ずっと真夜中でいいのに。が映画「雨を告げる漂流団地」主題歌を担当
スタジオコロリドが手がける長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』。その主題歌として書き下ろされた曲が、「ずっと真夜中でいいのに。」の新曲『消えてしまいそうです』です。
2022年9月9日より配信リリースされました。
映画『雨を告げる漂流団地』は、取り壊しの進む通称“おばけ団地”に入り込み、不思議な現象によって団地ごと海を漂流することになった小学6年生の少年少女たちが繰り広げる、ひと夏の別れの旅を描いた作品です。
主題歌を制作するにあたり、作詞作曲とボーカルを務めるACAねは、石田祐康監督から物語としての想いやヒントを得たそう。
映画の世界観とキャラクターの心情にリンクする、ドラマティックでエモーショナルな楽曲に仕上がっています。
それではさっそく、ずとまよのアニメ作品初タイアップ曲となる『消えてしまいそうです』の歌詞の意味を考察していきましょう。
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助けたい表面 寂しさが少年
始めからここに浸ってしまうから
片手間だって わかったから
痒いもんね 体育座り本音
畳の香ばしい匂いが痛くする
もう ひとけのない部屋
≪消えてしまいそうです 歌詞より抜粋≫
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『消えてしまいそうです』の主人公は映画と同じく「少年」であることが分かります。
彼はある人を「助けたい」と思いながらも「寂しさ」も抱えているのを感じて、まだ自分が弱い子どもであることに気落ちしているようです。
どんなに助けたいと望んでいてもまだ子どもであるうちは自分のことで精一杯で、それ以外のことは何もかも「片手間」にしかできません。
「体育座り」という描写が含まれているのも、そうした彼の幼さや非力さを物語っているように思えます。
「畳の香ばしい匂い」は主人公の思い出が詰まった家を指していて、懐かしい記憶と結びついている場所と解釈できるでしょう。
しかしそこは「もうひとけのない部屋」になっていて、大切な場所が失われつつあることを感じさせます。
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スーパーの曲がり角 歩いた
秘密のはなし そんな帰り道が
恋しくなってしまうから
願うもんね 夢なんかじゃなくて
君の合図 歩き方で気づくよ
もう ひとけのない部屋
≪消えてしまいそうです 歌詞より抜粋≫
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記憶を辿れば、何気ない日々が思い出されます。
こっそり「秘密のはなし」をして歩いた帰り道が恋しくなってしまうのは、そこに一緒にいた「君」がもうそばにいないから。
あの頃はその足音を聞くだけで「君」だと分かるくらい一緒にいた人です。
「助けたい」と思っていたのもこの人のことでしょう。
そして夢見るよりもさらに確かな気持ちで、またあの頃のような関係に戻りたいと願っているように思えます。
ひとり取り残された未熟な僕
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柔らかな緑は ただ
僕を やり直させようと必死で
ままごとを続けた
木を ねぇどうしたいんだ
ああ 今日が
≪消えてしまいそうです 歌詞より抜粋≫
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部屋は誰もいなくなってしまいましたが、周囲の植物や風景はあの頃のまま。
だから失敗してしまった「僕をやり直させよう」としていると思えてきます。
その中で主人公は「ままごと」をするかのような日々を過ごしています。
「木」は文字通りの木々と、主人公自身を指す「僕」をかけていると考察できるでしょう。
やり直させようと働きかけてくる風景と自分自身に「どうしたいんだ」と問いかけています。
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君の吸い込んだ空気で
消えてしまいそうです
未完成で 低姿勢で 気持ち任せです
乱暴に手を振った 気配に負けそうです
君のSOSは 僕のものって 思い込んだ夏
≪消えてしまいそうです 歌詞より抜粋≫
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サビの「君の吸い込んだ空気で消えてしまいそうです」というフレーズは、主人公と「君」との差を表しているのではないでしょうか。
「君」はもう前を向いているのに、主人公は過去に取り残されていて今にも消えてしまいそうです。
「未完成で低姿勢で気持ち任せ」なのも、自身の未熟さを表現していると思われます。
手を掴もうとした時に「君」が「乱暴に手を振った気配」を感じ、二人の関係は変わってしまったのだと痛感したようです。
「君のSOSは僕のものって思い込んだ夏」のフレーズから、「君」を助けるのは自分でありたいと願う主人公のエゴのような気持ちが伝わってきます。
