「泥の分際」とはどういう意味?
人気音楽ユニット・ツユが2020年8月に配信リリースした『泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて』。2021年発売のツユ2周年記念2ndフルアルバム『貴方を不幸に誘いますね』にも収録されたヒット曲です。
恋愛と嫉妬という共感性の高いテーマを独特の世界観と高いワードセンスで描いた歌詞が注目され、のちに小説化も果たしました。
MVを見ると主人公は天使の女の子であり、ある男女と三角関係にあると考察できそうですね。
どんなストーリーなのか、歌詞の意味を徹底解説していきましょう。
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ごめんなさい ごめんなさい
その一言すら脳裏には無くて
消えてよ 消えてよ
今すぐにそこから去ってしまってよ
何時だって私だけの特権だと
疑ったこと無いから
≪泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて 歌詞より抜粋≫
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冒頭から「ごめんなさい」という謝罪の言葉から始まり、何だか不穏な雰囲気です。
「その一言すら脳裏には無くて」と続いているため、主人公が本当は謝罪するべきなのにできていない状態にあることが読み取れます。
もしかしたら好きな男性と、意見の食い違いなどで喧嘩になってしまったのかもしれません。
少し気の強い主人公は素直に謝ることができない性格で、自分が謝罪するということ自体が頭にないようです。
その代わり「消えてよ 今すぐにそこから去ってしまってよ」という否定的な言葉が頭の中を占めています。
これは好きな男性相手ではなく、その隣にいる女性に対する気持ちです。
同じ天使の彼の隣にいることは「何時だって私だけの特権だと疑ったこと無いから」と、恋のライバルに強気に立ち向かっています。
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泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて
だって地面の上這って見上げることしか能が無いくせに
この翼の美しさには敵わないのだから
何も怖れてないのよ 何も怖れてないのに
痛い 痛い 痛い 痛いのよ
気のせいだ 気のせいだ 気のせいだ
≪泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞にはタイトルの「泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて」 というインパクトのあるフレーズが登場します。
この明らかな侮辱の言葉は当然ライバルに向けられています。
「泥の分際」のフレーズには様々な解釈が挙げられていますが、おそらく旧約聖書の人間が泥から作られたという考えが基になっているのでしょう。
つまり、相手の女性は人間であることを示しているということです。
たかが泥から生まれ「地面の上を這って見上げることしか能が無い」人間のくせに、天使である私だけの大切な人を奪おうとするなんて身の程知らずだと訴えていると解釈できます。
彼女が「翼の美しさ」を誇るのは、その汚れなき純白の翼が崇高な天使だけに与えられるものだからなのでしょう。
神に近しい存在である天使は天使同士で愛し合うべきであり、人間が近づいていい相手ではないという考えが見えてきます。
ところが「何も恐れてない」と言いながらも、愛する彼が奪われてしまいそうな不安に心の痛みを感じています。
それでも何とか「気のせいだ」と繰り返し、現実を誤魔化して気力を保とうとしているようです。
そうだ全部彼奴のせいだ
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あぁ 無口になって 目も合わせなくなって
それで気づいてよって 鈍感な貴方に酔って
距離を取ることだって 逆に甘えてみたって
全然伝わることなくて 絶対嫌われたくはないの
強く酷く期待して想えば想う程に荒立って
そうだ全部彼奴のせいだって
≪泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて 歌詞より抜粋≫
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失恋の危機に面しても素直になれない主人公は、そもそも彼に想いを伝えられているわけではないのでしょう。
いつも一緒にいるから、私はこんなにも美しい翼を持っているから、と自分から彼に想いを告げることなく愛されている気になっていたのでしょう。
だから彼が人間の女性と距離を縮めていることへの不満を、無口になり目も合わせなくすることで彼に気づいてもらおうとしているのだと思われます。
しかし彼は鈍感で、距離を取ってみても甘えてみても彼女の気持ちは伝わらないままです。
