ゾンビになった女の子の熱烈ラブソング
様々な形の愛を表現する巧みな作詞で人気のボカロP・DECO*27の新曲『ゾンビ』が、2022年7月29日に配信リリースされました。コーラスにはホロライブインドネシア2期生の“ゾンビVtuber”Kureiji Ollieが参加し、初音ミクの歌唱を盛り上げています。
この楽曲はタイトルにもある通り、ゾンビになった女の子が主人公。
ゾンビと愛がどのように交わるのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
わっはー We’re ゾンビゾンビ
「死にたい死にたい」って死んでるじゃん
なのに「会いたい会いたい」が消えないじゃん
いつだって痛いの痛いの飛んでいかないの なんでなんで
寂しさだけ残っちゃってるんだ
≪ゾンビ 歌詞より抜粋≫
----------------
歌詞は「わっはー We’reゾンビゾンビ」と明るいテンションで始まります。
生前は口癖のように気軽に「死にたい死にたい」と言っていた主人公は、本当に死んでゾンビとなってしまいました。
死んでいるのにゾンビとして現実世界に存在しているため、愛する人に会いたいと切実に願う気持ちが消えないまま心の中を占めています。
もう物理的な痛みを感じることはないのに、大切な彼と会えない寂しさという心の痛みをはっきりと感じています。
主人公の愛情の深さが垣間見えますね。
----------------
傷を縫って 蜜を塗って 何度だって 恋をするコーデ
傷擦って 蜜を吸って 何度だって 恋がしたい
あたしなっちゃってるの
あいらびゅー 腐りかけもいいね
きみもなっちゃえば?
あいらびゅー ふたりだけのシークレット
≪ゾンビ 歌詞より抜粋≫
----------------
MVで描かれている主人公のように、ゾンビといえば皮膚が継ぎ接ぎになっているイメージがあるでしょう。
この前半の歌詞からは、死んでもなお愛する人の元に向かうために傷を縫い、デートでおめかしするかのようにゾンビとして装いを新たにしていく姿が想像できます。
人間だった頃の自分とは明らかに変わってしまったものの「何度だって恋がしたい」という想いに従って、彼のためにかわいくあろうとするところが健気です。
主人公は「あたしなっちゃってるの」、だからいっそ「きみもなっちゃえば?」と一緒にゾンビになれたらいいと考えます。
ゾンビになったことで永遠に愛し合えるようになったことに気づき「腐りかけもいいね」とゾンビとしての生活を魅力的に感じ始めているようです。
永遠の愛のためにゾンビになるという選択は、あまり倫理的とはいえないかもしれません。
だから「ふたりだけのシークレット」として、秘密の恋を続けようと誘います。
ゾンビになっても変わらない愛
----------------
わっはー We’re ゾンビゾンビ
ドッキドキがもう聞こえない
わっはー We’re ゾンビゾンビ
ぎゅっとしても冷たいまま
なっちゃったんじゃしょうがないね
≪ゾンビ 歌詞より抜粋≫
----------------
今や鼓動が止まっている主人公は、愛する人と一緒にいる時に感じていた胸の高鳴りをもう実感することはできません。
抱き締められても体温が上がることはなく、何も感じていないかのように冷たいままです。
とはいえ変化を嘆くのではなく「なっちゃったんじゃしょうがないね」と現状を受け入れていることも分かります。
それは愛する人のそばにいられるならそれで十分だと、思っているからなのかもしれませんね。
----------------
もう撫でられても痒くないよ
もう噛み付いても美味くないよ
嫉妬吐き出しちゃうジャックポット
縫い目はデマ それ以上覗かないで
≪ゾンビ 歌詞より抜粋≫
----------------
「もう撫でられても痒くないよ」という歌詞から、以前の主人公は彼に撫でられるとむず痒くて嫌がっていたと解釈できます。
しかし、今は何とも思わないから好きなだけ撫でていいと伝えているようです。
人間の正常な感覚を失ってしまった一方で、今まで苦手だったことが受け入れられるようになったことは、複雑ではあるものの彼女にとっては利点なのかもしれません。
続く「ジャックポット」というフレーズは、スロットマシンなどのギャンブルで大当たりすることを表す言葉です。
おそらく大当たりしたスロットマシンからコインがあふれ出すような勢いで、嫉妬心が湧き出てくることを表現しているのでしょう。
ゾンビになっても心は変わらずきちんと機能していて、同じ人間として彼の近くにいられる女性たちに嫉妬しているのです。
「縫い目はデマ」とはどういう意味でしょうか?
MVの主人公を見ると、頬の縫い目に赤い糸が使われていることが分かります。
もしかしたらまだ彼にゾンビになったことを打ち明けられずにいて、少しでも人間らしく見えるように赤い糸を使って誤魔化していることを表しているのかもしれません。
頬の赤みは偽物なので、意図的なデマと言えます。
彼女はゾンビになったことを明るく受け入れているようではありますが、彼とは違う存在になってしまったことへの戸惑いや不安も少なからずあるのでしょう。
ゾンビになった自分を彼が、変わらず愛してくれるとは限りません。
あまりじっくり覗くとバレてしまうから、関係が壊れるくらいなら事実を暴いてほしくないと思っているのではないでしょうか。
MVに隠された彼の想いとは
----------------
ふたりなっちゃえば
あいらびゅー 死なないからいいじゃん
愛し合っちゃえば
あいらびゅー きみ以外はないね
≪ゾンビ 歌詞より抜粋≫
----------------
愛し合うカップルにとって、死による別れほどつらく恐ろしいものはないでしょう。
しかし、ゾンビになればすでに死んでしまっているので、死を恐れる必要はありません。
何の障害もなく、ただ愛し合うことができるのです。
そうまで考えるのも、こんなにも愛する人は「きみ以外はない」と確信しているから。
やはりふたりでゾンビになることが、最善策のように思えます。
MVでは間奏部分で英語の字幕が出てきますが、これは主人公の恋人の日記のようです。
その内容は人間をゾンビに変えてしまう巨大キノコが現れたことから始まり、彼女がゾンビになったと知ってからのことも綴られています。
何とか彼女を救いたいのに治療法は見つからず、自分もゾンビになればずっと一緒にいられるのではないかという文面の後、文字列は読めなくなってしまいます。
実際に彼もゾンビになることを選んだ、と解釈できるでしょう。
主人公の一方的な想いではなく、彼の方も彼女のためにゾンビになる道を選びました。
歪んでいるようでいて、真っ直ぐで純粋なふたりの愛が魅力的に映りますね。
DECO*27らしい斬新なラブソングに注目
DECO*27の『ゾンビ』は、究極の愛をポップに描いた中毒性の高いボカロ曲です。たとえゾンビになってでも愛を貫きたいと思える人がいるということは、とても素敵なことと言えるでしょう。
歌詞・メロディ・MVの全てでリスナーの心を掴むDECO*27の新曲に、きっと虜になりますよ!