「サライの空」とはどんな空?
1992年にリリースされた『サライ』は、作詞を谷村新司、作曲を加山雄三が担当した平成の名曲です。
日テレ系特別番組『24時間テレビ』のフィナーレに出演者全員で合唱される曲としてもおなじみですよね。
実は『サライ』自体も番組内の企画で制作されたもので、全国の視聴者から集めた愛のメッセージをもとに作詞されました。
改めてどのような歌詞なのか、意味を考察していきましょう。
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遠い夢すてきれずに 故郷をすてた
穏やかな春の陽射しが ゆれる小さな駅舎
別離より悲しみより 憧憬はつよく
淋しさと背中合わせの ひとりきりの旅立ち
≪サライ 歌詞より抜粋≫
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1番では若い頃から持っていた夢を叶えるため、主人公が故郷を出て行く様子が描かれています。
どちらかを選ぶにはどちらかを捨てなくてはならず、やむなく故郷を捨てることにしたようです。
「穏やかな春の陽射しがゆれる小さな駅舎」というフレーズから、春の暖かな風景が目に浮かびます。
ふと頭を過るのは、残していく家族や友人たちのこと。
別れの悲しみは当然ありますが、それ以上に強い夢への憧れを無視することはできません。
一抹の寂しさを感じながらも旅立ちとは「淋しさと背中合わせ」なものだと受け入れ、旅立っていきます。
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動き始めた 汽車の窓辺を
流れゆく景色だけを じっと見ていた
サクラ吹雪の サライの空は
哀しい程青く澄んで 胸が震えた
≪サライ 歌詞より抜粋≫
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サビで主人公を乗せた汽車が走り始めます。
車窓から見えるのは「サクラ吹雪のサライの空」です。
タイトルの「サライ」とは、ペルシャ語で家や宿という意味があります。
家を故郷と捉えると「サライの空」は「故郷の空」を指していると考えることができるでしょう。
少しずつ遠くなっていく故郷の方を見ていると、青空に桜吹雪が舞っているのが見えます。
故郷で何度も見た景色を今は外から眺めて、懐かしい記憶が蘇ってきたことでしょう。
「哀しい程 青く澄んで胸が震えた」という言葉は、空の美しさに心の奥にしまおうと思った寂しさや不安が浮かんで、思わず涙があふれそうになった様子を表しているのかもしれません。
その一方で曇りなく澄み渡る空に背中を押され、必ず夢を叶えようと決意を新たにしたのではないでしょうか。
うまくいかない都会の生活
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恋をして恋に破れ 眠れずに過ごす
アパートの窓ガラス越しに 見てた夜空の星
この街で夢追うなら もう少し強く
ならなけりゃ時の流れに 負けてしまいそうで
≪サライ 歌詞より抜粋≫
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2番はすでに都会での生活にも慣れ始めた頃のようです。
恋をして失恋し、眠れなくなるほど心が弱っています。
アパートの窓ガラス越しに星を眺めながら、自分がこの街へ来たのはこんな風に過ごすためではなかったと思い直します。
時間は何もしていなくても、あっという間に過ぎていくものです。
気を抜くと時間の流れていく速さに圧倒されて、身動きが取れなくなることもあります。
だからこそ「この街で夢を追うならもう少し強くならなけりゃ」いけないと、主人公が自身を奮い立たせる姿が見えますね。
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動き始めた 朝の街角
人の群れに埋もれながら 空を見上げた
サクラ吹雪の サライの空へ
流れてゆく白い雲に 胸が震えた
≪サライ 歌詞より抜粋≫
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朝になり街は動き始め、主人公の慌ただしい一日が今日も始まります。
通勤ラッシュの人の群れに埋もれ窮屈さを感じながらふと空を見上げると、いつか見たような桜吹雪の舞う青空が目に飛び込んできます。
ゆったり流れていく白い雲は、故郷まで流れていくのでしょうか。
遠く離れていても空は繋がっていて、過去もまた今に繋がっています。
穏やかな景色に夢とあの日にした決意を再確認し、主人公はさらに励んでいくのでしょう。
いつかきっと帰るから
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離れれば離れる程 なおさらにつのる
この想い忘れられずに ひらく古いアルバム
若い日の父と母に 包まれて過ぎた
やわらなか日々の暮らしを なぞりながら生きる
≪サライ 歌詞より抜粋≫
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3番では故郷への想いが、さらに深まっている様子が窺えます。
故郷を出てからの生活が長くなればなるほど、恋しさが募っていきます。
古いアルバムに収められているのは、まだ若い両親と共に過ごした「やわらかな日々」。
心が温まるような思い出を幾度も思い返しながら、両親への感謝を胸に自分は生きていくのだと改めて決心している姿が感じられます。
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まぶたとじれば 浮かぶ景色が
迷いながらいつか帰る 愛の故郷
サクラ吹雪の サライの空へ
いつか帰るその時まで 夢はすてない
サクラ吹雪の サライの空へ
いつか帰る いつか帰る きっと帰るから
いつか帰る いつか帰る きっと帰るから
≪サライ 歌詞より抜粋≫
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まぶたを閉じればまるで目の前にあるかのように、鮮明に故郷の景色が浮かんできます。
「愛の故郷」という言葉は、主人公が故郷と家族を愛していて、故郷にいる家族も主人公を愛しているという互いの想いが込められていると解釈できるでしょう。
これからも人生に迷うことは多いはずですが決して諦めません。
いつか必ず夢を叶えたその時に、家族の元に帰ると決めているからです。
最後の「いつか帰る いつか帰る きっと帰るから」のフレーズは、きっと夢を諦めるなという自身への鼓舞と成長した姿を見せるという家族への約束なのでしょう。
故郷への愛を思い出させてくれる応援歌
谷村新司作詞の『サライ』は、季節の花の美しさや空の青さに感動を覚える日本人らしい歌詞で故郷への尊い想いが綴られていました。夢を追うことは素晴らしいことですが、どんな時にも自分を大切にしてくれる人や故郷の存在を忘れてはいけません。
本当に大切なのは心の豊かさだと教えてくれる世界に届けたい日本の応援歌です。