応援曲『YELL』
歓声を上げ、大声で叫ぶこと。応援の際に発する声を、人はエールと呼ぶ。相手に頑張ってほしくて、励ましたくて。いきものがかり15枚目のシングル『YELL』もまた、相手へ自分へ声援を送る楽曲。
歌詞の内容から「SAKURA」「ありがとう」などと同じく、卒業式や送る会などでよく使われ、リリースされてから着々と順位を伸ばしてきた。
その順位は「卒業ソングランキング」にて、2010年に10位、2011年は6位、2012年には2位にランクインしている。
ただ、この楽曲は優しく送り出すような楽曲ではない。
どちらかと言えば、飛び立つことに足踏みしている人の背中を強く押し出すような一面を持っている。
いきものがかりが卒業生へ送ったエールに、そんな一面がある理由とは?
----------------卒業式というのは、否応なしに学校から追い出されることでもある。
「“わたし”は今 どこに在るの」と 踏みしめた 足跡を 何度も見つめ返す
枯葉を抱き 秋めく窓辺に かじかんだ指先で 夢を 描いた
翼はあるのに 飛べずにいるんだ ひとりになるのが 恐くて つらくて
優しいひだまりに 肩寄せる日々を 越えて 僕ら 孤独な夢へと歩く
≪YELL 歌詞より抜粋≫
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卒業したくない、と思っていても3年経てば、出ていかなくてはならない。
それは歌詞にあるように、鳥のヒナが巣から放り出されるのに似ている。
それもあってかエールは総じて温かくやさしいイメージがあるが、この楽曲では少し印象が変わってくる。
冷たく、突き放した感じがするのだ。“サヨナラ”という言葉をエールとしているからかもしれない。
しかし、これは優しさの裏返し、心からのエールである。同じ場所に留まり続けるのは確かに居心地が良く、仲間もいてとても安心できる。
けれど、それでは成長することはできない。
大人になれば、突然の別れや自分ではどうしようもない出来事がたくさん起こる。未来へ夢へ向かって歩いていくために、卒業式で別れを迎えながら「負けるな」と背中を押しているのだ。
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サヨナラは悲しい言葉じゃない それぞれの夢へと 僕らを繋ぐ YELL
ともに 過ごした 日々を 胸に抱いて 飛び立つよ 独りで 未来の 空へ
≪YELL 歌詞より抜粋≫
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また、この楽曲のエールは悲しい言葉じゃないだけでなく、再会を約束する言葉でもある。“サヨナラ、また会おう”と。
その約束は色あせず、思い出とともに胸に残り続ける。
彼らの地元である厚木市では、2010年11月3日より小田急線本厚木駅にて電車の接近を知らせる、接近メロディとしてこの楽曲を使用しているそうだ。
そうして本厚木駅を訪れる人に、エールを送り続けている。
TEXT:空屋まひろ