「習性」を意味する「Habit」に込められた意味とは
SEKAI NO OWARIの16枚目となるシングル『Habit』は、CLAMPの同名人気コミックを原作に蜷川実花監督が実写化する映画『ホリック xxxHOLiC』の主題歌として書き下ろされた楽曲です。
作品の妖艶な世界感にマッチする、ミステリアスな曲調に引き込まれるでしょう。
監督からの「今を生きる若者たちへの優しさを込めてほしい」というリクエストに応えて制作されたらしく、歌詞を見ると過激にも思えるようなストレートな言葉が並んでいます。
どのようなメッセージが込められているのか、さっそく意味を考察していきましょう。
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君たちったら何でもかんでも
分類、区別、ジャンル分けしたがる
ヒトはなぜか分類したがる習性があるとかないとか
この世の中2種類の人間がいるとか言う君たちが標的
持ってるヤツとモテないやつとか
ちゃんとやるヤツとヤッてないヤツとか
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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主人公がリスナーへ向けて語りかけるスタイルで始まる冒頭から、この曲のテーマが見えてきます。
タイトルの「Habit」は、和訳すると「習性・習慣」という意味があります。
それで「ヒトはなぜか分類したがる習性」があるということを歌っていると分かりますね。
仕事でも恋愛でも“持っている人”と“持っていない人”や、“ちゃんとやっている人”と“やっていない人”という風に分類して人のことを判断する傾向が、誰にでも少なからずあるのではないでしょうか。
この「分類」というテーマは、セカオワの過去の楽曲でも見られてきた考え方です。
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隠キャ陽キャ?
君らは分類しないとどうにも落ち着かない
気付かない本能の外側を
覗いていかない? 気分が乗らない?
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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「隠キャ(陰キャ)」や「陽キャ」という言葉もよく耳にしますよね。
自分や他人をどちらかに当てはめることで、タイプの違う人たちに近づいて失敗したくない、同じタイプの人と集まって安心感を得たいという気持ちがあると考えられます。
しかし、そんな本能的な判断が必ず正しいとは限りません。
「気付かない本能の外側を覗いていかない?」というフレーズは、自分で狭めてしまった世界の外側にも目を向けてみるよう促しています。
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つまり それは そんなシンプルじゃない
もっと 曖昧で 繊細で 不明瞭なナニカ
例えば持ってるのに出せないヤツ
やってるのにイケないヤツ
持ってるのに悟ったふりして
スカしてるうちに不安になっちゃったりするヤツ
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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人には分類する習性がありますが、実際はたった2つに分類できるほどシンプルな存在ではないでしょう。
自分でも具体的に言い表せないような曖昧な感情を抱えていたり、想像以上に繊細な心を持っていたりと、とても複雑な生き物です。
そして後半の歌詞は、人によっても微妙な違いがあることを示しています。
性別で分類することすら難しいのだから、簡単に人を分類して決めつける習性はやめるべきだと伝えているのです。
自分で自分を分類するなよ
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所詮アンタはギフテッド
アタシは普通の主婦ですと
それは良いでしょう?素晴らしいでしょう?
不可能の証明の完成なんじゃない?
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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「ギフテッド(gifted)」とは、生まれつき人よりも優れた才能を持っている人のことを指します。
才能のあるアンタとは違って「アタシは普通の主婦です」と、自分の境遇のせいにして諦めたがる人も少なくないでしょう。
これまで多くのことを発見・証明してきた数学や科学の世界でも、できないことを証明する「不可能の証明」は難しい問題です。
それなのに多くの人が才能がないことを理由にして、無理だと決めつけます。
ここではそんな人たちに対して、本当に才能がない人は決して成功できないという考えが正しいのであれば「不可能の証明の完成なんじゃない?」と皮肉っています。
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夢を持てなんて言ってない
そんな無責任になりはしない
ただその習性に喰われないで
そんなHabit捨てる度 見えてくる君の価値
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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この曲は「夢を持て」なんて無責任なことを歌っているわけではありません。
伝えたいのは「ただその習性に喰われないで」というメッセージ。
確かに簡単に分類できればもっと楽に生きられたり、人間関係が複雑になったりしないのにと思えることもあるかもしれません。
それでも、複雑だからこそ、他の人とは違う自分だけの個性を輝かせられるのではないでしょうか。
固定概念を捨ててしまえば「君の価値」が見えてくるという言葉に、心が動かされます。
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俺たちだって動物
こーゆーのって好物
ここまで言われたらどう?
