新海誠監督最新作「すずめの戸締まり」主題歌に注目
2022年11月11日より全国公開の新海誠監督の3年ぶりとなる新作長編アニメーション映画『すずめの戸締り』は、日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる“扉”を閉めていく旅をする少女の解放と成長を描く冒険物語です。ヒロインの岩戸鈴芽役を人気沸騰中である若手俳優の原菜乃華が、ヒロインと共に旅をする「閉じ師」の青年・宗像草太役を声優初挑戦となるSixTONESの松村北斗が担当しています。
海外からも注目を集めている本作の音楽は、今回が三度目のタッグとなるRADWIMPSが担当。
なかでも主題歌『すずめ』は、映画の世界観を引き立てる幻想的な雰囲気に引き込まれます。
歌唱を務めているのはTikTokで人気の女性ヴォーカル・十明(とあか)で、野田洋一郎が「この楽曲と十明の間に、誰も割って入ることのできない結びつきを感じた」と絶賛する唯一無二の歌声を披露。
繊細かつ力強く歌い上げられる歌詞の意味を考察していきましょう。
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君の中にある 赤と青き線
それらが結ばれるのは 心の臓
風の中でも負けないような声で
届ける言葉を今は育ててる
≪すずめ feat. 十明 歌詞より抜粋≫
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冒頭の「君の中にある赤と青き線」という言葉は、血管のことを指しているのでしょう。
続く「それらが結ばれるのは心の臓」のフレーズからも、心臓を中心に働く赤い動脈と青い静脈を意味していると分かります。
ここでは人の命や生命力について取り上げていると解釈できます。
また赤と青という色から、人の心には激情のような本能とそれを制する理性が共存していることを示しているとも考えられそうです。
正反対の働きをするものを内に秘めた人間は、神秘的で尊い存在であることを感じさせます。
強い「風の中」では人の声が掻き消されてしまうように、困難な状況の中では人と思いを通わせることが難しくなります。
だからそんな状況の中でも消えないように、主人公は「届ける言葉を今は育ててる」段階です。
これからやって来る“災い”に備えてできることをしたい、という強い心が垣間見えます。
人生は儚く尊いもの
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時はまくらぎ 風はにきはだ 星はうぶすな 人はかげろう
≪すずめ feat. 十明 歌詞より抜粋≫
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この楽曲の中で特に印象的なのがこの歌詞です。
まず「まくらぎ(枕木)」とは、線路の下に敷き並べて線路を支える角材やコンクリートの棒のこと。
等間隔に並べられるものであることから「時はまくらぎ」は、時が一定の間隔で着実に進んでいくことを表しているのではないでしょうか。
「にきはだ(和肌・柔膚)」は柔らかな肌のことなので、「風はにきはだ」の表現で吹く風が柔らかいように今は穏やかな状況だと考察できます。
「うぶすな(産土)」はその人が生まれた土地のことを指す言葉です。
人は亡くなると星になり星が死ぬと人になるという一説があり、「星はうぶすな」はそうした人の一生のことを表現しているのかもしれません。
「人はかげろう(蜉蝣)」は寿命の短い蜉蝣のように、人の命も儚いものであることを示していると思われます。
これらの点をふまえると、刻一刻と進んでいく時の中で人は儚い命を燃やしながら懸命に今を生きているということを伝えているように感じます。
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なんで泣いてるのと聞かれ答えれる 涙なんかじゃ
僕ら出逢えたことの意味にはまるで 追いつかない
この身ひとつじゃ 足りない叫び
≪すずめ feat. 十明 歌詞より抜粋≫
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この部分では鈴芽と草太の出会いの意味について歌っています。
懸命に生きる人々を襲う悲しみは「なんで泣いてるのと聞かれ」明確に理由を答えられるような単純な悲しみではありません。
もっと大きくて複雑に絡み合う悲しみだからこそ、そんな人々を救うために二人は出会ったというストーリーが見えてきます。
その叫びに太刀打ちするには「この身ひとつじゃ足りない」から、二人で力を合わせる必要があったのだと考えられます。
正しさのその先で君と手を取りたい
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君の手に触れた時にだけ震えた 心があったよ
意味をいくつ越えれば僕らは辿り つけるのかな
愚かさでいい 醜さでいい 正しさのその先で 君と手を取りたい
≪すずめ feat. 十明 歌詞より抜粋≫
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主人公は相棒となった「君の手に触れた時にだけ震えた心」にかすかな喜びを覚えているようです。
いわば運命共同体となった二人は、互いの存在を自分自身を支える大切なものだと感じているのかもしれません。
しかし、手を取り合って進む先でぶつかる困難の大きさに、圧倒されそうになることもあるのでしょう。
いくつ困難を乗り越えれば、求める結末に辿りつけるのだろうかと不安も抱きます。
それでも自分たちの行動が、たとえ愚かでも醜くてもいいと考えます。
正しくあることが必ず良いとは限りません。
ただ最後まで手を取り合って進みたいのだと、同じ気持ちを持って協力することの大切さを伝えています。
悲しみを乗り越えるためには、人との繋がりが不可欠であることを表しているように思われます。
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思い出せない 大切な記憶
言葉にならない ここにある想い
もしかしたら もしかしたら
それだけでこの心はできてる
もしかしたら もしかしたら
君に「気づいて」と今もその胸を
打ち鳴らす
≪すずめ feat. 十明 歌詞より抜粋≫
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はっきりと思い出せないのに、なぜか大切に思っている記憶はありませんか?
人の記憶は薄れゆくものですが、その時の感動や感情だけは不思議と覚えていることがあります。
また、誰しも言葉では言い尽くせない様々な想いを抱えています。
ここでは人の心がそういった内から湧き出るような気持ちでできていると歌っているようです。
人々が感じる悲しみは悪意から生じる場合も少なからずありますが、人の心の根底にあるのはそんな魅力的な感情なのだと表しているのかもしれません。
そして、心の中の感情が自分自身にその存在を訴えかけてきます。
血液を循環させるための心臓の鼓動は、もしかしたらそうした想いが「気づいて」と主張する音なのかもしれません。
自分の中にある気持ちを大切にして困難に立ち向かおうとする姿が素敵ですね。
人生と向き合う感動ソングに魅了される!
RADWIMPSの『すずめ』は、映画のストーリーとリンクさせつつ人としてどう生きるかを考えさせられる楽曲です。人間関係の繋がりが薄くなっている今の時代にこそ忘れたくない人との出会いの意味や、自分自身と向き合うことの大切さを思い起こさせてくれます。
映画の壮大な世界と共に流れる美しい音楽と歌声をじっくり堪能してください。