌詞より抜粋≫
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「悲しくなれる」ということは「悲しむ人の気持ちを守れる人」になれるということ。
「痛みを知ってこそ相手を思いやれる」というのは、大人からすると当然に思えます。
そんな当たり前のことを幼い子どもでも理解できるような易しい表現で伝えているようです。
そして「寂しくなれる」ということは「誰かが居た温もりに生きられる」ということ。
「寂しい」という気持ちは、人の温もりを知っているからこそ生まれるものです。
「悲しい」「寂しい」といった一見マイナスな感情も、悲しんでいる人の気持ちや周りの人の温もりを大事にできるようになるためには必要なのだ、というメッセージが読み取れます。
次の歌詞は以下です。
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思い出を思い出すとき
同じ気持ちになれるのかな
転んで開いた両手には
泥んこだらけの宝石だ
その輝きを忘れないように
≪陽はまた昇るから 歌詞より抜粋≫
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多くの人が夢中になって遊び回ったであろう幼少期。いい汗をかいたり泥だらけになったり、意味もなく走ったり転んだり。
そんな無邪気でキラキラした思い出がよみがえってくるような歌詞です。
そして同じ思い出を共有する家族や友達もまた、それを思い出すたびに自分と同じようなキラキラした気持ちになれると思うと、とても素敵なことですね。
続いてサビを見ていきましょう。
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時計がチクタク
24回刻んでるあいだに
一瞬の冒険を
その胸に刻んでいけ
晴れのち雨のち腫れのち七色
びしょ濡れでも笑えるさ
焼き付けるんだ
受け止めるんだ
乗り越えるんだ
陽はまた昇るから
≪陽はまた昇るから 歌詞より抜粋≫
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大人になると1年すらあっという間に感じますが、子どもにとってはたった1日でさえ大きな「冒険」になるものです。
大人から見た「一瞬の冒険」を「その胸に刻んでいけ」という歌詞は、「1つ1つの思い出を大切に毎日を過ごしていこう!」という励ましのように聞こえます。
たとえその思い出が辛いものであっても「腫れのち七色」。
「まぶたを腫らすほどに泣いても、その経験はいつか虹のように美しい思い出になる」という、辛い思い出さえ受け入れられるような熱いメッセージが伝わってきます。
そしてサビの締めは「陽はまた昇るから」。
「今が大変でも、すぐそこに明るい未来が待っている」と思える希望に満ちたサビですね。
可能性は無限大!「シクハク」に隠された意味は?
続いて2番の歌詞に入ります。
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大人になれる
それはイイことなんだよ
まだまだ分からなくてもいい
それでも伝えておくぜ
優しくなれる
それもイイことなんだよ
説明なんて野暮だね
ララララ ラララ
≪陽はまた昇るから 歌詞より抜粋≫
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「大人になれる それはイイこと」というのは、「これから何者にでもなれる」という子どもたちの開けた未来を表現していると解釈できそうです。
ただ、当の子どもたちは全力で今だけを楽しんでいることでしょう。そんな彼らに「これから」を考えさせるのは少々早い気もします。
それでも、大人から見ると子どもの未来は広大で魅力的です。なのでつい「まだまだ分からなくてもいい」のに、子どもたちに「可能性は無限大だぞ!」と教えてあげたくなったのかもしれません。
一方で「優しくなれる それもイイことなんだよ」というのは、小さな子どもでも十分理解できることでしょう。
「困っている人がいたら助けてあげる」「自分がされて嫌なことはしない」など、人に優しくすることの大切さは誰もが幼い頃から教わっているはずです。
それを改めて伝えることに対する「大人の照れ」が、「説明なんて野暮だね ララララ ラララ」という歌詞で表現されているのではないでしょうか。
次の歌詞に進みます。
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助けのついてる自転車も
おろしたばっかのクレヨンも
がむしゃらに走らせてみて
思うまま
≪陽はまた昇るから 歌詞より抜粋≫
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補助輪付きの「自転車」や新品のきれいな「クレヨン」。どちらも幼少期を生き生きと思い出させるものです。
難しいことは考えず、ただひたすらに自転車に乗る練習をしたり、クレヨンでお絵かきをしたり、子どもならではの伸び伸びとした動きや雰囲気が伝わってきます。
「無限の可能性を抱いたまま、夢中に自由に成長していけ!」という、親心にも似た子どもたちへの願いが感じられる歌詞です。
続いてサビを見てみましょう。
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時計がシクハク
24回刻んでるあいだに
秒針を追い越して
明日すら描いていけ
晴れのち雨のち腫れのち七色
一生ぶん寝ても笑えるさ
疲れ切るんだ
それでイイんだ
夢を見るんだ
陽はまた昇るから
≪陽はまた昇るから 歌詞より抜粋≫
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1番では「時計がチクタク」でしたが、ここでは「シクハク」となっています。どうも聞き慣れない言葉です。
ただ、これを「4989(シクハク)」と数字に置き換えると面白い説が浮かび上がります。
というのも、4、9、8、9を全て足すと「30」になります。そして今回の『映画クレヨンしんちゃん』は劇場版「30」作品目です。
よって「シクハク」という言葉は『映画クレヨンしんちゃん』のこれまでの歩みを暗示しているのではと考えられます。
そうだとすると、歴代映画へのリスペクトが感じられる粋な言葉遊びですね。
続く「秒針を追い越して 明日すら描いていけ」には、「時間を忘れて遊び、まだ見ぬ明日へ踏み出そう!」というような底抜けに明るい希望が感じられます。
たくさん遊んで、疲れて眠る。そして「一生ぶん」と言えるほどぐっすり眠った先にも「陽はまた昇る」のでしょう。
特に「夢を見るんだ」は「何度でも夢を描こう」とも解釈でき、2番冒頭で考察した「無限の可能性がある未来」とリンクするようにも思えてきます。
何事も恐れず立ち向かえ!
