MVの数字に隠されたユニークな演出とは
幅広いジャンルの楽曲を制作するボカロPとして根強い人気を誇るジミーサムPが、2010年にリリースしたボカロ曲『Calc.(読み方:カルク)』。
MOER2周年記念コンピレーションCD『MOER feat.初音ミク -2nd anniversary-』の収録曲として提供された楽曲で、2022年9月16日より「プロセカ」こと『プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク』のリズムゲーム楽曲として追加され再び注目を集めています。
『Calc.』はジミーサムP自身の失恋をテーマにしており、過去作の『from Y to Y』『Pierrot』と合わせて“Yさん三部作”と呼ばれています。
MVで映し出されている数字とアルファベットはShift-JISコードで表記されていて、2文字で半角文字、4文字で全角文字を表すことができます。
解読するとYさんに未練の残るジミーサムPに対して、初音ミクが「Yさんのことはもう忘れた方がいいと思います」、巡音ルカが「相変わらず未練がましいな」、寒音ジミが「諦めが悪いよ」とそれぞれ鋭いツッコミを入れる構図が見えてきて、とてもユニークです。
では楽曲はどんな内容なのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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すれ違いは結局運命で 全ては筋書き通りだって
悲しみを紛らわせるほど 僕は強くないから
弾き出した答えの全てが 一つ二つ犠牲を伴って
また一歩踏み出す勇気を奪い取ってゆく
≪Calc. 歌詞より抜粋≫
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タイトルの「Calc.」とはcalculateの略で、「計算された・意図的な」という意味を持つ言葉です。
これは出会いも別れも全ては運命によって定められたことだという考えを表しています。
そう考えれば、失恋の痛みも運命だから仕方ないと割り切ることができる人もいるでしょう。
しかし、この主人公はそのようにして「悲しみを紛らわせるほど僕は強くない」と沈む気持ちを吐露しています。
主人公は恋人と何かのきっかけですれ違うようになり、結局二人が「弾き出した答え」は別れでした。
ただその別れは「一つ二つ犠牲を伴って」主人公を傷つけ、「また一歩踏み出す勇気を奪い取って」しまっています。
その失恋した時の苦しさや切なさに共感を覚えるのではないでしょうか。
まだ次の恋には進めない
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巡り会いも結局運命で 全ては筋書き通りだって
都合良く考えられたら 寂しくはないのかな
弾き出した答えの全てが 一つ二つ矛盾を伴って
向こう側へと続く道を消し去って行く
≪Calc. 歌詞より抜粋≫
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別れだけでなく「巡り会い」も誰かの筋書き通りにやってくるのだとしたら、ひとつの失恋で思い悩む必要はないのかもしれません。
それでも主人公の心は繊細ですぐに次の恋へと向かう気持ちにはなれず、別れた恋人を想って寂しさを抱えています。
関係を続けていくことはできないと感じて別れを決めたのに、まだその人を好きなままだという矛盾した気持ちに心が揺れている様子が垣間見えますね。
その気持ちが次の恋という「向こう側へ続く道」に自身を進めなくしています。
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いつか君に捧げた歌 今じゃ哀しいだけの愛の歌
風に吹かれ飛んでゆけ 僕らが出会えたあの夏の日まで
≪Calc. 歌詞より抜粋≫
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幸せだった時に「君に捧げた歌」が、別れた今となっては二人の幸せな瞬間を思い出して余計に哀しみを募らせる「哀しいだけの愛の歌」になってしまいました。
できることなら幸せの始まりである「僕らが出会えたあの夏の日まで」戻りたいと願います。
とはいえ「風に吹かれ飛んでゆけ」のフレーズから、願いが叶わない現実への投げやりな気持ちが表れているように思えます。
今度はちゃんと愛せるかな
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過去も未来も無くなれば 僕も自由に飛び立てるかな
感情一つ消せるのなら 「好き」を消せば楽になれるかな
≪Calc. 歌詞より抜粋≫
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幸せだった過去を思い返すと、今の自分自身が惨めに思えてくるのでしょう。
しかも過去に囚われている今の状況では、どうなるか分からない未来のことを考えるのさえ恐ろしくなってきます。
だからいっそ「過去も未来も無くなれば僕も自由に飛び立てるかな」と考えてしまうのです。
「感情一つ消せるのなら「好き」を消せば楽になれるかな」のフレーズは、主人公の傷の深さを示しています。
そもそも「好き」という感情がなければ恋に振り回されることはなくなり、もっと気楽に生きられるのではないかと考えているようです。
しかし感情をなくすことはできませんし、もしできたとしても「好き」の感情がなくなってしまうとそれまで恋を通して感じていた楽しさや幸せはもう二度と得られなくなってしまいます。
冷静であれば、そんな味気ない人生を送りたくはないと思うはずですが、失恋に打ちのめされている主人公は負のループに陥っています。
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君の耳を、目を、心を 通り抜けたモノ全てを
いつか知ることが出来たら 次はちゃんと君を愛せるかな
≪Calc. 歌詞より抜粋≫
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最後の部分で、改めて別れの原因について考え後悔をにじませている様子が見えてくるでしょう。
あの時君は僕の言葉をどう聞き、僕のことをどんな風に見て何を考えていたのか。
そうした見過ごしてきたものをきちんと知ることができていたら、すれ違うことはなかったのかもしれません。
この別れはきっと運命でもう一度巡り合うことはないけれど、もしまた出会えたとしたら今度こそちゃんと愛したいと思っています。
あるいはこれから巡り会う別の「君」には同じ失敗をしたくないという気持ちであるとも解釈できます。
今はまだ「愛せるかな」と不安げな主人公の姿から、恋の難しさが伝わってきますね。
音楽で失恋のつらさを昇華しよう
ジミーサムPは音楽に思いを投影し『Calc.』を制作することで、未練の残る自身の恋心を昇華させたかったのでしょう。そしてリスナーも、曲の主人公に自分を重ね軽快なバンドサウンドに耳を傾けることでつらい気持ちが慰められるはず。
失恋した時や人間関係がうまくいかない時に聴きたい色褪せない名曲です。