「カシオピア係留所」と漫画「チ。」
amazarashiの新曲『カシオピア係留所』は、往復書簡プロジェクト『共通言語』第二弾として書き下ろされました。往復書簡プロジェクトとは、漫画『チ。』とamazarashiとが、互いに相手のために制作した新たな作品を発表し、作品を通じて会話を交わすという新しい試みです。
『チ。』作者の魚豊はamazarashiの大ファン、そしてamazarashiの秋田ひろむも作品の愛読者だと公言しています。
お互いにとって、思い入れの強い作品に仕上がったのではないでしょうか。
『カシオピア係留所』の歌詞を考察しやすくするために、まずは漫画『チ。』のあらすじを簡単にご紹介します。
『チ。』は15世紀のヨーロッパのP王国を舞台に、地動説を研究する人々の生き様を描いた、アニメ化も決定している作品です。
P王国ではC教が中心となっており、地動説は協議に背く考え方とされていました。
地動説を研究していることが知られれば、処刑されてしまうという状況の中、命がけで真理を追求する姿が力強く描かれます。
今回は『チ。』のあらすじを踏まえた上で、『カシオピア係留所』の歌詞の意味を考察をしていきます。
漫画「チ。」の主人公たちの信念
『カシオピア係留所』の歌詞には、漫画『チ。』のストーリーを彷彿とさせるフレーズが散りばめられています。
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秘めた意志 急かす未知 受け取って手渡すこと
身を焦がした この好奇心が身を滅ぼすと
知ったとしても
消えたりしなくて どうせ灰になるなら いっそ書きとめて
深く沈める 冷たくなる 胸の奥の方 胸の奥の方
≪カシオピア係留所 歌詞より抜粋≫
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『チ。』のあらすじを踏まえて考察すると、「秘めた意志」という歌詞は、“宇宙の真理に辿り着いてみせる”という主人公たちの強い意志を表していると考えられます。
地動説を研究していることが知られれば、処刑されてしまう時代背景のため、どれだけ強い意志であっても、秘めておかなければなりません。
「急かす未知」という歌詞は、天動説が正しいと信じて疑わなかった自分の未知を知り、知識欲を駆り立てられる主人公たちを表現しているのではないでしょうか。
そして、先人たちの知識を受け取って研究を進め、得た知識を後世に遺す主人公たちの姿を、「受け取って手渡すこと」という歌詞で表していると考察できそうです。
『カシオピア係留所』の歌詞は、命がけで地動説を研究する人々の強い気持ちを、力強く表現していると言えるでしょう。
amazarashiの武器は痛みの堆積
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この世にあるほとんどのものが 成し遂げた奴らの血の跡としたら
この痛みだけは彼らと似ている
躊躇せず それを書き足せ その痛みは共通言語だ
≪カシオピア係留所 歌詞より抜粋≫
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この歌詞も『チ。』のあらすじを踏まえて解釈すると、「成し遂げた奴ら」という言葉は、命を懸けて地動説を証明した人たちを指していると考えられそうです。
地動説は今や誰もが知っている常識となっていますが、その常識も、地動説を証明するために血を流し、命を懸けた人々がいたから存在するのだというメッセージが、この歌詞には込められているのではないでしょうか。
「この痛みは彼らと似ている」という歌詞も気になります。
“その痛み”ではなく“この痛み”と表現しているため、この歌詞は『チ。』の主人公たちの痛みが主語ではなく、この歌詞を書いた秋田ひろむが抱える痛みを主語にしていると考察できそうです。
秋田ひろむは自分の抱える痛みと、『チ。』の主人公たちの痛みを重ねることで、『チ。』の物語に共鳴しようとしたのかもしれません。
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それはまだ空が語る以前の 願い達が残した書置き
痛みの堆積が歴史だ それが僕らの最初の武器
カシオピア係留所の灯りの下
≪カシオピア係留所 歌詞より抜粋≫
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「痛みの堆積が歴史だ それが僕らの最初の武器」という歌詞に着目してみましょう。
『チ。』の主人公たちの視点に立てば、処刑に怯えながら地動説に関する情報を集め、考え、記録し、後世に託していった軌跡は、まさに痛みの堆積だと言えます。
一人の研究者が処刑されても、研究が途絶えないよう、何人もの研修者たちがバトンをつないでいくこと、つまり痛みを重ねていくことが武器になります。
一方、“奴ら”でも“彼ら”でもなく、“僕ら”という言葉が使われている歌詞であることを考えると、作詞者である秋田ひろむの視点に立って考えることもできるでしょう。
秋田ひろむの痛みを伴う経験から生み出されたamazarashiの歌詞やメロディは、多くの人々の心を動かしています。
秋田ひろむもまた、痛みの堆積を武器にして、表現していると言えるでしょう。
『カシオピア係留所』の歌詞は、『チ。』の主人公たちの視点と、秋田ひろむの視点の両方から歌詞を読み解くと、より味わい深くなるかもしれませんね。
青森県在住の秋田ひろむを中心としたバンド。 日常に降りかかる悲しみや苦しみを雨に例え、僕らは雨曝だが「それでも」というところから名づけられたこのバンドは、「アンチニヒリズム」をコンセプトに掲げ、絶望の中から希望を見出す辛辣な詩世界を持ち、ライブではステージ前にスクリーンが張···