普通 腹の底からこうふつふつと
俺たちだって動物
故に持ち得るOriginalな習性
自分で自分を分類するなよ
壊して見せろよ そのBad Habit
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞では、さらに違う角度から分類する人の習性の可笑しさを説いているようです。
犬は骨、猫なら魚という風に動物の種類によって好物のイメージがありますが、それぞれ本当の好物は様々です。
同じように相手の性別や出身などによって勝手なイメージを持つことは、「あなたは動物だからこーゆーのって好物だよね」と言っているようなもの。
その人が本当は何が好きなのかを知ろうともせずに決めつけるのは、とても失礼なことです。
他人から言われたら腹が立ってしまうはずなのに、人には平気で言い自分のことも都合よく分類する風潮を壊すべき「Bad Habit」だとはっきり歌っています。
人生は君次第
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大人の俺が言っちゃいけない事言っちゃうけど
説教するってぶっちゃけ快楽
酒の肴にすりゃもう傑作
でもって君も進むキッカケになりゃ
そりゃそれでWin-Winじゃん?
こりゃこれで残念じゃん
そもそもそれって君次第だし
その後なんか俺興味ないわけ
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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「大人の俺」である主人公の言葉は、世の中の大人世代の人たちの正直な心の内を明かしているように感じます。
「説教するってぶっちゃけ快楽」というフレーズから、若者を説教することによって優位に経っている自分に酔いしれている様子が見えてきます。
その結果「君も進むキッカケになりゃそりゃそれでWin-Win」だけど、それで自分が優位に立つ機会がなくなると思うと残念にも思えてくるといった、自己中心的な考え方をしているようです。
若者目線で見れば嫌な大人と感じますが、ここで大切なのは人生は「君次第」だということです。
誰がどう言うとしても決定し行動するのは自分自身なのだから、人に流されず自分で未来を切り拓けと諭されているように思えます。
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この先君はどうしたい?
ってヒトに問われる事自体
終わりじゃないと信じたいけど
そーじゃなきゃかなり非常事態
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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「この先君はどうしたい?」と問われる時点で終わりで、もし終わりじゃないとすれば「かなり非常事態」。
人に聞かれる前に、自分で決められる人にならなければいけないのです。
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君たちがその分類された
普通の箱で燻ってるからさ
俺は人生イージーモード
ずっとそこで眠っててアラサー
俺はそもそもスペックが低い
だから足掻いて踠いて醜く吠えた
俺のあの頃を分類したら
誰の目から見ても明らか
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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この部分にはおそらく、Fukase自身の想いが詰め込まれています。
同世代の人たちが自分で自分を決めつけて眠っているから「俺は人生イージーモード」だと皮肉っています。
しかしこれは、自分が才能を持っている側の人間だという自慢ではありません。
「俺はそもそもスペックが低い」という言葉は、自身が発達障害であることや、医師になるために猛勉強しながらも記憶喪失のために諦めた過去のことを指しているのでしょう。
当時の様子を分類するとすれば、明らかに“持っていない側の人”と言えます。
それでもそこで諦めるのではなく、「足掻いて踠いて醜く吠えた」とあるように、泥臭くても必死で努力を続けてきました。
その結果、海外からの評価も高い日本が誇るバンドにまでなっていることを思うと、才能が全てではなく諦める必要もないことを確信できます。
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すぐ世の中、金だとか、愛だとか、運だとか、縁だとか
なぜ2文字で片付けちゃうの
俺たちはもっと曖昧で
複雑で不明瞭なナニカ
悟ったふりして驕るなよ
君に君を分類する能力なんてない
≪Habit 歌詞より抜粋≫
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世の中は金が全てだと言う人もいれば、愛や運や縁を挙げる人もいます。
もちろんそれぞれ大切なものではありますが、そんなたった2文字の言葉だけで言い表せるような単純なものではありません。
最後の一文にある通り、誰にも「君に君を分類する能力なんてない」のです。
分かったような気になって自分自身を分類できると驕っていては、本当の自分の価値を見失ってしまいます。
反対に、分類することをやめれば自分をもっと輝かせられるはずです。
あなたにはまだあなたの知らない価値があるのだから、自分で自分を諦めないでほしいというメッセージは、確かに「今を生きる若者たちへの優しさ」と言えるのではないでしょうか。
ミステリアスなセカオワワールドを楽しもう
SEKAI NO OWARIの『Habit』は、厳しくも率直に世の中の間違った考え方に警鐘を鳴らす歌詞が印象的でした。また、MVではダンサーと共にFukaseが変顔をしつつクセの強いダンスを披露していて、メロディと合わせて中毒性が高いと話題になっています。
あなたも『Habit』で新たなセカオワワールドに没入してみませんか?
2010年、突如音楽シーンに現れた4人組バンド「SEKAI NO OWARI」。 同年1stアルバム「EARTH」をリリース後、2011年にメジャーデビュー。 圧倒的なポップセンスとキャッチーな存在感、テーマパークの様な世界観溢れるライブ演出で、子供から大人まで幅広いリスナーに浸透し、「セカオワ現象」とも···