菅田将暉出演のMVが話題の新曲の意味に迫る
作詞作曲からデザインや映像までセルフプロデュースするマルチアーティスト・Vaundy(バウンディ)が、2022年9月9日に日本武道館で行われたワンマンライブの最後に披露した新曲『mabataki』を配信リリースしました。16thシングルとして発表されたこの楽曲は、どこか懐かしさを感じる心地いいテンポ感のサウンドと切なくもパワーを感じる歌声が魅力的です。
さらにMVには菅田将暉が出演しており、一本道をひたすら歩く様子をワンカットで撮影したシンプルな映像ながら、表情や仕草の繊細な演技に引き込まれます。
どんなメッセージが込められているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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もし何も
忘れられない世界で
出会い会ってしまったら
憎み合うのはやめるだろうか
もし何も
覚えられない世界で
すれ違ってしまったら
振り向き合うようになるだろうか
なんて
≪mabataki 歌詞より抜粋≫
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曲中で繰り返し歌われるこのサビの歌詞は、主人公が自問する形式で綴られています。
人の記憶は儚いもので、自分の行いや嫌なことを都合よく忘れてしまう傾向にあります。
ではこれが「もし何も忘れられない世界」なら、できるだけ苦しさや悲しさを感じないように人と憎しみ合うのをやめるのでしょうか。
また反対に「もし何も覚えられない世界」なら、大切な人とすれ違わないように人と真摯に向き合うようになるのだろうかとも考えます。
どちらの状況でも、今よりも人間関係を大切にしようとするのかもしれませんし、人が変わらないのだから結局今と同じなのかもしれません。
あれこれ考えてみてもどうせそんな風に世界が変わることはないと分かっているから、主人公は「なんて」ともどかしさを誤魔化すように付け加えています。
どこにも見えない敵を攻撃する人々
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どこにも見えない敵を今
そこにあてがい
人々は考えることをやめていた。
薄れてく希望は
徐々に蝕み
弾倉の中に願いを込め始めた人々は
また泣き出してしまう
≪mabataki 歌詞より抜粋≫
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主人公が世界の在り方について考えているのは、今見ている現実に胸を痛めているからでしょう。
ネット社会の現代では匿名で世界中の人と繋がれて、何でも自由に発信できる時代です。
しかし、その分ネット上で不特定多数の人からの誹謗中傷を受け苦しんでいる人たちもいます。
匿名だからと気が大きくなって普段は口にしないような辛辣な言葉を書き込んだり、行き過ぎた正義感から人を過剰に糾弾したりする様子を、誰もが目にしてきたのではないでしょうか。
それは人々が「どこにも見えない敵」を攻撃することにより、自分が直面している問題について「考えるのをやめて」現実逃避した結果だと言えます。
様々な問題にぶつかり助けを得られず苦しむ毎日の中で人々の希望はどんどん薄れてしまい、悔しさや恨みといった悪感情に心が蝕まれています。
そんな思いをどうにかしたくて、どこかの誰かを傷つけることで自分の憂さを晴らすのです。
世界で起きている戦争も、適切な解決策を考えず争いによって解決しようとしているために生じていることです。
ところが争いが生むのは悲しみだけで、問題をさらに深刻なものにしています。
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足並みを揃え始めた
疑いは罵倒となり
人を食べた。
薄れてく心は
徐々に蝕み
透明な刃に嫉みを込め始めた人々は
まだ泣き止まずにいる
≪mabataki 歌詞より抜粋≫
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人々の心の中で足並みを揃えるように宿った疑いの気持ちは、やがて罵倒の形で激しさを伴って発せられ心を飲み込んでしまいました。
そして自分自身の心さえ薄れていき、大勢の意見に流されています。
「透明な刃」とは人を傷つける言葉のことと解釈できます。
発する言葉は目には見えませんが、確実に鋭く尖っていて相手の心を深く傷つけてしまうものです。
しかもそこに「嫉みを込め始めた」ということは、はっきりと悪意を持って言葉で人を傷つけている人が多くいるということを示しています。
それでも悲しみは拭えず、問題を解決することもできていません。
この世界だからこそできること
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纏う悲しみが今
また人を傷つけてしまう
もう僕が先に銃を捨てよう
≪mabataki 歌詞より抜粋≫
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人々は自身の纏う悲しみから他者を傷つけ、傷つけられた人がまた別の誰かを傷つけるという負のループに陥っています。
主人公はそのループを断ち切りたくて、先に自身の銃を捨て争うことをやめようと決意します。
武器は攻撃するためのものであると同時に、自分の身を守るものです。
攻撃の手段を失えば、理不尽な攻撃にただ傷つけられることを許してしまうことになります。
それでも誰かが武器を手放さなければ、争いをやめるきっかけを作ることもできません。
だから主人公は自分の覚悟によって人々の意識を変えようとしているのです。
一人一人が同じ思いを持って武器を捨てるなら、争いは自然となくなっていくはずです。
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もし誰も
見つめ合えない世界で
出会い会ってしまったら
手を握って話すだろうか
もし僕ら
明日が最後としたら
憎み合うのはやめるだろうか
思い合うようになるだろうか
≪mabataki 歌詞より抜粋≫
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「もし誰も見つめ合えない世界」だとしても、代わりに手を握って話すことはないでしょう。
しかしこの世界では見つめ合うことも手を握ることもできます。
人々が目を合わせ手を取り合ってきちんと言葉を交わすなら、争う必要はなくなるのではないでしょうか。
また「明日が最後」だと分かっていたら、思い合うまでにはならないとしてもできるだけ穏やかな気持ちで最後を迎えたいと願うはずです。
人生はいつ終わりが来るか分からないので、人を憎むよりも思い合うために時間を使う方が有意義です。
もちろんそうしたくても実践するのは簡単なことではありませんが、自身に問い続けることで変わることがきっとあります。
平和と幸せを願う純粋な思いが感じられますね。
タイトルに込められた希望が世界を明るくする
『mabataki』のMVには「その時は、いつも瞬く一瞬なのだ」というコメントがついています。それでこの「mabataki」というタイトルには、人生は瞬く一瞬で変化してしまうものだからその一瞬一瞬を大切に生きていこうというVaundyからのメッセージが込められていると解釈できそうです。
傷つけ合ってしまう悲しい世の中に希望の光を灯すような歌詞に注目しながら、楽曲をじっくり聴いてみてください。