“シャンクスの娘”ウタが想いを叫ぶ劇中歌
2022年8月6日公開の映画『ONE PIECE FILM RED(ワンピース フィルム レッド)』でメインキャラクター・ウタの歌唱を担当するAdo。劇中では豪華アーティストたちから提供された楽曲を華麗に歌い上げ、リスナーを物語に引き込んでくれます。
その中の1曲としてマルチクリエイターのVaundyが作詞作曲したのが、疾走感あふれるロックナンバー『逆光』です。
人気歌手のウタが音楽を通して感情を爆発させるシーンで歌われる重要な楽曲で、Adoの力強い歌声とキャラクターの想いがリンクする魅力的な曲に仕上がっています。
どのような内容なのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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散々な思い出は悲しみを穿つほど
やるせない恨みはアイツのために
置いてきたのさ
あんたらわかっちゃないだろ
本当に傷む孤独を
今だけ箍外してきて
≪逆光 (ウタ from ONE PIECE FILM RED) 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭の歌詞から、主人公のウタは「アイツ」という人物に恨みを持っていることが窺えます。
まずウタというキャラクターは世界の歌姫であり、シャンクスの娘であることが公式サイトで明かされています。
しかしシャンクスの船には乗っておらず、海賊に対しても良いイメージを持っていない人物でもあるようです。
こうした点から「アイツ」は父シャンクスのことで、何らかの確執から恨みを抱いていると解釈できるでしょう。
「散々な思い出」や「やるせない恨み」といった表現から、幼少期に船から降ろされた時の寂しさや孤独感が伝わってくるようです。
彼女が「あんたら」と呼びかけるのは、おそらく父と同じ海賊を生業とする者たちです。
船の上で仲間たちと航海を楽しむ彼らには、一人残されて「本当に傷む孤独」がどういうものか分かるはずがないと恨めしく思っています。
分からないから必死で孤独に耐えてきた私の箍を、平気で外してしまえるのだと怒りを露わにする様子も見て取れます。
音楽に乗せて歌う今この瞬間だけは、自分の積年の想いを正直に吐き出そうとするウタの苦しみや荒ぶる感情が垣間見えますね。
この怒りは愛ある罰だ
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怒りよ今
悪党ぶっ飛ばして
そりゃあ愛ある罰だ
もう眠くはないや
ないやないや
もう悲しくないさ
ないさ
そう
怒りよ今
悪党蹴り飛ばして
そりゃあ愛への罰だ
もう眠くはないな
ないなないな
もう寂しくないさ
ないさ
≪逆光 (ウタ from ONE PIECE FILM RED) 歌詞より抜粋≫
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心の中で育った怒りで海賊たち、特に自身を置き去りにした赤髪海賊団という「悪党」をぶっ飛ばしたいと叫ぶウタ。
しかしそれは「愛ある罰だ」という言葉の通り、愛しているから湧き上がる怒りの気持ちゆえです。
愛していたからこそ自分だけ取り残されたことがつらく悲しく感じたのです。
そして今も愛しているので、海賊なんてやめて自分の元に帰ってきてほしいと願っているのでしょう。
後半部分では「愛への罰だ」というフレーズも登場します。
もしかしたら本当はウタ自身も、自分が船から降ろされたのは父親としての愛から娘を守るための行動だったと分かっているのかもしれません。
それでも、愛しているならむしろ近くで守ってほしかったと伝えたいのでしょう。
今はもう眠いばかりの子どもではないから、あの頃抱いていた悲しみや寂しさは払拭しています。
父親へ自身の成長を訴えかける言葉が心に刺さります。
タイトル「逆光」に込めた想いとは
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逆光よ
惨憺たる結末は美しさを纏うほど
限りなく、体温に近い
「赤」に彩られていた
散漫な視界でも美しさがわかるほど
焼き付ける光を背に受ける
「赤」に気を取られている
≪逆光 (ウタ from ONE PIECE FILM RED) 歌詞より抜粋≫
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タイトルでもある「逆光」は、自身の背後で光り輝く父シャンクスの存在を表していると解釈できそうです。
父親の威光により、どれだけ有名になっても“シャンクスの娘”というレッテルがついて回ります。
自分の存在が暗く影になってしまうように感じるのも無理はないでしょう。
続く「惨憺たる結末」というフレーズから、ウタの能力によって耐えがたい悲劇が起こったことが分かります。
「限りなく、体温に近い「赤」に彩られていた」とあるので、血に染まる惨劇であることも読み取れますね。
自分の歌で世界を幸せにしたいと願っていたのに、その自分が原因で大きな争いを生んでしまったことに苦しみ、葛藤している姿が想像できます。
「赤」と言えばシャンクスの赤髪を連想する色でもあります。
恨みと怒りからどんなに遠ざけたいと思っていても、自分はどこまでもシャンクスの存在に囚われているのだと痛感している様子が伝わってくるでしょう。
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もつれてしまった心は
解っている今でも
ほつれてしまった。
言葉が焦っている。
≪逆光 (ウタ from ONE PIECE FILM RED) 歌詞より抜粋≫
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自分の目指す理想とうまくいかない現実に「もつれてしまった心」を抱え、ウタは苦悩します。
「言葉が焦っている」のも、どうにかしなくてはと心が逸るからでしょう。
言葉と歌声で表現する立場なのにもどかしさばかりが募っていきます。
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逆光よ
もう、怒り願った言葉は
崩れ、へたってしまったが
今でも未練たらしくしている。
あぁ、何度も放った言葉が
届き、解っているのなら
なんて、夢見が苦しいから
≪逆光 (ウタ from ONE PIECE FILM RED) 歌詞より抜粋≫
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一緒に連れて行ってほしい、自分の元に帰ってきてほしいというシャンクスへの願いは時が経つにつれて少しずつ薄らいでいきました。
それでも「今でも未練たらしく」心の隅で願い続け、その想いが届くようにと歌い続けています。
もし届いているなら早く迎えに来てと求めながらも、期待しすぎるとつらいからひたすら歌うことだけに集中しているようにも思えます。
姿は見えずとも強く光り続ける父親への愛と願いが、どんな結末を迎えるのか気になりますね。
映画のストーリーを彩る劇中歌に注目
『逆光』は作品のストーリーをなぞりながら、キャラクターの抱える想いを巧みに表現しています。Adoの歌声を生かして制作したVaundyの音楽センスも光り、Adoにこそふさわしい心揺さぶる楽曲になっていますよね。
色彩豊かな『ONE PIECE』の世界観に花を添える劇中歌の数々にぜひ注目してください!