ヨルシカ・n-buna(ナブナ)のボカロPとしての人気曲に迫る
ロックバンド・ヨルシカのコンポーザーとしても人気のn-buna(ナブナ)がボカロPとして2015年にリリースした『メリュー』が、2022年7月より音楽ゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』で配信を開始し、再び注目を集めています。『メリュー』は同じくn-bunaの人気曲で、共に1stアルバムに収録されている『ウミユリ海底譚』で描かれていた少女の友達が主人公のようです。
『ウミユリ海底譚』の少女は自殺したと解釈できるので、大切な人を失ってしまった人の心情が綴られていると思われます。
さっそく歌詞の意味を詳しく考察していきましょう。
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夕陽が落ちる様に胸が染まるので
耳鳴りのような鼓動を隠して
バスに乗った僕は言う 君は灰になって征く
たとえばこんな言葉さえ失う言葉が僕に言えたら
≪メリュー 歌詞より抜粋≫
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まるで夕陽が落ちて景色が暗く染まっていくように、主人公の心は陰っているようです。
主人公はバスに乗り、ある人のことを考えています。
「君は灰になって征く」という歌詞から、やはり友達が亡くなっていることが読み取れますね。
この現実を覆せるような言葉が言えたらいいのにと、友達の死を深く悲しみ自身の無力さに苦しんでいる様子が伝わってきます。
耳鳴りのように響いて生きていることを実感させる鼓動の音を隠したいのも、亡くなった友達を想うからこそなのかもしれません。
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灯籠の咲く星の海に心臓を投げたのだ
もう声も出ないそれは僕じゃどうしようもなかったのだ
≪メリュー 歌詞より抜粋≫
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「灯籠の咲く星の海」という表現は、灯籠流しの景色を連想させます。
灯籠流しは死者の魂を弔うために、灯籠を川や海へ流す日本の伝統行事です。
海を漂う数多くの灯籠は、確かに夜空に浮かぶ星のようといえるでしょう。
そこへ「心臓を投げた」ということは、友達が自分で死を選んだことを意味しているのではないでしょうか。
「もう声も出ないそれ」も、おそらく亡くなった友達のことと思われます。
生きている間は何かできたかもしれないけれど、死んでしまってはどうしてあげることもできないと痛感し、ショックを受けているようです。
死んだふりの毎日を生きる
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悲しくもないし苦しくもないのに
辛いと思うだけ 辛いと思うだけ
≪メリュー 歌詞より抜粋≫
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友達を失って浮かぶ感情は、悲しさや苦しさではなく、辛さだけ。
しかし、その辛さの中に、様々な感情が詰まっているように感じます。
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古びたバス停の端傘を持った僕がいる
今でさえ埃を被った夜空の隅に足はつくのに
≪メリュー 歌詞より抜粋≫
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1番ではバスに乗っていましたが、ここでは「古びたバス停」にいます。
これはバスに乗らなくなって随分月日が経ち、その間にバス停が古びてしまったことを表しているのでしょう。
以前は友達と乗っていたから、彼女のことを思い出して乗れなくなっていたのかもしれません。
雨の中、久しぶりに思い出のバス停に佇んでいる姿が浮かんできます。
続く「今でさえ埃を被った夜空の隅に足はつくのに」というフレーズは解釈が難しい部分ですね。
まず夜空に足がつくことはないので、妄想か比喩表現と考えられます。
サビの灯籠が星に見えるという描写をふまえると、この「夜空」は海を表す比喩と推察できそうです。
この曲では海は死に繫がるものとして描かれているため、足をつけているのは主人公も死を選ぼうとしている状態を意味していると解釈できます。
今この瞬間も死にたいと思っていながらも、未練たらしくバス停に来てしまう自分の揺れる気持ちに悩んでいることが伝わってくるでしょう。
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心臓が痛いから死んだふりの毎日を見なよ
もういっそ死のうと思えたなら僕はこうじゃなかったのだ
≪メリュー 歌詞より抜粋≫
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思いとは裏腹に、生きようと必死に痛みを訴えてくる心臓。
だから「死んだふりの毎日」でぼんやりと日々を過ごしていきます。
「もういっそ死のうと思えたなら」、つまり死を決断できたらもっと楽になれるのにどうして僕は死ねないままなのかと、徐々にいら立ちが募っているようです。
タイトル「メリュー」の意味とは
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どうせ死ぬくせに辛いなんておかしいじゃないか
どうせ死ぬくせに辛いなんて
だから愛さえないこんな世界の色に僕の唄を混ぜて
もうどうかしたいと思うくせに僕はどうもしないままで
≪メリュー 歌詞より抜粋≫
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人はどうせいつか死んでしまうのに、なぜ辛いなんて感情を経験しなければいけないのかと苦悩しています。
「僕の唄」は主人公の感情そのものなのでしょう。
「愛さえないこんな世界の色」に色を混ぜるように、自分の感情を吐き出したいという気持ちが表されています。
しかし、今の状況や感情を「もうどうにかしたいと思うくせに」何も行動できないまま時間ばかりが過ぎていきます。
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あぁあ
灯籠の咲く星の海に心臓を投げたのだ
もう声も出ないから死んだふりなんてどうもなかったのに
僕もきっとこうで良かったのに
君がずっと遠く笑ったのだ
≪メリュー 歌詞より抜粋≫
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「灯籠の咲く星の海に心臓を投げたのだ」の歌詞は1番のサビと同じフレーズですが、ここではおそらく主人公自身のことが描かれているようです。
声を上げてもどうにもならないことに気づいて諦めていたから、死んだふりをしながら生きることなんてどうもなかったと語ります。
「僕もきっとこうで良かったのに」とあるように、死んだふりをして生きることを受け入れ始めていたのでしょう。
ところが「君がずっと遠く笑った」ことをきっかけに、死を決断したようです。
タイトルの「メリュー」という言葉は造語のようでどんな意味があるのか正確には不明ですが、音の響きから「Merry you」をもじったものと解釈できます。
「Merry」は「陽気・快活・楽しい」といった意味があり、歌詞の内容から同じ単語を使う「メリーバッドエンド」のことを指しているのではないかと考察できます。
メリーバッドエンドとは、第三者から見ればバッドエンドに思えるものの本人にとってはハッピーエンドという受け手の解釈が分かれる結末のことを指す和製英語です。
主人公は「君」が笑ったのを見て、バッドエンドだと思っていた結末が彼女にとってハッピーエンドだったことを知ったのでしょう。
だから安心し、彼女に近づくために死を選んだと考えられます。
「メリュー」とは主人公から見た亡くなった友達、そしてリスナーから見た主人公を表現した言葉なのかもしれません。
歌詞の世界観を繊細に表現したMVも要チェック!
人気ボカロ曲『メリュー』は切なくも人の感情に寄り添う美しい楽曲です。イラストを用いたオリジナルMVには、『ウミユリ海底譚』の少女を思わせるシルエットや灯籠をイメージするオレンジの光などが登場し、歌詞の世界観がより伝わる動画となっています。
機械っぽさの残る初音ミクの歌声と胸を打つ音楽、繊細なMVと合わせて歌詞をじっくり聴いてみてくださいね。