「さよなら」の意味をもう一度
さよなら、と告げるのはわかっているからだ。2度と会えないことを、戻らないことを。
かりゆし58、6枚目のシングル『さよなら』も別れの楽曲である。日本テレビ「銭ゲバ」の主題歌でもあり、CDジャケットには今作で主演を務めた松山ケンイチ。蒲郡風太郎の格好で出ているので、初めて見た人は自分が睨まれているように感じるかもしれない。
タイトルを別れの言葉としているように、この楽曲には2つの別離を扱っている。1つは儀礼的な別れである卒業式、そしてもう1つは友との死別だ。PVでは、特に死別の意味合いが強く出ており見た後、誰かに連絡を取りたくなるような内容となっている。
しかし、そんな2度と会えない別れをテーマに入れながらもこの楽曲を聴いていると悲しみよりも強さを感じる。それは歯を食いしばって、前へ進むような力強さだ。
涙を流しながら、どうして人は笑ってまた生きていくことができるのか。その答えが、この歌詞の中にある。
かりゆし58『さよなら』
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さよなら ただただ愛しき日々よ
ずっと忘れないだろう 僕は君を
すり減った靴底 夕暮れの街 仰ぎ見た空 茜色
日に焼けた仲間の顔 甦る
≪さよなら 歌詞より抜粋≫
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出逢いがあれば別れがある。ありふれた言葉だが、友人であれ家族であれ生涯をともにする伴侶であってもずっと一緒にはいられない。
しかし、人というのは不思議な生き物で積み上げてきた時間に押しつぶされそうになりながらも、立ち止まることはない。どれだけ悲しくても時間が経てば、また笑えるようになっている。
ただ、それは忘れてしまったわけでも、別れを告げてあっさり一区切りをつけたわけでもない。生活をして働いて、生きるために悲しんでいる暇がないだけなのだ。
そう考えると、人が“さよなら”と言うのは生きるために必要な行為なのかもしれない。
進む時間が悲しい気持ちを忘れさせてくれるとはいえ、一時のことだけ。どんな形であれ、きちんとお別れができなければ心は納得してくれないのだ。
歌詞でも心で亡き人を想ってしまうと語り、自分の納得のいくまで別れの言葉を叫び続けている。
戻らない思い出も抱えて…
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さよなら ただただ愛しき日々よ
二度と戻らぬ日々よ「ありがとう」
さよなら ただただ愛しき日々よ
ずっと忘れないだろう 僕は君を
≪さよなら 歌詞より抜粋≫
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この楽曲を聴いていると別れを何度も言いながら、戻らない思い出に蓋をせず抱えて進んでいく姿が見える。
自身が納得するまで別離を悲しみ、周囲の視線を気にせずに別れを言い続けること。
それができるから、人はまた笑って生きていくことができるのだ。
TEXT 空屋まひろ