いよいよ終盤です。Cメロから見ていきましょう。
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心の声すら聞こえるよ
それでも声が聞きたいんだ
生まれてきたそのときから
地球がみとめた引力だ
その始まりを忘れないように
≪陽はまた昇るから 歌詞より抜粋≫
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大人になると、相手の本心に気づいたりそれを察したりする場面が増えていきます。
前半の「心の声すら聞こえるよ それでも声が聞きたいんだ」は「忖度がよくある現実社会の中で、大切な人の声くらいは直接聞きたい」という思いだと解釈できそうです。
続く「生まれてきたそのときから 地球がみとめた引力だ」は、地球という偉大なものに引き寄せられて産声を上げた私たち全員の存在を肯定しているように思えます。
私たちが直接「声」を聞きたいと感じるのは、もしかしたら人生の「始まり」が割れんばかりの「産声」だったからかもしれません。
続いて、最後のサビです。
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時計がチクタク
24回刻んでるあいだに
最高の冒険を
いま胸に刻んでいけ
晴れのち雨のち腫れのち七色
びしょ濡れでも笑えるさ
震えてるんだ
それでイイんだ
立ち向かうんだ
陽はまた昇るから
≪陽はまた昇るから 歌詞より抜粋≫
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大人から見た「一瞬の冒険」(1番の歌詞)こそ紛れもない「最高の冒険」であり、その最高な一瞬一瞬を「胸に刻んでいけ」と歌っているようです。
雨に降られて「びしょ濡れ」になっても、流した涙で「びしょ濡れ」になっても、いずれそれらの経験は七色に光る思い出の1つに変わっていくことでしょう。
そしてそのときが来たら「笑える」と信じて、「何事も恐れず立ち向かえ!」という激励のメッセージが「震えてるんだ それでイイんだ 立ち向かうんだ」に込められているのではないでしょうか。
ラストの「陽はまた昇るから」は、冒頭での悲しさや寂しさに寄り添う「陽はまた昇るから」より、一層パワフルで前向きな印象を受けます。
「明るい未来に向かって、どんなに苦しい状況でも戦い続けよう!」という熱い意志が湧いてくる一行です。もはやしんちゃんだけでなく私たち大人も勇気づけられてきますね。
きっと『陽はまた昇るから』の歌詞は、しんちゃんのような幼い子どもたちだけでなく、彼らを見守る立場にある親世代に対しても大きな励ましになることでしょう。
今にどこからか「野原一家、ファイヤー!」と聞こえてきそうなラストですね。
子どもも大人も明るい未来を!
以上、緑黄色社会『陽はまた昇るから』の歌詞考察でした。「しんちゃんの悲しみや寂しさに寄り添う」というテーマでありながら、私たちリスナー全員が元気づけられる、優しくもパワフルな歌でしたね。
きっと幼い子どもたちのみならず、私たち大人にもまだたくさんの可能性が眠っていることでしょう。
緑黄色社会は、そんな大人たちをも含めた全地球人に対して「何事も恐れず立ち向かえ!」と応援してくれているのかもしれません。
なぜなら、どんな困難にぶつかっても「陽はまた昇るから」。
この声に励まされ、明るい未来を描ける人が少しでも増えたら素敵ですね。