転生する人生を描く歌詞を徹底解説
人気ボカロP・ピノキオピーが2022年6月3にリリースした新曲『転生林檎』。
歌詞のストーリーに合わせた色彩豊かなアニメーションMVには、ピノキオピーの過去作を思わせる演出が盛り込まれていて、ファンを楽しませてくれます。
どのような物語が描かれているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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平凡な自分が嫌
なんでもない生活が嫌
胡散臭い売人から買った
怪しい林檎を頬張った
賢いワナビーはみんなやってる
一端の何者かに
生まれ変わってやり直せる
転生林檎
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞によると、主人公は輪廻転生を可能にする「転生林檎」が多く出回っている世界に生きているようです。
林檎といえば、アダムとイブの逸話から“誘惑”という花言葉を持つ植物です。
また、童話の白雪姫で出てくるのが毒林檎であることからも、魅惑的で危険なモチーフというイメージが伝わってきますね。
主人公は「平凡な自分が嫌」で「なんでもない生活が嫌」だと感じていて、変わりたいと願っています。
「ワナビー」とは何かになりたがっている人のこと。
売人を胡散臭く感じながらも、同じ境遇の人たちが「みんなやってる」ことに背中を押されて、転生林檎を使うことにしました。
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ある表現者になった
全世界で賞賛された
自分は特別で 他は凡人で
その才能に酔いしれた
だが 人を愛する才能はなく
愛する仲間は去っていった
あー また ダメでした
転生しよう
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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初めての転生で「全世界で称賛」される表現者になった主人公。
平凡だった人生から抜け出し「自分は特別」だと酔いしれていました。
しかし、表現者としての才能はあっても「人を愛する才能」はありません。
結果的に仲間を失ってしまい、また転生することに。
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ある発明家になった
世紀の大発明をした
世界が平和になりますように
本気で心から願った
だが 発明は兵器利用されて
残酷な血の雨が降った
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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今度は発明家の人生を歩み、「世紀の大発見」をした偉大な人物になります。
その発明は「世界が平和になりますように」という純粋な願いから生まれたものでしたが、「兵器利用」されて多くの人の命を奪う結果になってしまいました。
今回は愛を持っていたのに思い通りにならず、また転生林檎の力を使います。
何度繰り返してもうまくいかない
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才能がないからチェンジ
またリセット
頭悪いからチェンジ
またリセット
人生の攻略法
幸福の必勝法
見境ないね
「自分」が消えちゃったの?
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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この世界では、主人公を含め多くの人が「才能がない」「頭悪い」という理由で次々と「チェンジ またリセット」を繰り返しています。
それが「人生の攻略法」であり「幸福の必勝法」だと信じているようです。
それでも、そんな風に見境なく最高の人生を追い求める様子に「「自分」が消えちゃったの?」と疑問が投げかけられています。
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くりかえし くりかえし
生まれ変わり
山積みの亡骸の上でダンシング
リインカーネーション
リインカーネーションの悲痛な叫び
愛して 愛して 嫌
くりかえし くりかえし
生まれ変わり
きらめく
似たり寄ったりのストーリー
リインカーネーション
リインカーネーションの果ての
オーバーキル
どうして どうして
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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「山積みの亡骸」というフレーズは、転生を繰り返す中で捨ててきた人生のことを表しているのでしょう。
主人公の行為は、亡骸の上で踊っているかのように残酷なものと言えるかもしれません。
「リインカーネーション」とは、死者の魂が生まれ変わること。
つまり、転生を繰り返した結果、魂が悲鳴をあげている様子が表現されているのでしょう。
そんな苦しさを無視して行った転生はどれも「似たり寄ったりのストーリー」で、初めはうまくいっているように思えても、必ず絶望の瞬間が訪れました。
転生すればうまくいくと信じていた主人公は、散々な結果に焦りを感じ始めています。
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ある救世主になった
無償の愛を分け与えた
たくさんの人が慕い 尊敬し
老いも若きも頭下げた
だが 純粋すぎて悪に騙され
骨までしゃぶられてしまった
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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次の転生では、誰も傷つけないために救世主として無償の愛で人々に接し、子どもからお年寄りまで世代を問わず多くの人に慕われ尊敬される人になりました。
ところが、純粋すぎたせいで騙され「骨までしゃぶられて」何もかも失ってしまいます。
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ある革命家になった
変な綺麗事を嫌った
正直者が馬鹿を見る世界で
ルールを疑い戦った
だが 手に入れた力に溺れ
平和ごと燃やしてしまった
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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革命家の人生では、救世主の時の失敗を活かして「変な綺麗事を嫌った」人物になります。
「正直者が馬鹿を見る」理不尽な世界の在り方と真っ向から戦い、一時は成功したかに思えました。
しかし「手にした力に溺れ」、自分が一番願っていたはずの「平和ごと燃やして」しまう結果を迎えます。
転生の果てに見出す生きていくためのメッセージ
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人望がないからチェンジ
またリセット
大義がないからチェンジ
またリセット
快楽の奴隷
インテリの亡霊
異世界でも 現実はシャバかったよ
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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今度は「人望がない」、次は「大義がない」とまた転生を繰り返していきます。
時には何も気にせず快楽に溺れてみたり、頭を働かせて勉強や仕事に心血を注いでみたりしたのかもしれません。
それでも、たとえ異世界へと転生しても現実は大して変わらず、冴えない人生に飽き飽きしているようです。
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ある冒険者になった
理想を求めて旅立った
無謀な挑戦でも貫く姿勢に
人々は感動した
だが 理想を求めるがあまり
罪のない人が犠牲になった
あー あー またダメ?
どこへ向かうのだろう?
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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冒険者になった主人公は、自分の理想を求めて挑戦する姿勢で周囲を感動させます。
しかし、その行動の裏で「罪のない人が犠牲に」なっていました。
どんな人生を歩んでも、どんなにうまくやろうとしても失敗ばかりの自分は「どこ向かうのだろう?」と苦悩しています。
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ああ 転生が終わった
平凡な自分に戻った
悲しいけど なんだかホッとした
さあ 自分はどうしようか
シラフに戻ったら みんなやめてく
自分が自分であるために
ゴミ箱に捨てた
転生林檎
≪転生林檎 歌詞より抜粋≫
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そうしてついに転生が終わり、嫌っていた「平凡な自分」に戻ってきました。
もう他の何者にもなれないことに悲しさを感じつつも「なんだかホッとした」という言葉が主人公の本音です。
「シラフに戻ったらみんなやめてく」というのも、おそらく主人公と同じ気持ちになったからだと解釈できます。
人生の難しさや社会の闇に触れた結果、現実が一番マシだと気づいたのです。
転生林檎をゴミ箱に捨て、きっぱりと転生をやめた後は、誰もがきっと「自分が自分であるために」努力していくことでしょう。
確かに他人の人生と比べると、自分の人生は味気なく思えることがあるかもしれません。
しかし、自分の人生が良いものになるかどうかは、自分の行動次第です。
人を羨むのではなく、現実を受け止めて自分だけの人生を楽しんでいこうというメッセージが感じられますね。
音楽から力をもらって自分らしく生きよう
ピノキオピーの『転生林檎』は、飾らない言葉で自分らしくいることの大切さを教えてくれる楽曲です。MVのストーリーと重ねて見ると、歌詞のイメージがさらに深く伝わってくるでしょう。
憂鬱な気持ちの時や心が折れそうな時、きっともうひと踏ん張りするための力をもらえますよ。