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屋上から一番近い階段あははって
簡単に放り投げた哀傷論
表したところでだって
どうにもならない
成長も儘ならない
8月9月育っては生滅
もう 行き場のない部屋=僕
≪消えてしまいそうです 歌詞より抜粋≫
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この部分からは、団地の屋上近くの階段を駆け上がる子どもたちの賑やかな雰囲気が想像できますね。
「哀傷」とは心に深く感じて物思いに沈むことを指す言葉です。
「簡単に放り投げた」とあるので、悲しいことやつらいことをすぐ忘れてしまう子どもの明るい性格が感じ取れます。
「8月9月育っては生滅」のフレーズは、夏の時期に生き生きと成長する植物も時が経てば枯れてしまうことを指していると解釈できます。
そして同時に、限界のある自分自身のことも重ねているのでしょう。
大切な場所がなくなっていくように、楽しい時間もいつか消えてしまいます。
取り残された「行き場のない部屋」は、まるで思い出の中に立ち尽くしている「僕」自身のようです。
本心と向き合って初めて気づく恋心
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柔らかな緑は ただ
僕を やり直させようと必死で
ままごとを続けた
木を ねぇどうしたいんだ
自由は 強打
≪消えてしまいそうです 歌詞より抜粋≫
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「自由は強打」という言葉は、自由の厳しさを表現しているのかもしれません。
子どもの頃はある程度自由が許されていますが、好き勝手に行動したせいで激しく叩きつけられるような衝撃を受けることもあるでしょう。
自由は魅力的なようで、振る舞いには責任が伴うということを理解したと考えられます。
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巻き込めないよ 回り込めない夜更けは
眉唾の眼で張り裂けそう 弱いんだよ
無理に笑うように変わった あの日から
気づいてたのに
時空は 遠に先走ってゆくよ 僕の前を
ねぇどうしたいんだ
今日が 何度目の季節だった
≪消えてしまいそうです 歌詞より抜粋≫
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今は夜を過ごしているかのように暗い気持ちで悩んでいます。
早く大人になって抜け出したいと思っても、夜明けに先回りすることができないように少年の時期を飛び越えることはできません。
続く「眉唾」はだまされないように用心することを意味します。
それで「眉唾の目で張り裂けそう」という表現は、周囲を疑いの目で見てしまう自分の弱さに胸を痛めている様子を示していると考察しました。
「君」がある日から「無理に笑うように変わった」ことに気づいていながら、何もできなかった自分。
そしてそこから変わることができないまま、時間は過ぎて季節が巡っていきます。
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もう吸い込んだ空気で
認めてしまいそうです
未完成で 低姿勢で 気持ち任せです
乱暴に手を振った 気配に負けそうです
僕のSOSは 君のものって 思い込みたい夏
≪消えてしまいそうです 歌詞より抜粋≫
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今度は自分も深呼吸をしてみて、やっと本心を認めることができるようになりました。
まだ大切な人を助けてあげられるような強くて頼れる存在ではありません。
相手に少し強く当たられたような気がしただけで、嫌われたのではないかと怖くなってしまうようなか弱い子どもなのです。
そんな主人公は自分が助けたいと願っていた一方で、「君」に助けてもらいたいとも思っていました。
ヒーローになりたかったのではなく、困った時に駆けつけてあげたいと思い合える関係になりたいという愛情の表れと言えるでしょう。
初めての恋心に気づいた時の初々しさと痛みが垣間見える歌詞に引き込まれます。
ずとまよらしい奥深い青春ソングが誕生!
ずっと真夜中でいいのに。の『消えてしまいそうです』は、夏らしい爽やかな音楽と気持ちを注ぎ出すような歌詞がマッチした青春ソングです。誰もが成長の過程で感じる歯がゆさや、もどかしさといった感情を懐かしく思い出せるのではないでしょうか。
ぜひ映画のストーリーとのリンクに注目して、歌詞の意味をさらに深く考察してみてくださいね。
ずっと真夜中でいいのに。は作詞・作曲・ボーカルのACAねによる、特定の形をもたない音楽バンド。 YouTubeチャンネル登録数175万人を超え、YouTubeの総再生回数は4.2億回、初投稿楽曲「秒針を噛む」は現在9,500万回再生を突破。 1st mini ALBUM『正しい偽りからの起床』は第11回CDショップ大···