強気なように見えて、彼女が彼に正直に話せないのは全て「絶対に嫌われたくないの」という臆病な心が原因なのかもしれません。
誰かを愛すれば同じ想いを返してもらえることを期待するものです。
とはいえ彼の心が自分にないことを薄々感じているため、愛すれば愛するほど嫉妬の気持ちばかりが膨らんでいきます。
そして自分が想いを告げられないことは棚に上げて、「そうだ全部彼奴のせいだ」とライバルを攻撃します。
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泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて
だって期限付きの生を有り難がるしか能が無いくせに
この翼は永遠の先まで果てることないから
何も怖れてないのよ 何も怖れてないのに
痛い 痛い 痛い 痛いのよ
気のせいだ 気のせいだ 気のせいだ
強く甘く期待して笑えば笑うほどに苛立って
そうだ全部彼奴のせいだって
≪泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて 歌詞より抜粋≫
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人間には寿命があり、数十年という短い「期限付きの人生を有り難がる」の存在です。
一方で天使は永遠に存在するため、ずっと彼と一緒にいられる特権を持っています。
だから何も恐れる必要はないはずなのに、彼女は不安で堪りません。
彼の想いに期待しては、人間の女性と笑い合う彼に絶望して苛立ちが募っていきます。
もう「ごめんなさい」すら届かない
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泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて
だって地面の上這って汚らわしいのに可愛がんないでよ
見て私を 貴方が褒めてくれたこの翼を
綺麗でしょ
≪泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて 歌詞より抜粋≫
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ここからはライバルの女性ではなく、愛する彼への不満が綴られています。
空を舞う美しい天使の彼女から見れば、人間は「地面の上這って汚らわしい」生き物です。
彼も天使なのだから同じ考えだろうと思っていたのに、嫌うどころか可愛がっているから余計に不満なのでしょう。
それで自分に目を向けてほしいと思います。
彼女が翼に固執するのは、ほかでもなく彼が褒めてくれたからだったようです。
しかし褒められた外見だけを大切にし、自分自身の内面を磨こうとしなかったことが命運を分けたと言えます。
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泥の分際が選ばれて私が追放だなんて
絶対に貴方のせいよ 何かの間違いなんだ こんなのはね
「ごめんなさい」すらも届かないほどの速さで堕ちてく
本当に愛してる 私だけの貴方を
未練 未練 未練 未練しか
残らないこんな結末を
反逆者として背負ってくんだね
≪泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて 歌詞より抜粋≫
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遂には人間の女性が彼に選ばれ、嫉妬に駆られた主人公は天から追放されてしまいました。
歌詞には描かれていませんが、彼と人間を引き離すために画策したり行動したりしていたのかもしれません。
ところが失敗に終わり、追放処分となってしまいました。
こうなったのは「絶対に貴方のせいよ」と、今度は自分を愛さなかった彼に責任転嫁しています。
そして自分の間違いを認められず「何かの間違いなんだ」と考えます。
堕天使となった彼女では、今更浮かんだ「ごめんなさい」の言葉すらもう届けることはできません。
「本当に愛してる 私だけの貴方を」と、やっと言葉にできた正直な気持ちも伝わらないのです。
もっと早くどちらかでも伝えられていたなら、結果は変わっていた可能性があります。
しかし、これからは天使でありながら嫉妬のために神に反逆した「反逆者」として、多くの未練を抱えながら生きていくことになります。
ずっと求めていた彼の愛を得ることもできず、むしろ彼と二度と会うことができない場所へと堕とされた主人公の結末があまりに切ないですね。
ツユならではのダークな世界観を堪能しよう
ツユの『泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて』は、愛と嫉妬に狂った女性の末路を天使という崇高なモチーフを用いて描写する巧みな歌詞に引き込まれます。大切なものがあるなら正直にならなければ失ってしまうというメッセージは、素直になれない人たちの心に刺さるのではないでしょうか。
ぜひMVや小説に触れて、さらに楽曲の世界観を探ってみてくださいね。