はじめて告白したときに聴きたい恋愛ソング
“小説を音楽にする”人気音楽ユニット・YOASOBIのコラボプロジェクト「はじめての」が好評となっています。このプロジェクトは、4名の直木賞作家が「はじめて○○○したときに読む物語」をテーマに書き下ろした小説から音楽を紡ぐというもの。
第2弾として2022年5月30日に配信リリースされた『好きだ』は、森絵都の『ヒカリノタネ―はじめて告白したときに読む物語』を原作に制作されました。
小説は幼馴染の椎太に恋する高校2年生の由舞を主人公に、ファンタジー要素を盛り込んで展開していきます。
そのストーリーを元に作られた楽曲は「好きだ」というストレートなタイトルの通り、恋の楽しさや苦しさがぎゅっと詰まった恋愛ソングに仕上がっています。
小説の内容には極力触れず、歌詞の内容から意味を考察していきましょう。
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急に居ても立っても居られず
友達にSOS
話聞いて欲しいんだ
やっぱり私 彼のことが
「そんなこと知ってるもう何度も」
薄っぺらなそんなリアクション
耳にタコが出来ててもいいから聞いて
我慢出来ないんだ
いざ彼に四回目の告白を
≪好きだ 歌詞より抜粋≫
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主人公はある男の子に片思い中の女の子。
しかもすでに三回も告白していて、毎回振られてしまっている状況が見て取れます。
「やっぱり彼のことが」に続くのは当然「好きだ」という言葉でしょう。
何度振られても彼を好きな気持ちは少しも変わりません。
その想いを明かすと、これまで繰り返し相談にのってきた友達は「そんなこと知ってるもう何度も」と少しうんざりした様子で返します。
そんな薄っぺらいリアクションにもめげず「四回目の告白」への決意を表す姿が微笑ましいですね。
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期待薄い片思いなんて苦いだけ
友達でいいよ
すれ違いざま 一言交わすだけ
それだけでいいなんて
思ってたのに
頭から離れない君の声
≪好きだ 歌詞より抜粋≫
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断られ続けているのだから、今更成功する確率が低いことも分かっています。
「苦いだけ」の恋なんて諦めて友達でいることを受け入れられたら。
「すれ違いざま一言交わすだけ」で満足できたらどんなに楽だろうと考えています。
実際に始めは「それだけでいい」と思っていました。
しかし次第に「君の声」が頭から離れなくなって、想いが高まっていくことを止めることはできなかったのです。
全部やり直せたのなら
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もしも君に想いを一度も
伝えていなかったらなあ
慣れた告白なんてちっとも
ときめかないよね
≪好きだ 歌詞より抜粋≫
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主人公にとって全て本気の告白ですが、さすがに四回目ともなるとわけが違います。
相手にとって「慣れた告白」になってしまい、「ちっともときめかないよね」と次の告白への不安を滲ませます。
「もしも君に想いを一度も伝えていなかったらなあ」と歌われる通り、これが初めての告白なら結果が違うのではないかと考え始めました。
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初めて想い伝えた十年前
あまりにも無邪気だった
次の五年前も軽すぎたし
次の三年前そうだ
もしも根こそぎ全部やり直せたのなら
≪好きだ 歌詞より抜粋≫
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初めての告白は今から「十年前」なので、小学1年生の頃のようです。
彼女の恋が幼い頃から育んできたものであることが分かりますね。
幼さゆえに「あまりにも無邪気だった」告白は、今思えば彼に受け入れられなくて当然だったかもしれません。
その後「五年前」の小学6年生の時と「三年前」の中学2年生の時にも告白をしましたが、相手が幼馴染という気安さのためかどちらも「軽すぎた」と認めています。
振り返ってみると反省点ばかりで、「もしも根こそぎ全部やり直せたのなら」今度こそ失敗しない告白ができそうなのにと本気で思っています。
失敗したから得られたヒカリノタネ
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さあタイムトラベルだ あの日まで
取り返そう 初めての告白を
全部全部無かったことに
それでいいんだ
それでいいんだっけ
≪好きだ 歌詞より抜粋≫
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そこで思いついたのは「タイムトラベル」です。
「初めての告白」をした十年前まで遡って告白を阻止し、過去の三回の告白を「全部全部なかったことに」しようと画策します。
突拍子もない発想に思えますが、小説内ではタイムトラベルの手伝い人が登場して実際に過去に戻ることに。
これで初めての告白をやり直せると喜んだ主人公でしたが、「それでいいんだっけ」とふとこの行動が正しかったのか考えます。
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何回フラれてがっかりしたって
苦い想い繰り返したって
その度触れた君の好きなものが
いつしか私の好きものになったんだ
それはかけがえない今の私の宝物
失敗してもいい
もう一度言うよ
私 君のことが
≪好きだ 歌詞より抜粋≫
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確かにフラれる度に落ち込んで「苦い想い」を繰り返してきました。
それは楽しいことばかりではありませんでしたが、「その度触れた君の好きなものがいつしか私の好きなものになったんだ」ということを思い出します。
それこそが「かけがえのない今の私の宝物」で、きらめく「ヒカリノタネ」。
今の自分が持っている大切なものは全部、振られてしまった三回の告白があってこそ生まれたものだったのです。
その事実に気づいた時、彼女はこの告白が「失敗してもいい」と思えるようになりました。
告白をする意味は、成功することではなく想いを伝えることにあります。
タイムトラベルから戻って来た主人公がどんな結末を迎えるのかは、ぜひ小説をチェックしてみてくださいね。
原作小説を読めばさらに解釈が広がる
YOASOBIの『好きだ』は、片思いをしている人たちを勇気づけ背中を押す温かい楽曲です。原作者の森絵都がコメントしている通り、「心から誰かを思うこと」のまぶしさが描かれた歌詞はどの世代の人の心にも沁みるでしょう。
作家とアーティストが共に作り上げた温かくて愛おしい世界観を楽しんでくださいね。